「ここだけなのよねえ」
~醤油をめぐる気持ち~
1 「そうだったのか」
車でも吹き飛ばされそうな豪雨の中をいわきに着いた。着いたらまず、旅館「ふじ滝」で新聞を見るのが日課だ。
「中間貯蔵運搬『不安』75,3%」
こんな見出しが飛び込んできた。『福島民報』の県民世論調査結果が、この日のトップニュースだ。高線量廃棄物(はいきぶつ)は3500万トンで、十トンダンプを使った場合、三年間で運搬を終えるためには、一日三千台が必要になるという。ダンプの渋滞(じゅうたい)はもとより、事故によって放射能が拡散(かくさん)する、という不安を県民のほとんどが持っている、というニュースだった。ちなみに次の日の『福島民友』のトップは、
「常磐道 楢葉IC18年開設へ」
だった。覚えているだろうか。安倍首相は東日本大震災から3年目を迎(むか)えるその前日に、
「常磐道全線開通を『来春まで』」
と、記者会見で表明した。私は高線量の「帰還困難区域」ど真ん中を、そのままのルートで高速道路を再開するという、会見での発言を、あの時信じられない思いで聞いた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/91/63ad26527f0f31889cfdbf3d8eca5dd0.jpg)
写真がこの『民友』の記事である。携帯では分からないと思うが、第一原発の双葉・大熊町の開通は、来年のゴールデンウィークとなっている。安倍首相の見通しの通りだ。その再開工事も高線量下でされるはずなのだ。開通後、今度は、
「高速で通り過ぎれば怖くない」
ということなのだろうか。
この間の首都圏のトップニュースは、都議会やじ/憲法解釈/ワールドカップ/脱法ハーブだった。もちろん『民報』も『民友』も、それらを掲載(けいさい)している。しかしやはり、この違いに驚く自分なのだった。
2 「お茶やってったら」
プールの始まったすぐ隣の東小学校から、黄色い歓声(かんせい)が響いてくる。この日は夏を思わせるような日差しだった。
「日焼けを心配するような年でもないでしょ」
麦わら帽子とタオルで「完全武装」したおじちゃんに、受け付けの彼女が言うもので、
「ショックだなあ」
と、配布の手伝いをしてくれるおじちゃんが笑う。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/50/d34503ed237077627255f5eeb2226bb9.jpg)
お醤油を乗せたこの台車なのだが、そのおじちゃんが作ったものだ。板金の工場に勤めていたおじちゃんは、手が空(あ)くといろいろなものを作っていた。
「でも、津波でみんな流されちまった」
そして、この台車だけが高いところに置いてあって、
「これだけ引っ張って逃げたんだよ」
と言う。頑丈な造りの台車は、二百個近い醤油を乗せた。
ちょうど医者帰りのところだったり、外にいたりという人には、おしゃべりしながらそこで渡せる。最近、銘柄(めいがら)やパッケージを見て選ぶ人が増えた。外だと段ボールの中を見られる。キッコーマンがいい、また反対に嫌だのと、楽しそうだ。
「千葉の人?」
「千葉は醤油が美味しいのよねえ」
「いつもありがとうございます」
のいろいろな声。
「ホントにいいんですか」
と言うのは新しく引っ越して来た人。その中、
「ここだけなのよねえ」
という声。入り口の奥を見ると、この部屋の友だちなのだろう、
「私は大熊なのよ」
と、笑いながらその人が言うのだった。
大熊の人が「醤油を」と言うのか、と私は思う。支援の「醤油一本」が持つ意味をあらためて考えてしまう。やはり「たかが醤油一本」ではない。
半分を配り終えたあたりで、さっき道で渡したおばちゃんが追いかけて来る。
「部屋にもどったら部屋にもあったんだよ」
と言う。返しに来たのだ。
部屋の奥からおばちゃんがゆっくり出てくる。
「お茶やってったら」
「っても、今日は無理げ?」
