【1948年に徳島県で1株だけ見つかった謎の植物】
モクレン科モクレン属の落葉高木。和名の通りコブシによく似ているが、花や葉はコブシより大きく、花径は10~15cm(コブシは6~10cm)にもなる。開花時期もコブシよりやや遅め。学名は「Magnolia pseudokobus(マグノリア・プセウドコブス)」。属名は17~18世紀のフランスの植物学者ピエール・マニョル(1738~1815)への献名。種小名は「コブシに似た」を意味する。
この樹木は約70年前の1948年に徳島県の南西部に位置する相生町(現須賀町)で2人の植物学者によって1株だけ発見された。その原木は枝が地面を這って接地面から発根し株立ち状だったという。そのため「ハイコブシ」とも呼ばれる。その後数回にわたって現地調査が行われたが、他には見つからなかった。幸い発見者の1人が原木から挿し木栽培していたため絶滅を免れた。現在では地元の相生森林美術館や各地の植物園などで栽培されている。このため環境省のレッドデータブックでは栽培下でのみ存続している種として「野生絶滅」になっている。
コブシモドキはコブシの近縁種とみられており、コブシとの交雑種との見方も出ている。ただ植物学者植田邦彦博士の研究で、3倍体のため種子ができないことが明らかになっている。またコブシは日本のほぼ全土に広く分布しているものの、四国には野生種がほとんど自生していない。では、コブシモドキはどうして生まれたのか、なぜ徳島で1株だけ見つかったのか。こうした数々の疑問からコブシモドキは発見以来、謎の植物として注目を集めてきた。
ネットで検索を続けると、その疑問に答えてくれそうな一文に出合った。京都大学大学院・地球環境学堂による論文『野性絶滅した希少樹木コブシモドキの系統的起源』。日本森林学会発行の「Journal of Forest Research」2020年10月号に掲載された。その抄録によると、葉緑体ゲノム解析などの結果、コブシモドキは「コブシの種内変異に含まれることが判明した」とし、「コブシを祖先として最近派生した植物であり、時として交配が可能なほど近縁であることが伺えた」。
3倍体については「コブシモドキはコブシが同質3倍体化することで生じた変異体であると考えられる」という。また「祖先種のコブシが四国には野生しないことを合わせて考えると、人為的に鑑賞木として四国に持ち込まれたコブシからコブシモドキが生じた可能性すらある」。そして、この論文はこう結んでいる。「独立種として記載されたコブシモドキはコブシの1品種として認識するのが適当である」