黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『春のお辞儀』長嶋有(ふらんす堂)

2014-07-01 | 読了本(小説、エッセイ等)
はるのやみ「むかしこのへんは海でした」
年末や仲悪いそうに佇んで
白玉や子供は空を飛べません
ブランコしか座るところのない冬日
冬籠切手は左側に貼る
夏の夜をまっすぐ進む担架かな
猫又と気づかれなくて丸くなる
控えめな春のお辞儀を拝見す
きゃーという正しい悲鳴彼岸花
なぞなぞの答えはさかさ アマリリス ※アマリリスは逆さに印刷

長嶋さんの第一句集。
作家でもある長嶋さんですが(そして昨日読んだ「ブルボン小林」さんでもある…)、小説で描かれている世界観同様とぼけたような、でもちょっと切なさもあり、すごく楽しい句集でした(いっぱい引きたい句があるけど10句だけにしておく…)。
俳句の方が作品内の余白が大きいかなー?

<14/7/1>

『オレがマリオ』俵万智(文藝春秋)

2014-06-10 | 読了本(小説、エッセイ等)
醤油さし買おうと思うこの部屋にもう少し長く住む予感して
のらくじゃくナオーンナオーンと鳴く夜をぎゅっと何かに抱かれて眠る
「オレがいまマリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ
今のおまえをとっておきたい海からの風を卵のように丸めて
子と我と「り」の字に眠る秋の夜のりりりるりりりあれは蟋蟀
七匹の子ヤギ残して母さんは何の用事があったのだろう
無垢、無邪気、無心、無防備 笑顔とは無から生まれるものと思えり
この人の何を私は知っていて何を私は知らないでいて
死を悼む文章をさえ推敲し百合の花匂いすぎる食卓
危ないことしていないかと子を見れば危ないことしかしておらぬなり

第五歌集。
震災を挟み、息子を連れて沖縄へ移住し、島での生活。親しいひとたちの死などが詠われています。
俵さんの歌集を読むのはかなりひさびさかも(「サラダ記念日」が流行った時以来…)。

<14/6/10>

『海うそ』梨木香歩(岩波書店)

2014-05-15 | 読了本(小説、エッセイ等)
昭和のはじめ。両親と許嫁、恩師をなくし喪失感を抱えていた若き人文地理学の研究者である秋野は、恩師の未完の研究を引き継ぐべく、南九州の小島・遅島へとフィールドワークにやってきた。かつて修験道の霊山があったその島は、平家の落人伝説も残る自然豊かな島。恩師の地図に記されていた「海うそ」という言葉。
島唯一の西洋風の建物に暮らす山根氏をはじめとした、島のひとびとと親しくなる。廃仏毀釈以前に、島にかつて存在したらしい宗教の存在、神秘にみちた風土などについて体験をしてゆくが……

概ねは昭和初期の南の島(モデルは甑島?)を舞台としたお話。
基本は風土記っぽい感じではあるのですが、最後でいきなり時代がぽーんと跳び、五十年後思わぬ形でふたたび島と関わることになったり。喪失感とその昇華、がテーマかな。いろいろ痛いです……(>_<)
ここでの『海うそ』は、蜃気楼の意。

<14/5/14,15>

『螺法四千年記』日和聡子(幻戲書房)

2014-04-07 | 読了本(小説、エッセイ等)
海辺に流れ着き、その町の民宿・宝船に長逗留している作家くずれの男・印南。
客など来ない古道具屋・伽耶伽耶で店番をしている彼は、ある時『螺法四千年記』と題された古い冊子を見つけて読んでみることに。
それは虫やあめふらし、蝸牛などの小動物や人間くさい神の暮らしについて描かれていた。夢かうつつか、印南もまたその中に姿を現しては不思議な体験をすることに……

印南という男(ときどき白蜥蜴)と人間じゃないモノたちのちょっとほのぼのテイストの幻想小説。
世界観的には『家守綺譚』っぽいかな。
現実と幻想の境目が曖昧な感じのお話で、読んでるとぐるぐるしますがそれもまた楽しいかも。
詩人の方だけあって、擬音や言葉選びがやや独特ですね。

<14/4/6,7>

『白へ』藤田千鶴(ふらんす堂)

2014-04-05 | 読了本(小説、エッセイ等)
私はもう沼かもしれずつるつるの廊下をゆけば水の匂いたつ
晩白柚に深くナイフを刺しいれて月の破片を月より剥がす
とりあえず噛むには噛んだがというような戸惑いありき犬の側にも
耳というちいさな器に生きているあいだのやさしい記憶を仕舞う
飴色の小野さんである小野さんは小野さんを抜けて風を見ている
疑わず君の螺子だと思いいしに君が私の螺子だったのだ
金の羽ひとりひとりに差し出して冬のある日に消えてしまいぬ
あの猫は見覚えがあるシマシマの滑り降りたら楽しそうな背中
「特にカニを好むわけではない。」という但書つけしは蟹食い猿か
影だけの国の住人どこからが自分の身体かわからず眠る

第二歌集。真っ白な装丁が素敵です。
短歌の他に、童話4編が収録されているのが特徴的かも。
ちょっとファンタジックな雰囲気もあって、好み☆

<14/4/4,5>

『雲をつかむ話』多和田葉子(講談社)

