黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『萱刈』辻井喬(新潮社)

2007-07-31 | 読了本(小説、エッセイ等)
“城”と呼ばれる場所に住む、謎の権力者が支配する地域。
その近隣に位置する萱刈村には、萱を刈る特権を持つ“萱刈部”、城との連絡役である“飛師”、城への上納金などを村民に割り当てる“蔵師”の御三家の他、和歌を詠んだり琵琶を演奏して昔から伝わる物語を聞かせ、舞を舞う“ほかい部”の有力者の部族があり、その萱刈部の家の次男に生まれた“ぼく”。
早くから家が決めた、ほかい部出身の婚約者がいたが、彼女はぼくが東京の大学4年の時に“城”へ召されたまま戻らなかった。
大学卒業後、大手建設会社に就職。2年が過ぎた頃、村は大火に見舞われ、全焼。彼の実家も、そこに住んでいた人々も失われ、天涯孤独の身の上になり、その後、勧められた取引先の経営者の娘と結婚。
結婚して数年、地方の若き知事に乞われ、彼の元でアドヴァイザーとして辣腕を振るっている間、東京で刺繍教室を開いていた妻は、突然謎の失踪を遂げる。
そして46歳になり、本社に戻ったぼくは、城とその城下街全体の都市計画案に参画することになり、期せずして帰郷することになるが……

エピグラムにも挙げられている、カフカの『城』の日本版、といった感じ。不条理な感じが、現代社会への隠喩めいておもしろいです。
スコープ作家の桑原弘明さんの作品が表紙等に使われていたので、思わず手に取ってしまいましたが、作中に度々登場する“覗く”というモチーフにも呼応していて、ナイス起用(笑)。

<07/7/31>

『ランナー』あさのあつこ(幻冬舎)

2007-07-30 | 読了本(小説、エッセイ等)
両親の離婚により、それまで住んでいた地を離れ、母・千賀子と妹・杏樹と3人で暮らす高校生・加納碧李。
杏樹は、事故死した父の妹夫婦の娘で、血のつながりのない彼女を引き取っているという複雑な事情。
東部第一高校の陸上部に所属していた碧李は、秋の大会の1万m走で惨敗、その一週間後に陸上部に退部届を出していた彼だったが、監督・箕月衛はその受理を保留。マネージャー・前藤杏子も、何とか彼を陸上部に引き戻そうとする。
しかし、碧李には他の人にいえない退部の理由があった……それは幼い杏樹をあることから守る為。
しかし、それは陸上から逃げようとする自分への言い訳ではないかと感じている碧李。
そんな彼は再び陸上へと向き合う決意をするが……

スポーツが主、という感じではなく、碧李の家庭や周囲の人々を取り巻く“事情”や思いを描いたお話。
内容的には、これで完結というよりも、これから始まる、といった感じのラストでしたし、続きを読んでみたいかも。

<07/7/30>

『月島慕情』浅田次郎(文藝春秋)

2007-07-29 | 読了本(小説、エッセイ等)
30を越えた吉原の生駒太夫こと、ミノ。馴染みの客である時次郎が身請けしてくれることになり、浮かれた彼女は、彼の家を密かに訪れることに……『月島慕情』、
かつて元夫の暴力より逃げ出し20年、今では再婚し幸せに暮らしていた初江の元に、その元夫の訃報が届く。彼の霊前に線香を上げに行った彼女は……『供物』、
昭和40年代の北海道、自衛隊駐屯地。当直をしていた私に、師団長の三田村陸将が鰻を土産に持ってやってきた。大好物だという鰻を彼が食べられない理由とは……『雪鰻』、
大学の学生運動が盛んな時代。大学生・悟は、ひょんなことからアパートの隣室で暮らす母・夏子と娘・美鈴と知り合い、たびたび幼い美鈴の相手をする事に……『インセクト』、
医学部で教える北村雅子は、教え子で恩師の息子である太田から、彼女の祖母の通夜に同行したいと頼まれる。その年まで葬式に出たことがないという彼は、人間が死ぬということがピンとこず、解剖の実習がうまくいかないのもその所為ではないかというのだ。かくして2人でお香番を勤めることに……『冬の星座』、
自分の目の病ゆえに、愛する英一と沿い遂げられなかった田中時枝は、温泉街でマッサージ師として働いていた。その彼がいつかやってくることを夢見て……『めぐりあい』、
行員をリストラするのが嫌になり、自らが辞めた元銀行員・塚田の再就職先は、成り上がり社長・鈴木一郎のお抱え運転手。“シューシャインボーイ”という競争馬を持つ彼が、新宿のガード下の靴磨きに通う理由とは……『シューシャインボーイ』の7編収録の短編集。

