閑話休題
魚たちの居所
前号の「魚辺の漢字」にいくつかのリアクションがありまして、少し休憩がてら書いておこうと思い立ちました。
寿司屋に行って、湯飲みにズラッと並んだ「魚」の漢字を見て、ホホォと感心したり驚いたりしたことは誰しもあると思う。切り身を見て、それが魚の本体だと思う子どもたちが話題になり、子どもの魚離れなどと言われたりする。しかし、黒板に魚の名前を一杯に並べると、シンとした子どもたちは、その後騒然となり、あれはナニ、これはどう、という具合になる。これはやはり日本人が魚と深い所でつながっている、と思える瞬間である。
まずは寿司屋の湯飲みのように並べてみよう。
1 鰈
2 鮫
3 鯰
4 鰻
5 鰌・泥鰌
6 蛸・章魚
7 平目
8 鮒
9 雲丹
10 鰹
11 鮟鱇・鮟
12 鯖
13 柳葉魚
14 鮎・香魚・公魚
15 烏賊
16 鱸
17 鮪
18 海老・蝦
19 蛤
20 蜆
21 鮑
22 鰯
23 海豚
24 河豚
25 水母・海月
とりあえずこんな感じですが全部読めましたか。
実はこれらの魚たちはある程度ではあるが、しかるべき決まりに従って並べてみた。上から「6」番まで、カレイ、サメ、なまず、うなぎ、どじょう、たこ、である。これらは所謂「象形文字」を基本としている。魚辺がついているので、分類上は「会意文字」ということになるが、つくりは象形文字となっていると思われる。カレイのつくりの「葉」から草冠が取れているのは、植物ではありません、という強烈な主張である。いわずと知れた「柳川鍋」は、どじょうが主役となるので「柳」となるのだ。「柳の下にどじょうはいない」と言われてもこうなる。今の柳川鍋はどじょうを開いてしまうが、れっきとした老舗、浅草の「駒形どぜう」はもちろんどじょうが丸ごと入っている。
次の「11」番までは、正確には違うが「形声文字」と言われる。これらの漢字は、発音(音韻)に基づいて作られている。上から、ヒラメ、ふな、うに、かつお、アンコウとなる。このパソコンがボロいのか、まだ公認されていないのか、確かヒラメは魚辺に「平」でも良かったはずである。ウニは「赤い(丹)雲」をウニと発音させている。絶妙と思える。
「熟字訓」という世界がある。意味や発音(音韻)が先にあって、そこに漢字を当てたもので、いわゆる「当て字」と言われる所以だ。これを得意とした芥川龍之介の生み出した「五月蠅(うるさい)」は有名である。さて「15」番まで、サバ、シシャモ、あゆ、イカ、となる。あゆが淡水にたくさんいたものか、そんな漢字が当てられている。しかしひとつ「香魚」となっているのは、あくまでそれはある季節に限定されたあゆを指すらしい。春先のあゆの稚魚は独特の青臭い香りを出し、実に味わい深いそうだ。それでこの字が当てられていると思える。北大路櫓山人に言わせると、その後の大きくなったあゆは「もそもそしてて、味もそっけもない」(『櫓山人味道』)そうだ。旅やグルメのレポーターどもの「デカイ!」だの、「ホクホクしてる!」だのはダメなようだ。
「18」~「25」番までの、エビ(これは魚辺や虫辺に「老」をつけても同じだったはず)、ハマグリ、シジミ、アワビ、いわし、イルカ、フグ、クラゲも「熟字訓(当て字)」と思える。また「15」番のイカは、子どもたちとおおいに盛り上がるところだ。「どうしてカラスのゾクがイカなんだ!」「カラスの黒とイカ墨の黒は分かるけど…」という具合である。そうして16「鱸=スズキ」、17「鮪=マグロ」の不可解さへと進んでいく。魚がいいのは、この漢字に常に食卓がつきまとうからだ。
さて、この場合の「謎」は「魅力」のことであって、こんなところでも子どもたちは漢字の魅力にとりつかれる。
☆☆
出発前に出来そうだったので「魚」やってみました。これからはいよいよ寒ぶり(鰤)が旬ですね。氷見もいいけど、東北もおいしい鮟鱇があがります。
☆☆
橋下さん、当選しちゃいましたね。大丈夫かな。平松さん、大阪の文化を見直す試みを色々やってて良かったんだけどな。しばらくは様子見ですね。
☆☆
土曜日、劇団をやっている教え子の招待で、池袋まで観に行ってきました。死んだ親と自分をいつもみんなが比べるのが嫌でたまらない、という娘が「じゃ、君はお母さんが嫌いなの?」と言われて「和解」へ向かうのが印象的でした。