2014-04-03 | 読了本(小説、エッセイ等)
ドイツのベルリンに暮らす、日本人作家である「わたし」。
1987年、自宅で販売している自作の本を買いに来た男の応対したが、包装し終えたときには既に彼の姿は消えていた。後に、彼から手紙が届き、自分は殺人をおかした犯罪者であり、当時逃走中であったことが綴られていた。その後、刑務所から外出許可を貰った彼が「わたし」に会いにくるも不在で、会えないままとなる。彼の名は、フライムートだという。
かつて犯罪をおかしたことのある詩人Zとの邂逅、かつて文学祭で訪れた地で宿舎とした老人ホームに関わる牧師とその妻の事件、家元制度に反対し切りつけた「マボロシ」さんのこと、「わたし」の作品の舞台化に関わった俳優の双子のかたわれの無賃乗車運動のこと……さまざまな自分を取り巻く犯罪についてあれこれ意識しはじめる「わたし」だったが……

ひとりの犯罪者との出会いをきっかけとしてが、「犯罪をおかす人」というものについて意識を向けるようになったドイツ在住日本人女性作家、そして彼女が遭遇するひとびとのお話。
夢と現実が交錯しつつ、どこか茫洋としたような文字通り「雲をつかむ」ような手触りの作品でした。

<14/4/1~3>

『はじめての短歌』穂村弘(成美堂出版)

2014-03-31 | 読了本(小説、エッセイ等)
有名な歌から一般の投稿歌まで幅広く例にとり、良い歌と呼ばれる歌はどんな風に表現されているのか、改悪例を挙げつつ語る。短歌表現についてまとめた一冊。

良い作品と悪い作品の差異について…同じような内容であっても、ほんのすこし表現が違うだけで印象がどう変わるのかを、よく陥りがちな悪い例を示して解説されていて、わかりやすい入門書でした(それを実行できるかどうかはまた別問題…)。

<14/3/31> 

『恋歌』朝井まかて(講談社)

2014-03-26 | 読了本(小説、エッセイ等)
明治の世、良家の子女が通う歌塾「萩の舎」を主宰し、樋口一葉の師として名を知られた歌人・中島歌子。
その門人である三宅花圃は、「篠突く君」と呼ばれる萩の舎の奉公人・中川澄とともに、病床にある歌子の書物の整理をする中で、歌子の思いがけない半生を知ることとなる。
幕末、江戸の大きな宿屋・池田屋の一人娘として生まれた登世は、水戸藩士の林忠左衛門以徳と恋に落ち、反対されながらもその思いを成就させる。水戸出身である住み込みの爺や・清六を連れ、林家に嫁いだ登世だったが、以徳の妹・てつは彼女にこころを開こうとはせず折り合えない上、林は藩内の尊皇攘夷運動の内乱にまきこまれ天狗党の志士の中核となり、やがて行方知れずとなる。
やがて、てつとともに敵対する諸党派らにより投獄された登世は、天狗党の妻子たちの粛清の地獄を見ることに……

直木賞受賞作。明治期の歌人・中島歌子を主人公に、水戸の天狗党の乱により翻弄される人生を描いた歴史小説。
これまで江戸の市井のひとびとを描くことが多かった朝井さんの作品とはまた雰囲気が全然違ったお話。
あまり知ることになかった題材でとても興味深く読みました。

<14/3/25,26>

『窓、その他』内山晶太(六花書林)

2014-02-27 | 読了本(小説、エッセイ等)
春の日のベンチにすわるわがめぐり首のちからで鳩は歩くを
てのひらに貰いしお釣り冬の手にうつくしき菊咲きていたりき
お魚のように降るはな 一生の春夏秋を遊びつかれて
諍いのさなか機械音のごとく鳴る猫の声あり夜窓のむこう
なきがらの虫は地面に落ちていてひとつひとつが夭折なりき
なんという日々の小ささ抱擁をあるいは生の限界として
つややかに人体模型立ちており手触るる日々を秋の冷たさ
五島くんのシャツの袖口に飛び込みし鮭のかけらの行方しられず
夜の窓に百花みだれてこまやかなる地獄絵図降るゆめのさなかに
鳥瞰は胸にひろがる酸味とも町並みにこわれものの雪ふる

第一歌集。
繊細な描写と感覚に基づく世界観のうつくしさが光る歌が素敵です。

<14/2/26,27>

『トゥルークの海賊 3』茅田砂胡(中央公論新社)

2014-02-18 | 読了本(小説、エッセイ等)
人質をとった偽シェンブラック海賊団に対し、トゥルーク政府は人質の命が最優先であることを表明。そのため連邦軍の討伐艦隊はカトラス星系外縁部に待機せざるを得なくなった。
トゥルークの巧みな交渉のもと、彼らが要求していた資材を積んだ大型コンテナ船と人質とが順調に交換され最後の一隻となった時、なぜかコンテナ船が一斉に消失。不測の事態に激怒した海賊団はついに核攻撃を決行する。
そこへ、跳躍してきた所属不明武装艦艇の正体とは……表題作完結編のほか、
中央座標シティの連邦主席官邸に呼び出されたクーア夫妻がそこで出会ったのは、惑星トゥルークの外務大臣である航宙総省の長官であるラルス・バックマンと、市役所の職員だというふたりの派手な人物…ライジャの両親だった。そこへライジャとともにルゥもやってきたことから……前日譚にあたる『大いなる闇がやって来た トゥルークの海賊序章』を収録。

完結編。
いよいよ真打ち登場というか伝説の海賊団(本物)登場で、完全に怪獣夫婦が食われてる感が(笑)。
彼らの大暴れが楽しいですが、それだけにあまりにも瞬殺されている敵が、何だかもう…;

<14/2/17,18>