ポルトガル新時代 反緊縮のたたかい① 新政権 EUの押しつけ排除 購買力上がり雇用戻る
総選挙で緊縮政策の是正を進める政権が誕生したポルトガル。共産党が閣外協力する新政権のもとで続く労働者や国民のたたかいを現地からリポートします。
(リスボン=島田峰隆 写真も)

【ポルトガル】
人口約1030万人(2016年推定)、面積は9万2226平方キロ(日本の約4分の1)。1974年の革命で、40年以上に及んだ軍事独裁政権を倒しました。86年に後に欧州連合(EU)へと発展する欧州共同体(EC)に加盟。99年に欧州単一通貨ユーロを導入しました。
ポルトガルの首都リスボン郊外に住むイザベルさん(50)の夫(47)は昨年4月、約4年間出稼ぎに行っていたオランダから帰国しました。ビル建設のエアコン設置の仕事をしています。
「夫が帰国できたのは、ポルトガルで仕事が増え始めているからですよ。数カ月先まで仕事の予定が入って、本人もうれしそうです」とイザベルさん。小学生の子ども2人と久々に家族そろって、クリスマスと新年を落ち着いて迎えられます。
クリスマスシーズンを控えた11月末のリスボン市内では、市民が市場や商店に繰り出し、忙しそうに買い物をしていました。

出稼ぎに行っていた夫が帰国したことについて友人(右)と話すイザベルさん=2017年11月30日、リスボン
●上向く景気
イザベルさんは「レストランの付加価値税(消費税)が下がったり、交通費の割引が復活したりして、多くの人が気軽に外出し、消費するようになりました。景気が上向き、少しずつですが、暗閻のトンネルからの出口が見えてきた気がします」と語りました。
ポルトガルは2011年、欧州債務危機を受けて、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請しました。同年に発足した社会民主党の政権は、金融支援の条件として課された緊縮政策を国民に押し付けました。労働時間の延長、公務員のリストラ、賃金引き下げ、教育や社会保障予算の削減、付加価値税の引き上げ、一部の休日の廃止などです。
しかしこれは、国民をまさに“出口の見えない暗闇のトンネル”に突き落とすものでした。相次ぐリストラで失業率は17%程度にまで上昇。民間機関の調査では12年だけで6600以上の企業が倒産し、特に建設業やレストラン業が壊滅しました。イザベルさんの夫のように、雇用を求めて海外移住をせざるを得ない人が現れ、その数は数十万人規模に膨れ上がりました。結局、実質GDP(国内総生産)成長率は12年にマイナス4%、13年にマイナス1・1%と低迷し続けました。財政収支は悪化の一途をたどり、債務危機の解決にはなりませんでした。
これに国民が怒りを爆発させたのが15年の総選挙でした。社会民主党は過半数割れとなり、緊縮政策反対を訴える左翼政党が躍進。協議の結果、野党の社会党と、共産党、左翼ブロック、緑の党の左翼3党とが、「反緊縮」を一致点に新政権を発足させました。
●是正すすむ
新政権発足から約2年。単独では過半数に届かない社会党に対し、左翼3党が圧力をかけて緊縮政策の撤回や是正が進んでいます。
(別表)
緊縮政策をやめて国民の購買力を引き上げる政策をとってきた結果、実質GDP成長率は15、16年とも1%台に回復し、IMFの推計では17年には約2・5%になる見込みです。企業による投資も増え、失業率は9%台にまで下がりました。経済の回復によって債務の繰り上げ返済が進んでいます。
緊縮政策の是正を新政権が示した時、EUは「債務危機が再燃する」と脅しをかけました。しかしEUの欧州委員会は昨年5月、欧州各国での緊縮政策の根拠とされている「過剰債務是正手続き」の対象国からポルトガルを除外する方針を
提示。緊縮是正策の方が正しかったことを事実上認める形となりました。
「ポルトガルは緊縮政策を捨てて経済を軌道に乗せた」「EUのなかで緊縮政策に逆らい、成功することが可能だということを示した」(米誌『フォーリン・ポリシー』)―。ポルトガルの経験は大西洋を挟んだ大陸からも注目されています。
【新政権による主な緊縮是正策】
◆最低賃金の引き上げ(月額505ユーロ=約6万7500円〈2015年〉を580ユーロ=約7万7500円〈18年〉に)
◆手当加算で公務員賃金の実質増額
◆労働時間の短縮
◆失業手当の拡大
◆レストランの付加価値税の引き下げ(23%から13%へ)
◆特別所得税の廃止
◆子どもの扶養控除引き上げ
◆低年金者の年金上積み措置の拡大レ小学校の教科書の無料支給
◆公立大学の学費値上げ凍結
◆緊縮策で廃止された公休の再実施

リスボン市内の市場で買い物をする市民=2017年12月1日
●別の道実証
「EUは、債務危機を克服するには緊縮政策しかないと押し付けてきました。この2年間の最も重要な出来事は、それとは違う別の道があることを実証したことです」。同国最大の労組センター、ポルトガル労働総同盟(CGTP)の全国評議会執行委員のアウグスト・プラサ氏はこう強調します。
「もちろんまだ緊縮政策の傷跡が残っています。ただ労働者や国民のたたかいによって、他の国ではみられないようなことが起きています」と続けるプラサ氏。力強く握りこぶしをつくりながら、「大事なのは、国民がたたかってきたし、いまもたたかい続けていることです」と力を込めました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年1月14日付掲載
消費支出を増やせるようにするためには、賃金のアップとともに、税金や社会保険料、医療費などの固定的な支出を抑える仕組みが必要。
緊縮政策はその真逆を行くもの。
総選挙で緊縮政策の是正を進める政権が誕生したポルトガル。共産党が閣外協力する新政権のもとで続く労働者や国民のたたかいを現地からリポートします。
(リスボン=島田峰隆 写真も)

