パラダイス文書の衝撃① 租税回避地 誰のための楽園か
政治経済研究所 合田寛理事
「パラダイス文書」の流出でタックスヘイブン(租税回避地)の秘密の一部があらわになり、世界に衝撃を与えています。税逃れの機構に詳しい政治経済研究所の合田寛(ごうだ・ひろし)理事に寄稿してもらいました。
英領バミューダ諸島に本拠を置く法律事務所などから流出した膨大な電子ファイルに基づく情報が、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と各国の調査報道記者による約1年間の共同調査を経て、11月5日に一斉に公表されました。
豪華な顧客たち
「パラダイス文書」と名付けられたこの文書は、会社の内部文書、会計報告、Eメールなどさまざまな文書・資料からなり、合わせると昨年のパナマ文書を上回る1340万件という史上最大規模のリークです。
文書の出所は複数ありますが、最大の流出元はバミューダに本拠のある法律事務所「アップルビー」です。同法律事務所はバミューダのほか、ケイマン、ジャージー、マン島など世界の主なタックスヘイブンに事務所を持つ、いわゆるオフショア法律事務所の一つです。オフショア法律事務所はその名が示すように、顧客に対し、タックスヘイブンでペーパーカンパニー(幽霊会社)の設立や架空の所有者を提供したり、秘密の取引を可能にすることを主な業務とする法律事務所です。
「アップルビー」は設立以来120年の歴史を有し、この世界では名のある最大規模のオフショア法律事務所であり、「オフショア・マジック・サークル(オフショア魔術団)」の中心メンバーとされています。
今回公表された「パラダイス文書」の特徴は、文書の分量の多さばかりではありません。一見して驚くのは「アップルビー」の顧客の豪華な顔触れです。シティバンクなど多くのメガバンクやナイキ、アップルなどの多国籍企業のほか、王族、政府首脳、超富裕者、ハリウッドスター、著名スポーツ選手などが名を連ねています。
英国のエリザベス女王(ロイター)
多数の隠れみの
なかでもイギリスのエリザベス女王の個人資産がケイマン諸島に設立されたファンドで運用されていたことは注目されます。女王だけではありません。チャールズ皇太子もバミューダのペーパーカンパニーを通じて、個人所有の不動産をひそかに購入していることが明らかになっています。
またトランプ米政権の商務長官であり、巨万の投資家として知られる、ウィルバー・ロス氏も「アップルビー」の古くからの顧客でした。「アップルビー」はロス氏のために、ケイマン諸島に多数のペーパーカンパニーをつくり、彼はそれらのペーパーカンパニーを隠れみのにして、大臣就任時におもてむき手放した船会社「ナビゲーター社」を、実質的に所有し続けていました。「ナビゲーター社」は経済制裁対象となっていたロシアのプーチン大統領の親族企業「シバー社」との契約で巨額の利益をあげていました。
「パラダイス文書」と名付けられたこの文書が描き出している世界は、権力者、超富裕者または超セレブだけが利用できる秘密の楽園(パラダイス)であり、彼らにそのためのサービスを提供して栄える特殊なビジネスの姿です。(つづく)(5回連載です)
【オフショア】
原義では「沖合」を意味し、本土の沿岸から遠く離れた地域(海外)をいいます。金融用語では、非居住者(外国人)に対して規制を優遇する国・地域を指します。税の側面からタックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれる国・地域とほぼ重なり、タックスヘイブンの別名と理解されています。オフショア=タックスヘイブンを主要拠点とする法律事務所をオフショア事務所と呼び、それ以外をオンショア事務所と呼びます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年11月24日付掲載
租税回避地の新たな暴露文書、その名も「パラダイス(楽園)文書」。以前もそうでしたが、表社会で活躍しているそうそうたる人々の名が。
新しい「オフシェア」って用語もでてきました。
政治経済研究所 合田寛理事
「パラダイス文書」の流出でタックスヘイブン(租税回避地)の秘密の一部があらわになり、世界に衝撃を与えています。税逃れの機構に詳しい政治経済研究所の合田寛(ごうだ・ひろし)理事に寄稿してもらいました。
英領バミューダ諸島に本拠を置く法律事務所などから流出した膨大な電子ファイルに基づく情報が、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と各国の調査報道記者による約1年間の共同調査を経て、11月5日に一斉に公表されました。
豪華な顧客たち
「パラダイス文書」と名付けられたこの文書は、会社の内部文書、会計報告、Eメールなどさまざまな文書・資料からなり、合わせると昨年のパナマ文書を上回る1340万件という史上最大規模のリークです。
文書の出所は複数ありますが、最大の流出元はバミューダに本拠のある法律事務所「アップルビー」です。同法律事務所はバミューダのほか、ケイマン、ジャージー、マン島など世界の主なタックスヘイブンに事務所を持つ、いわゆるオフショア法律事務所の一つです。オフショア法律事務所はその名が示すように、顧客に対し、タックスヘイブンでペーパーカンパニー(幽霊会社)の設立や架空の所有者を提供したり、秘密の取引を可能にすることを主な業務とする法律事務所です。
「アップルビー」は設立以来120年の歴史を有し、この世界では名のある最大規模のオフショア法律事務所であり、「オフショア・マジック・サークル(オフショア魔術団)」の中心メンバーとされています。
今回公表された「パラダイス文書」の特徴は、文書の分量の多さばかりではありません。一見して驚くのは「アップルビー」の顧客の豪華な顔触れです。シティバンクなど多くのメガバンクやナイキ、アップルなどの多国籍企業のほか、王族、政府首脳、超富裕者、ハリウッドスター、著名スポーツ選手などが名を連ねています。
英国のエリザベス女王(ロイター)
多数の隠れみの
なかでもイギリスのエリザベス女王の個人資産がケイマン諸島に設立されたファンドで運用されていたことは注目されます。女王だけではありません。チャールズ皇太子もバミューダのペーパーカンパニーを通じて、個人所有の不動産をひそかに購入していることが明らかになっています。
またトランプ米政権の商務長官であり、巨万の投資家として知られる、ウィルバー・ロス氏も「アップルビー」の古くからの顧客でした。「アップルビー」はロス氏のために、ケイマン諸島に多数のペーパーカンパニーをつくり、彼はそれらのペーパーカンパニーを隠れみのにして、大臣就任時におもてむき手放した船会社「ナビゲーター社」を、実質的に所有し続けていました。「ナビゲーター社」は経済制裁対象となっていたロシアのプーチン大統領の親族企業「シバー社」との契約で巨額の利益をあげていました。
「パラダイス文書」と名付けられたこの文書が描き出している世界は、権力者、超富裕者または超セレブだけが利用できる秘密の楽園(パラダイス)であり、彼らにそのためのサービスを提供して栄える特殊なビジネスの姿です。(つづく)(5回連載です)
【オフショア】
原義では「沖合」を意味し、本土の沿岸から遠く離れた地域(海外)をいいます。金融用語では、非居住者(外国人)に対して規制を優遇する国・地域を指します。税の側面からタックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれる国・地域とほぼ重なり、タックスヘイブンの別名と理解されています。オフショア=タックスヘイブンを主要拠点とする法律事務所をオフショア事務所と呼び、それ以外をオンショア事務所と呼びます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年11月24日付掲載
租税回避地の新たな暴露文書、その名も「パラダイス(楽園)文書」。以前もそうでしたが、表社会で活躍しているそうそうたる人々の名が。
新しい「オフシェア」って用語もでてきました。