イージーリスニング音楽の大家P・Mが亡くなった。
P・Mの音楽を聴く時、初めてあの人にあった時のことを思い出す。東北の平野にある屋敷林・オグネ。不思議な姿をしたあの人に惹かれた。波のような声。たびたびオグネを訪れては会ったが……『恋はみずいろ』、
唐草模様の風呂敷が苦手な私。
あの目を惹く意匠には開けてはならぬ、触れてはならぬという禁忌の意味があるのではないか。
それは父とともに山に入って見た光景を思い出させ……『唐草模様』、
7月17日午前11時35分頃。場所は、栄町6丁目のゆるやかな坂の途中にあるY字路。
ドーンという大きな音が聞こえたという近所のWさん、音が聞かず白い猫が現れたり消えたりするのを目撃したという郵便配達のKさん、そしてたばこ屋のTさんは、それらとは矛盾する証言をし……『Y字路の事件』、
太陽の下、白い砂浜にひとりの男が寝そべっている。
そしてある部屋ではひとりの男もまた寝ていた。書きかけの手紙、回る扇風機の音……『約束の地』、
その店は、いつもそこにある訳ではなく、探すと見つからない。いつもは忘れていて、ふらりと寄った時に見つけることができる。
四角いランタンの中に、筆でかかれた文字<酒肆ローレライ>。川沿いにあるその店のカウンターの中には、女がいて……『酒肆ローレライ』、
比類なき才能を秘めて生まれてきた、田久保順子。
しかし彼女の望みは周囲には理解されず、環境にも恵まれなかった。その結果……『窯変・田久保順子』、
5月。今夜あたりグレメが上がってくるから、川に行っては行けないと祖母に言われた少年・タカシ。どうしても付いて行くという妹・アカネとガラガラドンと共に川に出かけ……『夜を遡る』、
友人や母、人の話を聞くよりも自分の不満話ばかりをする人たち。いつもそんな話を聞くばかりになってしまう由紀子だったが……『翳りゆく部屋』、
列車のコンパートメントにたまたま乗り合わせた男女。
それぞれに、別の事柄に思いを馳せる2人を乗せて、列車は走る……『コンパートメントにて』、
深夜。都心の三月。
しんと静まり返った部屋で、ノートパソコンを立ち上げる女がひとり。しかし文章はなかなか書き進められず……『Interchange』の10編収録。
それぞれの話のはじめに置かれた、フランス文学者・杉本秀太郎氏による序詞(詩、俳句、短歌等)と、新鋭画家たちによる作品からの連想を受け(多分)、書かれた短編集。ジャンル的には、ミステリだったりSFだったり、いろいろバラエティに富んでます。
個人的には『Y字路の~』が好きかな。
<09/6/28>