*写真は、今年7月に撮ったものです。
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経堂駅から徒歩18分、住宅街、桜小学校のそばに、
「セタガヤママ」という自然食のお店があります。
6畳位のログハウスを2軒ジョイントさせた小さなお店。
自然食の食品や有機栽培の野菜、
店主・正子さんの手作りのランチが人気のお店でした。
昭和50年代末、開店当初は、
店内で、1日数時間、ミニFM放送局つくり、発信していたとか。
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あれは昭和60年代の後半だったか、
わたしが初めて訪れた日、
お客の姿はなく、正子さん1人。
「いらっしゃいませ」
と言った声がくぐもっており、彼女は涙ぐんでいました。
初めて飛び込んだお店で事情がつかめないわたし。
困ったな、と思いつつも、
「どうなさったんですか?」とたずねたら、
西道路に面した窓辺に手招きし、
「明日、お隣のその桜の樹、切られちゃうんです。
敷地にマンションが建つんですよ。
小さいころから眺めてた、大好きな桜なんです。
今も、業者の人に、残す方向で考えてください、と言ってみたけど、
切らないとマンションが建たないって・・・。
40数年見てきた桜です。
もう、悲しくて・・・」
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「樹との別れのとき、
これは植木屋さんから聞いた話なんですけで、
お酒を根のまわりに撒いて、
「ありがとうございました」って、
お別れするといいと言ってましたよ。
送る人の自己満足かもしれませんけど」
すると、ぱっと、顔が明るくなり、
「じゃ、明日、職人さんが来る前にしてみます」
西向きの小さな窓辺に2人で並んで立ち、明日、伐採されることなど
なにも気がついていない
言葉を知らない
大きな桜の樹をながめていました。
大きいな、
どれだけ長い間、多くの人を楽しませてきたのだろう。
ながめているうち、わたしも、初めて見る桜なのに、
鼻がツンと痛くなりました。
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正子さんは、その日の印象通り、感受性の豊かな、
文学少女がそのまま大人になったような人でした。.
わたしは、それからときどき通うようになり、
お店でいろんな人と知り合い、経堂での友達もできました。
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正子さんは、約20数年、セタママを1人できりもりし、
集まる人たちの話を聞き、
背中を押したり、
くらしの知恵を与えたり、
子供を預かったり、
どこか教会や学校のような場をつくっていました。
しかし、
昨夏、病に倒れ、あっという間に他界。
お店は、
お嬢さんとそのお友達があとを引き継ぎ、1年半経ちましたが、
27日(土)、閉店することになったそうです。
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写真は、19日、当時の仲間が集まってのさよならパーティ。
12人集まりました。
手前は、引き継いでがんばってきたゆっこさん。
アイルランドに短期留学することになりました。
さよなら、セタガヤママ。
ありがとう、セタママ、正子さん。
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業者が正子さんのことを覚えてて桜を植えてくれたのかしら?
しかし、中央線大好きだったわたしが、経堂もいいな、と思うようになったのは、セタママのおかげのような気がしますねぇ。
この話から、たぶん二年近くたった頃、私が世田谷ママに行くと、正子さんが「今日はとってもうれしい事があったの!」と、幸せそうにしています。
聞けば、隣のマンションが完成し、その一角に木が植えられる事になって、それが「桜なんですって!」
その時のひょろっとした若木が、十数年を経て今では、立派な桜に成長しています。
時の流れは速いものですね。
世田谷ママもいろんな人の記憶の中に生き続ける
のでしょうね。