「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。
2020年回顧⑩ 米「BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事だ)」行動 差別反対 全国・世界へ
5月25日夜。米中西部ミネソタ州の最大都市ミネアポリスで、食料品店に買い物に来た男性、ジョージ・フロイド氏が偽札使用の疑いで地元警察に拘束されました。フロイド氏は後ろ手に手錠を掛けられうつ伏せに倒された後、約9分間にわたり頸部(けいぶ)を警官の右ひざで圧迫されました。
「息ができない」―必死の訴えにもかかわらず白人警官は圧迫を解かず、フロイド氏はその後、病院に運ばれ、死亡しました。
フロイド氏は黒人男性です。彼が受けた残虐行為はスマートフォンで録画され、SNS上で世界に拡散されました。犯行に関わった警官4人は全て逮捕・起訴されました。
翌日からミネアポリスのみならず、ニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンなど、全ての州・特別区で抗議行動が広がりました。人種差別反対、BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事だ)をよびかけるデモは数カ月間にわたり、1968年のキング牧師暗殺以来の全国規模の運動に広がりました。
通りに描かれたスローガン「黒人の命は大切だ」=6月26日、ニューヨーク(ロイター)
トランプ大統領はこの平和的な行動を敵視し、各州知事を「弱腰」とののしり、連邦軍投入の可能性まで言及。6月1日には、ホワイトハウス前の平和デモ隊を治安部隊で蹴散らし、教会の前で聖書を掲げました。キリスト教界から抗議の声が上がるなか、国防総省・米軍は、軍隊の投入に明確な異を唱えました。
トランプ大統領がデモ隊を「弾圧」した通りは、4日後にはバウザー・ワシントン市長により「BLM通り」と命名され、人種差別に反対する人々が集まる名所となっています。
フロイド氏殺害事件の後も、南部アトランタ、中西部ウィスコンシン州などで、警官による黒人銃撃事件が起きています。ミネアポリス、ニューヨーク両市、一部州では、同様の事件再発防止等にむけた「警察改革」が進んでいますが、抜本的な改革にむけた連邦レベルでの取り組みは道筋が見えていません。
人種差別の問題は、11月の大統領選で大きな争点の一つとなり、警察を擁護し、平和デモと対峙(たいじ)した極右グループを応援する姿勢を示したトランプ大統領は敗北しました。警察改革、人種差別撤廃に取り組む民主党バイデン新政権の手腕が注目されます。(ワシントン=遠藤誠二)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年12月25日付掲載
BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事だ)は、大坂なおみ選手のテニスの試合でもアピールされましたね。
白人至上主義のトランプ氏の主張は、もはやアメリカ社会では白人の中でも受け入れられないものとなっています。
2020年回顧⑨ 女性への暴力 ひろがる抗議 法改定も
新型コロナウイルスの影響が各国で配偶者やパートナーによる暴力(DV)の増加につながった今年、女性への暴力反対の行動が発展し、政府が解決の方向に踏み出し、議会で法改定が行われる動きが広がりました。
欧州では1月に発足したスペイン新政権が3月、「同意のない性行為は性的暴行」と位置づけ、女性を性被害から守るための刑法改正案を閣議決定しました。
同国では、新型コロナによる都市封鎖でDV増加が懸念されると、政府が「暴力防止キャンペーン」を全国で実施。テキストメッセージでの被害届送信を可能にし、心理療法士ともやりとりができるよう工夫しました。
フランスでは、パリと周辺3県で3月の封鎖措置後、わずか1週間でDV被害が36%も増加。政府は100万ユーロ(約1億2600万円)の資金を投じ、計2万泊分のホテルの部屋をDV被害から逃れてきた人のために購入。外出制限下でも営業している食料品店周辺に臨時の相談窓口を設置しました。
11月25日、ベルリン市内で女性の権利擁護団体のロゴマークをかかげて女性への暴力根絶を訴える女性ら(桑野白馬撮影)
中東のエジプトでは7月、同じ男から性被害を受けた女性がインターネット上で次々に告発し、男は逮捕。政府は性暴力を訴えやすくするため、被害者の身元を秘匿する法律の制定を打ち出し、議会が8月に承認しました。