ご近所さんが、奥で笑っている。
そしてまた、昨年の暮れのあの夫婦の部屋を再び訪(おとず)れることが出来た。床に額(ひたい)をすりつけてお味噌のお礼を叫んだあの時の夫婦は、よく見たら親子だった。
「いくらですか」
私が醤油のお届けを告(つ)げると、年老いた息子さんはそう言うのだった。定期的にしている支援ですから、と私は答える。その後、暮れの時とまったく同じことが起こった。私はまたしてもあわててそこを立ち去りそうになった。でも、次の日が東京からお医者さんのやってくる日だということを思い出した。
「なにか心配なことがあったら、相談するといいですよ」
いいお医者さんですから、と言えた。よかった。
☆☆
「おかげさまで売れ行きはいいよ」
と、広野の人たちが、お米のことを言ってました。でも、まだスーパーに置くまでにはなっていないということなのです。たった50ベクレルということで、
「この辺の人たちは山菜も食べてるんだよ」
と、さばけた様子で、そんなことも話してくれました。
☆☆
マー君、負けました! 残念。クウォリティスタートとやらで、マー君はすごい新記録を刻(きざ)んだようですが、いやあ悔しい。ホームラン二本で取られた二点。それに今日のヤンキースはまったく打てませんでした。たったの一点は、ヒットなしで取ったんじゃなかったっけか。う~ 残念。
なんか、さんまが言ったとかいう「にわかファン」が話題になってますね。日本のサッカー熱に対するコメントだったらしい。「別ににわかだろうが、いいじゃないか」というのがおおかたの反論らしいですね。まったく事情は知りませんが、さんまは選手の大変さを思って言ったのではないか、と勝手に思っています。
それにしても、評論家ってヤですねえ。結果が出てから言うもんで、自分は絶対傷つかない。いい気なもんですよ。初めから言えよ、ですね。
☆☆
予定通りこのブログ、次回からは週一回、金曜日の発行とします。今後ともご愛読のほど、よろしくお願いします。
~醤油をめぐる気持ち~
1 「そうだったのか」
車でも吹き飛ばされそうな豪雨の中をいわきに着いた。着いたらまず、旅館「ふじ滝」で新聞を見るのが日課だ。
「中間貯蔵運搬『不安』75,3%」
こんな見出しが飛び込んできた。『福島民報』の県民世論調査結果が、この日のトップニュースだ。高線量廃棄物(はいきぶつ)は3500万トンで、十トンダンプを使った場合、三年間で運搬を終えるためには、一日三千台が必要になるという。ダンプの渋滞(じゅうたい)はもとより、事故によって放射能が拡散(かくさん)する、という不安を県民のほとんどが持っている、というニュースだった。ちなみに次の日の『福島民友』のトップは、
「常磐道 楢葉IC18年開設へ」
だった。覚えているだろうか。安倍首相は東日本大震災から3年目を迎(むか)えるその前日に、
「常磐道全線開通を『来春まで』」
と、記者会見で表明した。私は高線量の「帰還困難区域」ど真ん中を、そのままのルートで高速道路を再開するという、会見での発言を、あの時信じられない思いで聞いた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/91/63ad26527f0f31889cfdbf3d8eca5dd0.jpg)
写真がこの『民友』の記事である。携帯では分からないと思うが、第一原発の双葉・大熊町の開通は、来年のゴールデンウィークとなっている。安倍首相の見通しの通りだ。その再開工事も高線量下でされるはずなのだ。開通後、今度は、
「高速で通り過ぎれば怖くない」
ということなのだろうか。
この間の首都圏のトップニュースは、都議会やじ/憲法解釈/ワールドカップ/脱法ハーブだった。もちろん『民報』も『民友』も、それらを掲載(けいさい)している。しかしやはり、この違いに驚く自分なのだった。
2 「お茶やってったら」
プールの始まったすぐ隣の東小学校から、黄色い歓声(かんせい)が響いてくる。この日は夏を思わせるような日差しだった。
