絆-地元
「くさの根」リニュアール
「くさの根」は今、店の中央に太い柱が立ったようになっていて、店内スペースを大きく削っている。「二階を建て増し」の改装中で、その「柱」は階段になるという。二階はレストランにするのだ。
「今度から車で飲んじゃったら、そのまま二階の畳で寝ちゃってもいいのよ」
そう女将さんが笑って言う。レストランが始まっても今のスタッフの人数でやっていくというのだ。気がつくとレジのそばに、「○○さんの手焼きのクッキー・アップルパイ」とかいうコーナーがまたしても増えている。隣にはジャム、ドレッシングだ。ここは魚はもちろんのこと、野菜や手芸品まで売るコーナーがある。しかし、よく見ると魚以外はすべて個人が販売元で、ここの女将さんをあてにしてか、女将さんが拾って来るのかどっちか良く分からないが、女将さんのネットワークという印象だ。彼女は休日でもじっとしていない。あちこちで売り込んだり、予約を引き受けたりしてくる。そんなこんなで今度は「二階にレストラン」だ。その二階への階段となるところに、大きなポスターが貼ってある。落語家の三遊亭…だった。来月13日のリニュアールオープンの記念イベントだという。
昨年の5月、震災から2カ月が過ぎて、20ページほどの月刊『ふるさとだより』(いわきエリア)が発行された。今月号に女将さんの記事が載っている。当時、道の駅に店を出していた女将さんが、そこから避難する時に置き去りにしかけた「パンダ(もちろん愛称。写真ではウサギに見える)」を取りに戻った話をしている。パンダを軽トラに乗せて走り出したが、その時は近くの側溝から水があふれてきた、という話だ。
この日の夜、私とニイダヤ水産社長は、この「くさの根」で日替わり定食(煮魚)を頼んだ。今日は赤魚ですよ、と言われた。嬉しい。じっくり煮込んだ、かどうか分からない。火からのあげ際が難しいのであるから。まあとにかく味のよくしみ込んだ鯛のような見かけの赤魚は、私が尻尾で社長はお腹の部分であった。少し残念。そこに秋刀魚・ヒラメ・鯛の三点盛りと、香の物・サラダがつく。味噌汁は若布と油揚げ、もやしだった。これで1000円だ。社長さんはいつもサラダとお新香をまったく食べない。噛めないかららしい。
板さんが厨房から顔を出して、試しに作ったんで食べてみてください、とサービスでだしてくれたものは、肉らしきものとゆで玉子を海苔で巻いたものだった。肉は実にあっさりとしたチャーシューだったのだが、
「ラーメンをイメージしながら作ったんです」
と板さんが解説。確かにラーメンの具を握ったものだった。美味しい。
二人して震災からの成り行きを話してくれた。板さんはホテルサザンの展望レストランの板長。震災後、工場が流され自宅が全壊して途方にくれていたニイダヤ社長のところに、ホテルのオーナーが電話をくれたという。
「今、何やってんだ?」
オーナーはニイダヤのお得意さんだったのだ。そうしてニイダヤの社長さんは避難所となったホテルの受付をやることとなった。本当ならオーナーは恩人だが、その後がよくなかったらしい。そのオーナーも今は他界している。
サザンの仕事場の人間としては大先輩の板長だが、人生の大先輩であるニイダヤ社長にホテルでずいぶん相談役になってもらったという。昨年の夏、ホテルの屋上にあった4トンのお風呂用お湯の入ったタンクから、突然すべての中味が下に落ちて、ホテル中が「お湯浸し」になった。真夜中だった。地震で弱っていたのが、なにかの拍子に壊れたらしい。この時も二人は後始末と再生に奔走した。
そして最初はまったくやる気のなかった干物工場も、この避難所(ホテル)を訪れた新潟の大学生や、多くの支援者に背中を押されて社長さんが腰をあげる。また、ワゴン車であちこち回って魚を売りさばいていた後の「くさの根」の女将さんがここサザンにもやってきて、板さんに「くさの根」の助っ人に、と声をかける。避難所としてのサザンが閉鎖される少し前、二人はホテルを出た。
私は干物の値段で悩む社長さんの相談役として、板さんに白羽の矢を立ててみた。板さんはホテルに雇われる前、自分の店を構えていたからだ。しかし、
「難しいですね」
