引頭佐知(いんどうさち)の料理ブログ

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だしが必要とされている!

2019年08月28日 | 出汁教室エピソード

だしをとって料理する教室

アーカイブNO,2

「だしが必要とされている!」


バブルの頃から長く続いた、手抜きで

つくれるカンタン料理ブーム。

「このままだと日本の家庭料理が伝わらなくなる」、

「基本の家庭料理を丁寧に伝える」というコンセプトで

「料理上手になる!」(NHK出版)という本を

2003年刊行。

 

その折、仙台本社の河北新報さんが

教室を取材してくださり、広告代理店

ライト・エージェンシー仙台支社さんから

仙台で「料理教室をしませんか」と

お声がけいただきました。

東北は仙台~松島へ、1人旅をしただけの

未知の地方。ぜひぜひ、とお受けしましたが

ひとつ条件があり、教室のタイトルは

「だしをとって料理する」と、

させていただきました。

 

昆布と削りかつおでとる「一番だし」。

天然の昆布の旨みは、グルタミン酸、

削りかつおは、イノシン酸

この2つの旨みが合わさったとき、

旨味の相乗効果で旨味が7~8倍になり

満足感の高い「だし」がとれるのです。

いつものお料理が7~8倍おいしくなれば、

家族の反応もちがいます。

こんなにおいしくなるのなら、と

料理に興味がわき、

暮らしのなかに食の比重が高くなり

暮らし方や身体にヘルシーな

変化がおとずれます。

 

<薄味になり減塩効果が得られる>

だしとり教室で、だしを飲まれた方は、

「おだしだけで、満足。

なにもいらないですね」と

感想を述べられますが、

実際、調理するとき、

余分の調味料を使いたくなくなります。

新鮮な青菜のおひたしなど、

ちょっぴり、お醤油を加える程度で

充分満足できます。

結果、

青菜の味、香り、色もたのしめます。

 

和食ならではの、食べることだけではない

諸々の広がり。

だしで、感じるようになります。

 

.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

わたしは、どんな教室にうかがっても、

強制されない限り、

いわゆる高い壇には登らず、

生徒さんと同じフロアに立ち、調理をします。

高いところに上がったのでは、わたしからの

一方通行ですし、生徒さんの貴重な声が

耳に入りませんから。

 

心に残る、教室エピソードNO.1

2005年、仙台から10数分の、

東北本線岩沼での教室でのこと。

生徒さんは、12~3人くらいの中高年女性と、

50歳前後のサラリーマン風の男性お1人。

女性のみなさんは、

毎月、そこの教室が主催している料理教室に

参加している方達で、リーダー格の方によると

「だしを取って料理する」

というのが初めてなので

申し込まれたとのことでした。

.

献立は、

きゅうりの生姜酢、

若竹煮

筍の炊き込みごはん、

筍の絹皮の吸物。

*絹皮ーー筍の上部のやわらかい部分。

.

だし取りをしているときは、みなさん静かでしたが、

調理がはじまると、

女性のみなさん、

わたしの調味料の量にご不満で、

調味料を加えるたびに、

「あらら、そんなもん?」

「あらららら、そんなちょっとの醤油?」

「あーー、だめだーー、とうさんも息子も箸つけね」

「あーー、これじゃ食わね、な」

「センセイ、醤油足りねんでねが。

薄ぐてだめだ。醤油さドバっと入れろ」

もう、文句タラタラ。

筍ごはんに蓋をして炊き始めたとき、

「こら、うまぐね」と、

1人の女性は、呆れ顔で退室されました。

.

さて、配膳後ちょっぴり座が白け、

「いただきます」の声は頼りなげ。

さて、いざ、食べはじめたら、

「・・・・・・うめィ、な」

「うん、なんでこんなに色が薄いのにうめィんだ」

「だしでうめィんだな」と。

全員の方からおいしい、と言っていただけました。

食べ終るころは、

「センセイ、今度いつ来る?

次は、漬物もって来っから」と、和気あいあい。

「また食べたい」と喜んでいただけました。

.

終了後、前述の男性が残ってらして、

「今日は本当にありがとうございました」と

改めて挨拶をされ、

「いえいえ、お疲れさまでした」と

顔を合わせたら、

その方の眼に涙が浮かんでいます。

 

「ちょっとお礼を言いたくて、残りました。

わたしは、今50を過ぎたばかりの00と申します。

若くして妻を亡くし、寂しさを紛らわすために、

乱暴な食生活をしまして、わたしの身体は、

40過ぎから高血圧をはじめ、いろんな成人病の

デパートなんです。

外食は、塩分が多いので、

いい加減な料理ですが、なるべく自炊してます。

医者からは、「塩を減らせ、醤油を減らせ」と

いつも言われています。

でも、塩と醤油を減らしたら、ちっともうまくなくて、

食事の楽しみがまったくありません。

仕事もありますし、

料理のことだけを考えているわけにもいかず、

何かかいい方法はないか、

何かあるんじゃないか、

とさがし続けていました。

 

検診のたびに、医者は

「もっと塩と醤油を減らせ」

としか言ってくれません。

先日は、

「まだ減らしてないじゃないか、

このままいくと死ぬぞ、死んでも知らないぞ」

と言われました・・・・・・。

なにか、糸口はないものか、

どんなことでもやるからと、

必至になって医者に相談しても、

同じことしか言ってくれません。

「塩と醤油を減らせ」

こればっかりです。

病院の栄養士もそうでした。

 

ほんとうに、もう、精神的にも行き詰まってしまって、

情けないことを言うようですが、

最近は家に帰っても1人ぼっちという実感が強くなり、

さびしくて、不安で、

もう、毎日に希望がもてなくなってました。

.

そんなとき、センセイの広告をみつけたんです。

タイトルの<だしを取って料理をする>。

だしは、インスタントのを使ってますが、

昆布とかつおで取る<だし>なんて

考えたこともなかったんです。

タイトルをじーーっと見ながら、

そういえば、

料理には「だし」を使うものだったな、

おふくろが煮干しで取ってたな、と思い出し、

教室に出席すれば、

なにか、ヒントがもらえるかもしれないと、

今日は参加しました。

.

あんなに少しの醤油で炊いた筍ごはん、

初めて食べました。

筍の煮物も、吸物もぜんぜん物足りなくなかったです。

ほんとにおいしかったです。

インスタントのだしとは全然ちがってました。

食べながら、ほんとに嬉しくなりました。

答えがみつかりました。

ありがとうございました」

顔をくしゃくしゃにして、涙が落ちそうな眼で、

にっこり笑って退室されました。

.

見送るわたしも、

後姿のその方の青いストライプのシャツが

よろけて太く見えました。

そしてそのとき、

だしは、ほんとうに必要とされている、と

確信したのでした。

.

続きます。

 ー2008年6月22日のブログより=。

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1 コメント

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自分の迷いと孤独にキーをくれる記事です。 (cafe-orange)
2008-06-22 18:25:06
自分の迷いと孤独にキーをくれる記事です。
ありがとうございます。
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