昔から、とりたてて優れた容姿でもないのに女に異常に好かれている男・三波敏行。
それ故に男たちからは反感を買い、リストラ候補にされたり、特に好きでもない女・洋子にはストーカーのように付きまとわれている。
半年前、「あなたの経験や技能などの『能力』を、あなたにはない誰かの『能力』と交換いたします」という宣伝文句の路地裏の店<<ばくりや>>を訪れていた三波は、自分のその能力を交換するという契約を交わす。
そんなある日、ばくりやから、能力の交換移植完了を知らせる手紙が届き、ようやくその能力を手放すことができた。代わりに刃物研ぎの能力を手に入れた彼は、洋子から逃げ出し、包丁研ぎをしてまわることを仕事にするが……“逃げて、逃げた先に”、
どこかに出かけようとすると必ず悪天候に見舞われる男・永井賢介。おかげで社内旅行にも出かけられない。
そんな彼は、オーストラリアへ短期留学に出かける、職場の同僚・真奈美を送るため新千歳空港へ。
二年前の夏、ばくりやで契約していた彼の、能力の交換相手の適合者がみつかったとの手紙が前日届いていた。
移動中の真奈美から、空港で大食いタレントの庄司誠に出会い、同じ乗り継ぎをするときかされるが……“雨が落ちてくる”、
就職する会社が必ず倒産するという能力を持つ男・藍川臣。すでに行く先々で十三の会社と地方公共団体をつぶしていた。
そんな彼はばくりやを訪れてから二日後、交換移植が実行され、代わりに手に入れたのは動物に好かれる能力だった。
藍川はその能力を活かし、動物園の飼育員になった。動物たちに愛される存在となるが……“みんな、あいのせい”、
剛速球だけが取り得で、制球能力はまるでないプロ野球投手・吉良洋行。そんな彼には、これといった売りのない三流タレント・神原あかりという同棲相手がいるが、すぐに暴力をふるい、憂さを晴らしていた。
ドラフト一位で入団したことを鼻にかけていた彼は、球団から戦力外通告を受け、とうとう解雇されることに。
そんな中、テレビで日本シリーズを見ていると、いきなり画面が切り替わり、ばくりやの広告が差し込まれた。それが気になり、あかりがメモしていたその住所を盗み見た吉良は、北海道へと向かった……“狙いどおりには”、
両親の離婚とともに捨てられて、S市内で花卉栽培農家を営む清田夫婦の里子になった石倉幸彦。清田家の一人息子・嘉男は兄のように可愛がられたが、昔からの泣き虫はいつまでも直らなかった。
大人になり、土地開発や街づくりを総合的に手がける建設コンサルタントで働いていたが、少しのことでも泣いてしまい、皆から馬鹿にされていた。
ばくりやでその泣き虫を交換し、泣かなくなった幸彦。人が変わったように有能になるが、そんな中で世話になった里母が他界、しかし彼は泣くことができなかった。
その一周忌が過ぎた十月。付き合っていた美帆と結婚が決まり、大きなプロジェクトを手がけることに。しかしそのプロジェクトで、地下鉄の終着駅の建設予定地に清田家の土地が含まれていた。同意しない嘉男の元を訪ねた幸彦は……“さよなら、ギューション”、
昔から同僚たちの密会に出くわしたりと、常に間の悪い女・三浦のぞみ。
子供の頃も、父が亡くなった後、弁護士と再婚した母と一緒に旅行に出かけるはずが、直前で出かけられなくなり、キャンセルになったことがあった。
そんな彼女は、ばくりやの存在を知り訪れるが、折りしも一年にあるかないかの閉店日。出てきた女性は、彼女は間が悪くないといい、むしろもったいから、交換に出すべきではないというが……“ついてなくもない”、
やたらとキリ番を踏むことの多い男・柏原貴彦。
付き合っている女・島田朋子が、男を疲れさせる女だということに気づき、別れようと思った矢先、動物園の来園者百万人と報道され、職場の人間に恋人同士だとばれてしまう。
おまけに彼女と関係を持って百回目だと告げられた貴彦は、彼女が妊娠すると確信。逃げるように、ばくりやにやってきた。そこに待ち受けていた白衣の男は……“きりの良いところで”の7編収録。
北の街にある路地裏の洋館にある、あやしげな店<ばくりや>にやってくる人々を描いた連作短編集。
そこは、人の能力を交換できるという店だけれど、自分の差し出した能力の代わりに手に入れる能力を、選ぶことはできないし、気にいらないから戻すということもできない、という設定。
不思議な印象の残る店名『ばくりや』の、『ばくる』というのは、北海道の方言で「交換する」という意味があるのだとか。
基本ブラックな感じのオチだけれど、変化球もあり、秀逸。
<12/1/29,30>