と板さんは言う。地元の人とは、お互い顔や気心が知れている。そして原材料の「相場」も分かっている。そこに加工や調理といった「技」の値段をつけるのが難しいという。また、加工品をスーパーに出そうとすれば、そこには3~4割のスーパーの持ち分を計算に入れないといけない。道の駅だとその割合がだいぶ減るらしい。生産者がもうけるのは大変だ。よくいう、築地にみんな流れるとか、観光バスで市場に寄っていく客がお金を落としていく、とかいうことがずいぶん納得出来る話だった。ちなみに、この「くさの根」にさえ「ニイダヤ」は品を出せない。ここ「くさの根」でも店のスタッフが干物をやっているからだ。メニューに出し、売り物として店先にだしているからだ。
「始まってまだ一カ月。不安ばっかりだよ」
社長さんは背を伸ばした。
様々な混乱
今月3日に、放射性廃棄物が8000ベクレル/㎏を越える廃棄物(以下、指定廃棄物と表記)の最終処分場に栃木県の矢板市が候補地としてあげられ、一昨日は茨城県高萩市が名前を連ね、その後各地は一斉に反対の火蓋を切ったという印象である。しかし、私たちの方にずいぶんと混乱があるようだ。
今年の3月に出された「指定廃棄物の今後の処理方針」によれば、
・指定廃棄物の処理は当該指定廃棄物が排出された都道府県内で行い
・既存の廃棄物処理施設の活用を最優先とする
・既存の廃棄物処理施設活用は…3年程度を目途として、(その間に)最終処分場を確保
・指定廃棄物の最終処分場を新たに建設する必要がある場合には、都道府県内に集約して設置
とある。つまり、放射性廃棄物が発生した場所で処分ということだ。
・福島県の廃棄物が他県に送られる
・被災地すべての指定廃棄物が選定された場所に送られてくる
と思っている人がずいぶん多いが、それは誤りなのだ(ただし一点目は半分あっている)。指定廃棄物の最終処理場は関係都県すべてに出来るということだ。ただし、環境省が出した報告によれば東京と岩手に関しては放射線量が低いため、既存の施設で対応が可能だという。繰り返すが、宮城・栃木・群馬・千葉・埼玉には最終処分場が出来る。そこに各県内で排出された指摘廃棄物が送られるのだ。
では福島はどうなっているのか。まず最初に、
「廃棄物は原発のあるところに持っていけばいい」
という勝手な勘違い。
あそこは原発を廃炉中なのだ。廃炉にしないと、その間は再臨界・爆発する可能性を持っているのが原発である。ゴミ捨て場に出来るかどうかはそれからの話だ。廃炉まで30年、それまでは福島の原発立地点はマグマの状態だと思っていた方がいい。どっかの首相は「収束宣言」をしたのだが。
福島はすでに「中間貯蔵施設」が、大熊・双葉・楢葉の3町12地区に候補地が選定されている。そこに10万ベクレル/㎏超の廃棄物が、30年の期限内という期限で保存される予定だ。この中間貯蔵施設は他県にはない。福島にだけある。そして、30年後の最終処分場は「県外」と決まっている。このタイミングでは「福島県のゴミ」が他県に送られる、という見解はあっている。この時福島県のゴミも5万ベクレル/㎏以下に減少していようが。また、他県の最終処分場に集結したゴミの線量も半減してはいる。
また、最終処分場の候補地として選定された自治体の長が「寝耳に水」を繰り返していたのがニュースとなっていた。しかし、議会の様子を見聞きすると、選定の作業に自治体は立ち会っている。
やはり、ニュースは眉に唾をつけながら、成り行きは冷静に見極めないといけない。
☆☆
この最終処分場のことで仲間と話しました。原発事故発生以来ずっと「安全」「ただちに健康への影響はない」と言い、そしてまた言いますが「収束宣言」をした国・政府です。だったら永田町に最終処分場を建設するのはどうか、と真顔で話しました。
それにしても、細野原発相は「福島のことがあるから」として党の代表選にでなかったというのに。福島の人たちの失意は相当なものでした。
☆☆
秋のドラマが始まりますね。あの『誰も知らない』の監督・是枝裕和がとる『ゴーイングマイホーム』には、阿部寛と、8年前だったかの『向田邦子の日記』以来ではないかと思われる山口智子、そして宮崎あおいが出演だとか。そそりますね。今度は月9なんてみません。