「日焼けを心配するような年でもないでしょ」
麦わら帽子とタオルで「完全武装」したおじちゃんに、受け付けの彼女が言うもので、
「ショックだなあ」
と、配布の手伝いをしてくれるおじちゃんが笑う。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/50/d34503ed237077627255f5eeb2226bb9.jpg)
お醤油を乗せたこの台車なのだが、そのおじちゃんが作ったものだ。板金の工場に勤めていたおじちゃんは、手が空(あ)くといろいろなものを作っていた。
「でも、津波でみんな流されちまった」
そして、この台車だけが高いところに置いてあって、
「これだけ引っ張って逃げたんだよ」
と言う。頑丈な造りの台車は、二百個近い醤油を乗せた。
ちょうど医者帰りのところだったり、外にいたりという人には、おしゃべりしながらそこで渡せる。最近、銘柄(めいがら)やパッケージを見て選ぶ人が増えた。外だと段ボールの中を見られる。キッコーマンがいい、また反対に嫌だのと、楽しそうだ。
「千葉の人?」
「千葉は醤油が美味しいのよねえ」
「いつもありがとうございます」
のいろいろな声。
「ホントにいいんですか」
と言うのは新しく引っ越して来た人。その中、
「ここだけなのよねえ」
という声。入り口の奥を見ると、この部屋の友だちなのだろう、
「私は大熊なのよ」
と、笑いながらその人が言うのだった。
大熊の人が「醤油を」と言うのか、と私は思う。支援の「醤油一本」が持つ意味をあらためて考えてしまう。やはり「たかが醤油一本」ではない。
半分を配り終えたあたりで、さっき道で渡したおばちゃんが追いかけて来る。
「部屋にもどったら部屋にもあったんだよ」
と言う。返しに来たのだ。
部屋の奥からおばちゃんがゆっくり出てくる。
「お茶やってったら」
「っても、今日は無理げ?」
ご近所さんが、奥で笑っている。
そしてまた、昨年の暮れのあの夫婦の部屋を再び訪(おとず)れることが出来た。床に額(ひたい)をすりつけてお味噌のお礼を叫んだあの時の夫婦は、よく見たら親子だった。
「いくらですか」
私が醤油のお届けを告(つ)げると、年老いた息子さんはそう言うのだった。定期的にしている支援ですから、と私は答える。その後、暮れの時とまったく同じことが起こった。私はまたしてもあわててそこを立ち去りそうになった。でも、次の日が東京からお医者さんのやってくる日だということを思い出した。
「なにか心配なことがあったら、相談するといいですよ」
いいお医者さんですから、と言えた。よかった。
☆☆
「おかげさまで売れ行きはいいよ」
と、広野の人たちが、お米のことを言ってました。でも、まだスーパーに置くまでにはなっていないということなのです。たった50ベクレルということで、
「この辺の人たちは山菜も食べてるんだよ」
と、さばけた様子で、そんなことも話してくれました。
☆☆
マー君、負けました! 残念。クウォリティスタートとやらで、マー君はすごい新記録を刻(きざ)んだようですが、いやあ悔しい。ホームラン二本で取られた二点。それに今日のヤンキースはまったく打てませんでした。たったの一点は、ヒットなしで取ったんじゃなかったっけか。う~ 残念。
なんか、さんまが言ったとかいう「にわかファン」が話題になってますね。日本のサッカー熱に対するコメントだったらしい。「別ににわかだろうが、いいじゃないか」というのがおおかたの反論らしいですね。まったく事情は知りませんが、さんまは選手の大変さを思って言ったのではないか、と勝手に思っています。
それにしても、評論家ってヤですねえ。結果が出てから言うもんで、自分は絶対傷つかない。いい気なもんですよ。初めから言えよ、ですね。
☆☆
予定通りこのブログ、次回からは週一回、金曜日の発行とします。今後ともご愛読のほど、よろしくお願いします。