地元の女性活動家モズン・ハッサン氏は本紙に「新型コロナウイルス流行に伴う外出自粛などで女性への暴力の増加が広く知られたことや、支援団体の働きかけが被害者の沈黙を破る要因になっている」と語ります。
イスラエルでは女性への暴力や殺人に抗議する集会や、16歳の少女への集団レイプ事件を受けて性暴力を非難するデモが実施されました。同国政府に暴力の根絶に向けた措置への予算増額や、被害者への医療支援の拡充を求めています。
クウェートの人権活動家アスラ・リファイ氏は「どうすれば女性を守れるか、各国の取り組みを互いに学んでいる」と言います。同国では8月、DV被害者を支える女性活動家らの要求が実り、保護施設の設置などを含む新法が議会で承認されました。
イラクでも8月に政府が加害者への処罰を含む反DV法案を議会に提出。11月には首都バグダッドで法律の制定を求めるデモが起きています。
(ベルリン=桑野白馬、カイロ=秋山豊)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年12月24日付掲載
コロナ禍の在宅で、パートナーからの暴力(DV)が増えているという。「同意のない性行為は性的暴行」など法的な規制が始まっています。
女性に運転免許を認めない国もあった中東。そこでも変化が起こっています。
2020年回顧⑧ 中南米 感染広げた新自由主義
中南米は21日現在、新型コロナウイルスの感染者が約1472万人、死者が約48万5000人確認されています(世界保健機関<WHO>集計)。世界人口の約8%を占めるこの地域で、感染者は世界の約20%、死者は30%近くと突出しています。
人口比死亡者数は、新自由主義経済政策をいち早く取り入れ、プライマリー・ケア(1次医療)が脆弱(ぜいじゃく)なチリ、ペルー、メキシコなどで高くなっています。大統領が感染を軽視したブラジルの死者数は米国に次ぎ、社会インフラが貧弱なアマゾンの先住民居留地は「制御不能」といわれます。
労働者の半分は政府機関が関与しないインフォーマル(非公式)就労という構造も、コロナ禍が浮き彫りにした地域特有の問題です。真っ先に失職し、失業手当の受給資格もない人々です。
国連はパンデミックでこの地域の4000万人以上が失業すると予測。近年、格差解消などを求めて各地で発生している抗議行動はさらに高まりそうです。
チリでは、新憲法制定の是非を問う10月の国民投票で、8割近くが賛成。軍政時代の現憲法は、教育や福祉を国家の義務とは明記していません。新憲法にどう盛り込まれるのかが焦点です。
ブラジル・リオデジャネイロ近郊で、新型コロナの検査を受ける人たち=12月4日(ロイター)
ボリビアでは、10月の大統領選で社会主義運動(MAS)のルイス・アルセ元経済・財務相が低所得者への分配などをかかげて勝利しました。同氏は、昨年の選挙で不正疑惑が発覚して辞任、亡命したモラレス大統領(当時)の後継。左派政権の返り咲きです。
ベネズエラの物資不足はますます深刻です。国内総生産(GDP)はマドゥロ大統領就任の2013年比で8割減の見通し。米国の制裁も影響しています。
12月の国会選挙では、公正性が保証されないと主要野党がボイコットし、与党が「圧勝」。投票率は30%でした。与党幹部は「投票しない者に食料はない」と公言。配給停止を示唆しました。
核兵器禁止条約を批准した51カ国(21日現在)のうち21カ国は中南米です。発効要件である50カ国目は親米といわれるホンジュラスでした。平和と対米自立の流れは絶えていません。
(松島良尚)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年12月23日付掲載
効率優先、社会保障抑圧の新自由主義経済を押し付けられた中南米で、とりわけ高い新型コロナの死亡率。
そこでも政治変革が始まっています。
核兵器禁止条約を批准した51カ国のうち21カ国はなんと中南米です。
2020年回顧⑦ フランス 政権に国民の抵抗続く
5年間の任期半ばを過ぎたマクロン仏大統領は今年、年金改革、コロナ危機対応、治安問題など、内政で多くの試練にさらされました。
1月16日の25万人デモなど、年金改革法案への反対運動が昨年から続き、2月の国民議会(下院)では、左翼政党「服従しないフランス」とフランス共産党が合わせて3万6千以上もの修正案を提出して抵抗。それでも政権は、内閣の信任を問えば賛否投票なしに可決できるという強権的な憲法49条3項を発動し、3月3日下院を強引に通過させました。
その上でマクロン大統領は3月16日、新型コロナ対策の外出禁止発令と同時に、年金改革の中断を表明しました。
コロナ禍のなか行われた市町村(コミューン)議会選挙(3月15日、6月28日)では、緑の党、社会党、フランス共産党、「服従しないフランス」などの左翼・緑陣営が得票率26%に達し、共和党ら右派陣営(同24%)を上回り、「共和国前進」ら与党陣営(12・5%)は惨敗しました。