魚たちの居所
前号の「魚辺の漢字」にいくつかのリアクションがありまして、少し休憩がてら書いておこうと思い立ちました。
寿司屋に行って、湯飲みにズラッと並んだ「魚」の漢字を見て、ホホォと感心したり驚いたりしたことは誰しもあると思う。切り身を見て、それが魚の本体だと思う子どもたちが話題になり、子どもの魚離れなどと言われたりする。しかし、黒板に魚の名前を一杯に並べると、シンとした子どもたちは、その後騒然となり、あれはナニ、これはどう、という具合になる。これはやはり日本人が魚と深い所でつながっている、と思える瞬間である。
まずは寿司屋の湯飲みのように並べてみよう。
1 鰈
2 鮫
3 鯰
4 鰻
5 鰌・泥鰌
6 蛸・章魚
7 平目
8 鮒
9 雲丹
10 鰹
11 鮟鱇・鮟
12 鯖
13 柳葉魚
14 鮎・香魚・公魚
15 烏賊
16 鱸
17 鮪
18 海老・蝦
19 蛤
20 蜆
21 鮑
22 鰯
23 海豚
24 河豚
25 水母・海月
とりあえずこんな感じですが全部読めましたか。
実はこれらの魚たちはある程度ではあるが、しかるべき決まりに従って並べてみた。上から「6」番まで、カレイ、サメ、なまず、うなぎ、どじょう、たこ、である。これらは所謂「象形文字」を基本としている。魚辺がついているので、分類上は「会意文字」ということになるが、つくりは象形文字となっていると思われる。カレイのつくりの「葉」から草冠が取れているのは、植物ではありません、という強烈な主張である。いわずと知れた「柳川鍋」は、どじょうが主役となるので「柳」となるのだ。「柳の下にどじょうはいない」と言われてもこうなる。今の柳川鍋はどじょうを開いてしまうが、れっきとした老舗、浅草の「駒形どぜう」はもちろんどじょうが丸ごと入っている。
次の「11」番までは、正確には違うが「形声文字」と言われる。これらの漢字は、発音(音韻)に基づいて作られている。上から、ヒラメ、ふな、うに、かつお、アンコウとなる。このパソコンがボロいのか、まだ公認されていないのか、確かヒラメは魚辺に「平」でも良かったはずである。ウニは「赤い(丹)雲」をウニと発音させている。絶妙と思える。
「熟字訓」という世界がある。意味や発音(音韻)が先にあって、そこに漢字を当てたもので、いわゆる「当て字」と言われる所以だ。これを得意とした芥川龍之介の生み出した「五月蠅(うるさい)」は有名である。さて「15」番まで、サバ、シシャモ、あゆ、イカ、となる。あゆが淡水にたくさんいたものか、そんな漢字が当てられている。しかしひとつ「香魚」となっているのは、あくまでそれはある季節に限定されたあゆを指すらしい。春先のあゆの稚魚は独特の青臭い香りを出し、実に味わい深いそうだ。それでこの字が当てられていると思える。北大路櫓山人に言わせると、その後の大きくなったあゆは「もそもそしてて、味もそっけもない」(『櫓山人味道』)そうだ。旅やグルメのレポーターどもの「デカイ!」だの、「ホクホクしてる!」だのはダメなようだ。
「18」~「25」番までの、エビ(これは魚辺や虫辺に「老」をつけても同じだったはず)、ハマグリ、シジミ、アワビ、いわし、イルカ、フグ、クラゲも「熟字訓(当て字)」と思える。また「15」番のイカは、子どもたちとおおいに盛り上がるところだ。「どうしてカラスのゾクがイカなんだ!」「カラスの黒とイカ墨の黒は分かるけど…」という具合である。そうして16「鱸=スズキ」、17「鮪=マグロ」の不可解さへと進んでいく。魚がいいのは、この漢字に常に食卓がつきまとうからだ。
さて、この場合の「謎」は「魅力」のことであって、こんなところでも子どもたちは漢字の魅力にとりつかれる。
☆☆
出発前に出来そうだったので「魚」やってみました。これからはいよいよ寒ぶり(鰤)が旬ですね。氷見もいいけど、東北もおいしい鮟鱇があがります。
☆☆
橋下さん、当選しちゃいましたね。大丈夫かな。平松さん、大阪の文化を見直す試みを色々やってて良かったんだけどな。しばらくは様子見ですね。
☆☆
土曜日、劇団をやっている教え子の招待で、池袋まで観に行ってきました。死んだ親と自分をいつもみんなが比べるのが嫌でたまらない、という娘が「じゃ、君はお母さんが嫌いなの?」と言われて「和解」へ向かうのが印象的でした。