【穂状花序から突き出す白い雄しべ】
奈良市内を散歩中に道端で出合った。ヨーロッパ原産で、日本には江戸時代末期の19世紀中頃、牧草の種子に紛れて入ってきたらしい。オオバコの仲間だが、オオバコより全体的にかなり大きく、先端に穂状花序を付けた花茎は高さが40~50cmにも達する。花は下のほうから順に咲き上がり、雄しべの白い葯が輪を描くように飛び出す。オオバコの葉が丸い卵形~楕円形なのに対し、こちらは細長くて先が尖る。その形が靴べらに似ることからヘラオオバコと名付けられた。
学名は「Plantago lanceolata(プランタゴ・ランセオラタ)」。属名は「足跡」を意味するラテン語に由来。オオバコの仲間の多くが人や動物がよく通る踏み固められた場所を好む特性を表す。ただヘラオオバコは踏みつけには弱く、河川敷や畑地、牧草地など生えることが多い。種小名は「披針形の」を意味する。これは葉の形から。ヨーロッパでは葉や根が家畜飼料や薬用として利用されてきた。花は一見愛らしく、ある花の辞典には花瓶に生けた花の写真も。ただヘラオオバコは花粉を風で遠くまで飛ばす風媒花で、アレルゲンの一つとして花粉症を引き起こすとの報告もあるので注意が必要だ。
繁殖力は旺盛。1株の種子生産量は数百個から数千個、最大で1万個にも上るという。かつては外来生物法により「要注意外来生物リスト」に登載されていたが、2015年に代わって新しく作成された「生態系被害防止外来種リスト」ではリストアップを免れた。ヘラオオバコに関する記述には書籍でもネットでも「雑草」という表現が目立つ。この雑草という単語を目にするたび頭に浮かぶのが、昭和天皇が侍従に語りかけたというお言葉。「雑草という草はない。どの草にも名前があって、それぞれ自分の好きな場所を選んで生を営んでいる」