【中国原産、和名は蘇芳染めに似た花の色から】
4月頃、若葉に先立って紅紫色の小花(径2cmほど)が枝の所々に10~20個ずつびっしりまとまって咲く。マメ科ハナズオウ属の落葉低木で、花はマメ科の植物らしい蝶形の5弁花。原産地は学名「Cercis chinensis(セルシス・シネンシス)」が示すように中国で、日本には江戸時代前期以前に渡来した。「明治前園芸植物渡来年表」(磯野直秀氏著)によると、江戸初期の『抛入花伝書(なげいればなでんしょ)』(1686年刊)が和名ハナズオウの初出という。
この和名は花の色が染料植物スオウ(マメ科ジャケツイバラ属)の赤い染め汁に似ていることに由来する。スオウはインド~マレー諸島原産で、日本には飛鳥~奈良時代に渡来し、織物の染色のほか樹皮などが薬用としても用いられた。くすんだ赤色の「蘇芳色」は日本の伝統色の一つにもなっている。花が鮮やかなハナズオウも一見草木染などに使えそうだが、残念ながら染料には向かないようだ。花の色は紅紫のほか白花もあり、清楚な雰囲気が人気を集めている。
主な仲間にアメリカハナズオウとセイヨウハナズオウがある。前者は北米の東部から中部にかけて分布し、米オクラホマ州の「州の木」にもなっている。花はハナズオウより小さめだが、様々な園芸品種が作り出されている。ハナズオウが箒状の株立ちになりやすいのに対し、こちらは単幹(一本幹)になるのも特徴。セイヨウハナズオウは南欧から西アジアにかけて自生する。欧米では「Judas tree(ユダの木)」とも呼ばれる。これはイエスキリストを銀貨30枚で売り渡した裏切り者イスカリオテのユダ(十二使徒の1人)が、この木で首を吊って命を絶ったという伝説に基づく。「愚直なる色香の蘇枋咲きにけり」(草間時彦)