【ポルトガル】
人口約1030万人(2016年推定)、面積は9万2226平方キロ(日本の約4分の1)。1974年の革命で、40年以上に及んだ軍事独裁政権を倒しました。86年に後に欧州連合(EU)へと発展する欧州共同体(EC)に加盟。99年に欧州単一通貨ユーロを導入しました。
ポルトガルの首都リスボン郊外に住むイザベルさん(50)の夫(47)は昨年4月、約4年間出稼ぎに行っていたオランダから帰国しました。ビル建設のエアコン設置の仕事をしています。
「夫が帰国できたのは、ポルトガルで仕事が増え始めているからですよ。数カ月先まで仕事の予定が入って、本人もうれしそうです」とイザベルさん。小学生の子ども2人と久々に家族そろって、クリスマスと新年を落ち着いて迎えられます。
クリスマスシーズンを控えた11月末のリスボン市内では、市民が市場や商店に繰り出し、忙しそうに買い物をしていました。

出稼ぎに行っていた夫が帰国したことについて友人(右)と話すイザベルさん=2017年11月30日、リスボン
●上向く景気
イザベルさんは「レストランの付加価値税(消費税)が下がったり、交通費の割引が復活したりして、多くの人が気軽に外出し、消費するようになりました。景気が上向き、少しずつですが、暗閻のトンネルからの出口が見えてきた気がします」と語りました。
ポルトガルは2011年、欧州債務危機を受けて、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請しました。同年に発足した社会民主党の政権は、金融支援の条件として課された緊縮政策を国民に押し付けました。労働時間の延長、公務員のリストラ、賃金引き下げ、教育や社会保障予算の削減、付加価値税の引き上げ、一部の休日の廃止などです。
しかしこれは、国民をまさに“出口の見えない暗闇のトンネル”に突き落とすものでした。相次ぐリストラで失業率は17%程度にまで上昇。民間機関の調査では12年だけで6600以上の企業が倒産し、特に建設業やレストラン業が壊滅しました。イザベルさんの夫のように、雇用を求めて海外移住をせざるを得ない人が現れ、その数は数十万人規模に膨れ上がりました。結局、実質GDP(国内総生産)成長率は12年にマイナス4%、13年にマイナス1・1%と低迷し続けました。財政収支は悪化の一途をたどり、債務危機の解決にはなりませんでした。
これに国民が怒りを爆発させたのが15年の総選挙でした。社会民主党は過半数割れとなり、緊縮政策反対を訴える左翼政党が躍進。協議の結果、野党の社会党と、共産党、左翼ブロック、緑の党の左翼3党とが、「反緊縮」を一致点に新政権を発足させました。
●是正すすむ
新政権発足から約2年。単独では過半数に届かない社会党に対し、左翼3党が圧力をかけて緊縮政策の撤回や是正が進んでいます。
(別表)
緊縮政策をやめて国民の購買力を引き上げる政策をとってきた結果、実質GDP成長率は15、16年とも1%台に回復し、IMFの推計では17年には約2・5%になる見込みです。企業による投資も増え、失業率は9%台にまで下がりました。経済の回復によって債務の繰り上げ返済が進んでいます。
緊縮政策の是正を新政権が示した時、EUは「債務危機が再燃する」と脅しをかけました。しかしEUの欧州委員会は昨年5月、欧州各国での緊縮政策の根拠とされている「過剰債務是正手続き」の対象国からポルトガルを除外する方針を
提示。緊縮是正策の方が正しかったことを事実上認める形となりました。
「ポルトガルは緊縮政策を捨てて経済を軌道に乗せた」「EUのなかで緊縮政策に逆らい、成功することが可能だということを示した」(米誌『フォーリン・ポリシー』)―。ポルトガルの経験は大西洋を挟んだ大陸からも注目されています。
【新政権による主な緊縮是正策】
◆最低賃金の引き上げ(月額505ユーロ=約6万7500円〈2015年〉を580ユーロ=約7万7500円〈18年〉に)
◆手当加算で公務員賃金の実質増額
◆労働時間の短縮
◆失業手当の拡大
◆レストランの付加価値税の引き下げ(23%から13%へ)
◆特別所得税の廃止
◆子どもの扶養控除引き上げ
◆低年金者の年金上積み措置の拡大レ小学校の教科書の無料支給
◆公立大学の学費値上げ凍結
◆緊縮策で廃止された公休の再実施

リスボン市内の市場で買い物をする市民=2017年12月1日
●別の道実証
「EUは、債務危機を克服するには緊縮政策しかないと押し付けてきました。この2年間の最も重要な出来事は、それとは違う別の道があることを実証したことです」。同国最大の労組センター、ポルトガル労働総同盟(CGTP)の全国評議会執行委員のアウグスト・プラサ氏はこう強調します。
「もちろんまだ緊縮政策の傷跡が残っています。ただ労働者や国民のたたかいによって、他の国ではみられないようなことが起きています」と続けるプラサ氏。力強く握りこぶしをつくりながら、「大事なのは、国民がたたかってきたし、いまもたたかい続けていることです」と力を込めました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年1月14日付掲載
消費支出を増やせるようにするためには、賃金のアップとともに、税金や社会保険料、医療費などの固定的な支出を抑える仕組みが必要。
緊縮政策はその真逆を行くもの。