「くさの根」リニュアール
「くさの根」は今、店の中央に太い柱が立ったようになっていて、店内スペースを大きく削っている。「二階を建て増し」の改装中で、その「柱」は階段になるという。二階はレストランにするのだ。
「今度から車で飲んじゃったら、そのまま二階の畳で寝ちゃってもいいのよ」
そう女将さんが笑って言う。レストランが始まっても今のスタッフの人数でやっていくというのだ。気がつくとレジのそばに、「○○さんの手焼きのクッキー・アップルパイ」とかいうコーナーがまたしても増えている。隣にはジャム、ドレッシングだ。ここは魚はもちろんのこと、野菜や手芸品まで売るコーナーがある。しかし、よく見ると魚以外はすべて個人が販売元で、ここの女将さんをあてにしてか、女将さんが拾って来るのかどっちか良く分からないが、女将さんのネットワークという印象だ。彼女は休日でもじっとしていない。あちこちで売り込んだり、予約を引き受けたりしてくる。そんなこんなで今度は「二階にレストラン」だ。その二階への階段となるところに、大きなポスターが貼ってある。落語家の三遊亭…だった。来月13日のリニュアールオープンの記念イベントだという。
昨年の5月、震災から2カ月が過ぎて、20ページほどの月刊『ふるさとだより』(いわきエリア)が発行された。今月号に女将さんの記事が載っている。当時、道の駅に店を出していた女将さんが、そこから避難する時に置き去りにしかけた「パンダ(もちろん愛称。写真ではウサギに見える)」を取りに戻った話をしている。パンダを軽トラに乗せて走り出したが、その時は近くの側溝から水があふれてきた、という話だ。
この日の夜、私とニイダヤ水産社長は、この「くさの根」で日替わり定食(煮魚)を頼んだ。今日は赤魚ですよ、と言われた。嬉しい。じっくり煮込んだ、かどうか分からない。火からのあげ際が難しいのであるから。まあとにかく味のよくしみ込んだ鯛のような見かけの赤魚は、私が尻尾で社長はお腹の部分であった。少し残念。そこに秋刀魚・ヒラメ・鯛の三点盛りと、香の物・サラダがつく。味噌汁は若布と油揚げ、もやしだった。これで1000円だ。社長さんはいつもサラダとお新香をまったく食べない。噛めないかららしい。
板さんが厨房から顔を出して、試しに作ったんで食べてみてください、とサービスでだしてくれたものは、肉らしきものとゆで玉子を海苔で巻いたものだった。肉は実にあっさりとしたチャーシューだったのだが、
「ラーメンをイメージしながら作ったんです」
と板さんが解説。確かにラーメンの具を握ったものだった。美味しい。
二人して震災からの成り行きを話してくれた。板さんはホテルサザンの展望レストランの板長。震災後、工場が流され自宅が全壊して途方にくれていたニイダヤ社長のところに、ホテルのオーナーが電話をくれたという。
「今、何やってんだ?」
オーナーはニイダヤのお得意さんだったのだ。そうしてニイダヤの社長さんは避難所となったホテルの受付をやることとなった。本当ならオーナーは恩人だが、その後がよくなかったらしい。そのオーナーも今は他界している。
サザンの仕事場の人間としては大先輩の板長だが、人生の大先輩であるニイダヤ社長にホテルでずいぶん相談役になってもらったという。昨年の夏、ホテルの屋上にあった4トンのお風呂用お湯の入ったタンクから、突然すべての中味が下に落ちて、ホテル中が「お湯浸し」になった。真夜中だった。地震で弱っていたのが、なにかの拍子に壊れたらしい。この時も二人は後始末と再生に奔走した。
そして最初はまったくやる気のなかった干物工場も、この避難所(ホテル)を訪れた新潟の大学生や、多くの支援者に背中を押されて社長さんが腰をあげる。また、ワゴン車であちこち回って魚を売りさばいていた後の「くさの根」の女将さんがここサザンにもやってきて、板さんに「くさの根」の助っ人に、と声をかける。避難所としてのサザンが閉鎖される少し前、二人はホテルを出た。
私は干物の値段で悩む社長さんの相談役として、板さんに白羽の矢を立ててみた。板さんはホテルに雇われる前、自分の店を構えていたからだ。しかし、
「難しいですね」