どれも、切なくも素敵な余韻の漂う作品集でした。
……でもゴのつく生き物(笑)を飼うのはやめて欲しい;>インセクト

<07/7/29>

『赤い薔薇ソースの伝説』ラウラ・エスキヴェル(世界文化社)

2007-07-28 | 読了本(小説、エッセイ等)
革命時代のメキシコ。
田舎の裕福な農場の末娘・ティタ……台所で産気づいた母・エレーナによりその場で生み落とされた彼女は、台所女ナチャに育てられ、料理が得意な少女に育つ。
そんな彼女が15歳のある日、ペドロ・ムスキムから結婚を申し込まれたものの、昔からの伝統で末娘として母の面倒を一生見なくてはならないという義務が負わされていたティタは、母の反対によりその話を壊された挙げ句、ペドロはティタの姉・ロサウラと結婚することに……。
母にいじめ抜かれ、誰よりも頼りにしていたナチャも先立ち、ペドロとロベルトとの間に生まれた甥・ロベルトを可愛がるも、その手から引き離されてしまう。
そんな彼女の前に、ジョン・ブラウン医師が現れ……

彼女の作る料理が、その感情の影響を受け、さらに食べた人間にも多大な影響を及ぼすあたりは、どこかファンタジックでコミカルですらあるのですが、どうにもペドロを始め、むかつく人々が多すぎて……;(場所と時代背景もあるので、しょうがないかもしれませんが/笑)

<07/7/28>

『数学的にありえない 下』アダム・ファウアー(文藝春秋)

2007-07-27 | 読了本(小説、エッセイ等)
数学者デイヴィッド・ケインと女工作員ナヴァ・ヴァナーは、ケインを狙う追っ手からの逃走を続ける。
そんな中、ケインは自分の能力が、現在のことをすべて知っているがゆえに過去も未来もすべて見通せる全知の存在……<ラプラスの魔>にも匹敵するものであると知る。
やがて、ケインの双子の兄であるジャスパーがフォーサイスらの手に落ち、彼もまた<すべてのとき>へのアクセスを封じられ絶体絶命に……

だんだんSFアクションな展開になっていく様がおもしろいですね(笑)。
またどこかで映像化の話が持ち上がりそうかも(笑)。

<07/7/27>

『6時間後に君は死ぬ』高野和明(講談社)

2007-07-26 | 読了本(小説、エッセイ等)
他人の非日常の出来事を、ビジョンで見ることが出来る青年・山葉圭史の見た『未来』とその顛末を描いた連作短編集。
25歳の誕生日を翌日に控えた原田美緒。友人との待ち合わせ場所へ向かう為、渋谷を歩いていると、見知らぬ青年に“6時間後に君は死ぬ”と予言される。当然美緒は信じていなかったが、その後友人にすっぽかされたことを言い当てられるに至り、自分を殺しそうな人間を、彼と共に探すことに……『6時間後に君は死ぬ』、
テレビドラマのプロットライターである朝岡未来。脚本家を目指している彼女だったが、なかなかうまくゆかず、汲々とした生活を送っていた。そんな彼女はふいに思い立ち、幼い日過ごした故郷へ。そこで出会った少女は……『時の魔法使い』、
次から次へ恋人を変えている女子大生・未亜。未来を当てる青年の話を聞いた未亜は、彼に会うが“今度の水曜日には、恋をしてはいけない”といわれる……『恋をしてはいけない日』、
ダンサー志望の香坂美帆。オーディションを受け続けるが、なかなか受からず思い悩む日々。
一方、とあるリゾート地にある『ドールハウス・ミュージアム』が閉館を迎えようとしていた。そこには、ダンサーを主役とした人形があり……『ドールハウスのダンサー』、
5年前出逢った圭史にもう一度逢いたいと思い続けていた原田美緒は、就職先である結婚式場で圭史と再会を果たす。しかし圭史は、彼女のビジョンの中に自分が3時間後に死んでいる姿を見る……『3時間後に僕は死ぬ』、
会社帰りに立ち寄った古道具屋で見つけた古い日記帳。そこには、今日あったことが書かれていて……『エピローグ 未来の日記』を収録。

“未来”というモチーフが、いろんなアプローチで書かれていて楽しめました。『時の魔法使い』が特に良いかな。
個人的に、登場する女性たち(主役)の名前に皆、『み』という文字が使われているのが、何かの意図か、それとも単なる趣味か気になります(笑)。

<07/7/26>