「総合治安」法案に反対してデモ行進する女性=12月12日、パリ(ロイター)
この結果を受け、ブイリップ内閣は7月3日に総辞職。高級官僚のカステックス氏が新首相に就任しました。
秋にはコロナ感染の第2波が深刻化し、11月の新規感染者は週30万人を超えました。
雇用も悪化し、労働省の統計によると3月以降のリストラで6万7千以上の雇用契約が破棄。政府は企業支援を中心とした経済対策を講じるものの改善せず、9~11月には3万5千以上の雇用が失われました。
9~10月には、シャルリエブド旧本社前の刺傷事件、パリ近郊の中学教師殺害事件、ニースの教会での殺人事件など、イスラム教信者による殺傷事件が相次ぎました。
これを受けて、マクロン政権は、治安当局の権限を拡大する「総合治安」法案を11月24日、国民議会で強行採決しました。しかし、反対運動が広がり、11月28日の抗議デモには50万人(内務省発表で13万5千人)が参加。政権は、警官の撮影禁止条項(24条)の「全面的な書き換え」を表明せざるをえませんでした。
9日に閣議提出された「イスラム分離主義」を敵とみなす「共和国原則強化」法案と併せて、ムスリム・移民・人種への差別の拡大や警察国家化への懸念を広げ、依然、反対運動が続いています。
(米沢博史)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年12月22日付掲載
コロナ禍で、国民の苦難に逆行する政治は抵抗の抗議行動。地方議会選挙では野党や躍進。
政府の治安弾圧では、国民の運動は抑えることはできません。
2020年回顧⑥ 香港 国安法施行 弾圧強まる
昨年、数百万人規模で盛り上がった香港の反政府運動は、今年6月の香港国家安全維持法(国安法)の施行で、強権的に弾圧されました。政権側の弾圧は、香港の自由や民主を求めるデモや集会だけでなく、メディアや教育、議会などあらゆる分野に及んでいます。
中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は6月30日、国安法を全会一致で可決。香港で即日施行されました。
国安法は、①国家分裂②政権転覆③テロ活動④外国勢力と結託して国の安全に危害を加える行為―に対し、最高刑で終身刑の刑罰を科します。行為の有無などの判断は中国当局の意向が反映されることになります。そして容疑者を中国本土で裁判にかけることも可能になりました。
周氏ら民主活動家に実刑判決を言い渡した西九竜裁判所前に集まった支援者=12月2日、香港(ロイター)
国安法は香港の法律の上に君臨することになり、国安法の解釈権は全人代常務委が握ることになります。同法の施行に対し、香港の立法会(議会)は何ら関与できませんでした。
法律の中身も成立過程も、香港の高度な自治を保障し、中国自身が国際社会に公約した「一国二制度」に反するものです。国際社会から厳しい批判が起こりました。
12月7日までに40人が国安法で逮捕されました。その中には、若手民主活動家の周庭氏、香港紙・リンゴ日報の創業者である黎智英(れい・ちえい)氏も含まれています。黎氏は11日に国安法違反で起訴されました。周氏は国安法で起訴されていないものの、昨年6月に違法集会を扇動した罪で禁鋼刑を下されました。
当局は、新型コロナウイルスの感染拡大を口実に、9月に予定されていた立法会選の1年延期を強行しました。全人代常務委は11月、香港の立法会議員が、「中国が香港に対して主権を行使することを認めない」などとする場合、議員資格を失うと決定。これを受け、香港政府は4人の民主派議員の資格を剥奪しました。
教育に対しては、学生の自ら考える力を養う目的で導入されていた「通識教育科」の形骸化を進めています。香港警察は9月、一部のネットメディア、ブリーランスや学生記者をメディアと認めない方針を発表しました。
ただ、香港市民は自由と民主を求めるたたかいを放棄していません。リンゴ日報によると、勾留された黎氏は「恐れることはない。闘争を続ける」と表明しました。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年12月21日付掲載
今年6月の香港国家安全維持法(国安法)の施行。国家分裂やテロ行為はともかく、政権転覆まで弾圧の対象に。
それって、選挙による政権交代を認めないという前近代的感覚。まるで封建社会ですね。
中国が、本国でどんな政治制度をとるかは自由ですが、「一国二制度」でイギリスから返還された香港の政治制度には介入すべきではありません。