と板さんは言う。地元の人とは、お互い顔や気心が知れている。そして原材料の「相場」も分かっている。そこに加工や調理といった「技」の値段をつけるのが難しいという。また、加工品をスーパーに出そうとすれば、そこには3~4割のスーパーの持ち分を計算に入れないといけない。道の駅だとその割合がだいぶ減るらしい。生産者がもうけるのは大変だ。よくいう、築地にみんな流れるとか、観光バスで市場に寄っていく客がお金を落としていく、とかいうことがずいぶん納得出来る話だった。ちなみに、この「くさの根」にさえ「ニイダヤ」は品を出せない。ここ「くさの根」でも店のスタッフが干物をやっているからだ。メニューに出し、売り物として店先にだしているからだ。
「始まってまだ一カ月。不安ばっかりだよ」
社長さんは背を伸ばした。
様々な混乱
今月3日に、放射性廃棄物が8000ベクレル/㎏を越える廃棄物(以下、指定廃棄物と表記)の最終処分場に栃木県の矢板市が候補地としてあげられ、一昨日は茨城県高萩市が名前を連ね、その後各地は一斉に反対の火蓋を切ったという印象である。しかし、私たちの方にずいぶんと混乱があるようだ。
今年の3月に出された「指定廃棄物の今後の処理方針」によれば、
・指定廃棄物の処理は当該指定廃棄物が排出された都道府県内で行い
・既存の廃棄物処理施設の活用を最優先とする
・既存の廃棄物処理施設活用は…3年程度を目途として、(その間に)最終処分場を確保
・指定廃棄物の最終処分場を新たに建設する必要がある場合には、都道府県内に集約して設置
とある。つまり、放射性廃棄物が発生した場所で処分ということだ。
・福島県の廃棄物が他県に送られる
・被災地すべての指定廃棄物が選定された場所に送られてくる
と思っている人がずいぶん多いが、それは誤りなのだ(ただし一点目は半分あっている)。指定廃棄物の最終処理場は関係都県すべてに出来るということだ。ただし、環境省が出した報告によれば東京と岩手に関しては放射線量が低いため、既存の施設で対応が可能だという。繰り返すが、宮城・栃木・群馬・千葉・埼玉には最終処分場が出来る。そこに各県内で排出された指摘廃棄物が送られるのだ。
では福島はどうなっているのか。まず最初に、
「廃棄物は原発のあるところに持っていけばいい」
という勝手な勘違い。
あそこは原発を廃炉中なのだ。廃炉にしないと、その間は再臨界・爆発する可能性を持っているのが原発である。ゴミ捨て場に出来るかどうかはそれからの話だ。廃炉まで30年、それまでは福島の原発立地点はマグマの状態だと思っていた方がいい。どっかの首相は「収束宣言」をしたのだが。
福島はすでに「中間貯蔵施設」が、大熊・双葉・楢葉の3町12地区に候補地が選定されている。そこに10万ベクレル/㎏超の廃棄物が、30年の期限内という期限で保存される予定だ。この中間貯蔵施設は他県にはない。福島にだけある。そして、30年後の最終処分場は「県外」と決まっている。このタイミングでは「福島県のゴミ」が他県に送られる、という見解はあっている。この時福島県のゴミも5万ベクレル/㎏以下に減少していようが。また、他県の最終処分場に集結したゴミの線量も半減してはいる。
また、最終処分場の候補地として選定された自治体の長が「寝耳に水」を繰り返していたのがニュースとなっていた。しかし、議会の様子を見聞きすると、選定の作業に自治体は立ち会っている。
やはり、ニュースは眉に唾をつけながら、成り行きは冷静に見極めないといけない。
☆☆
この最終処分場のことで仲間と話しました。原発事故発生以来ずっと「安全」「ただちに健康への影響はない」と言い、そしてまた言いますが「収束宣言」をした国・政府です。だったら永田町に最終処分場を建設するのはどうか、と真顔で話しました。
それにしても、細野原発相は「福島のことがあるから」として党の代表選にでなかったというのに。福島の人たちの失意は相当なものでした。
☆☆
秋のドラマが始まりますね。あの『誰も知らない』の監督・是枝裕和がとる『ゴーイングマイホーム』には、阿部寛と、8年前だったかの『向田邦子の日記』以来ではないかと思われる山口智子、そして宮崎あおいが出演だとか。そそりますね。今度は月9なんてみません。