く~にゃん雑記帳

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<奈良県立美術館>「富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」

2019年08月15日 | 美術

【全162点、楽焼・白磁・染付・色絵磁器・金銀彩・墨画…】

 陶芸家富本憲吉(1886~1963)は奈良県安堵町の生まれ。ほぼ半世紀にわたる陶業の中で金銀彩技法を確立し、連続する4弁花(しべんか)や羊歯(シダ)など独自の模様を考案した。まさに日本近代陶芸の巨匠、人間国宝(重要無形文化財保持者)にも認定された。その富本の足跡と功績を辿る企画展がいま奈良県立美術館で開かれている。題して「富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」(9月1日まで)。

 富本が陶芸の道を歩み始めるのは留学先の英国から帰国後の1913年。自宅の裏庭に窯を造って楽焼の製作に着手した。親交のあったバーナード・リーチの影響が大きい。その後の陶業は創作の拠点から大きく大和時代(1913~26)、東京時代(26~46)、京都時代(46~63)の三つに分けられる。企画展は「はじめに、富本憲吉ってどんな人?」から始まり、3時代に「生い立ち」と「くらしを彩る―日用品の制作と量産の試み」を加え全5章で構成する。出品作品は陶器・磁器に書や墨画の屏風、額装なども合わせ計162点に上る。

 富本は大和時代、楽焼から白磁、染付と次第に幅を広げ、東京時代には色絵磁器、そして京都時代には金銀彩の技法を完成させた。富本は仕上がった壷20~30個を外に一列に並べては、最も形の整ったもの3分の1を白磁に、次の3分の1を染付に、残り3分の1を色絵の素地としたそうだ。それは「白磁の形は一切ゴマカシのない純一なものでなければならない」との考えによる。一方、形がいま一つのものを色絵用に回すのは、色彩や模様の装飾で〝一種の調整〟ができるからという。企画展にも「白磁八角壷」や新収蔵の「白磁壷」など、ボリューム感にあふれた美しいフォルムの白磁作品が多く並ぶ。

 「模様から模様を作るべからず」。富本はそれを信念とし、生活の中でふだん目にする自然から模様を作り出そうと心掛けた。そのため富本の作品にはアザミや竹、柳、スベリヒユなど身近な植物をモチーフにしたものが多い。4弁花模様はその延長線上で生まれた。発想の元になったのは奈良から苗を東京に運び玄関脇に植えていたつる性植物テイカカズラ(定家葛)。本来は5弁花だが、連続模様として使いやすいように4弁とし、花びらの捩れは花弁の形やシベの向きで表した。色絵4弁花模様の展示作品には明るい彩色が目を引く「飾壷」など新収蔵品も含まれている。

 京都時代のコーナーには代表作の一つ「赤地金銀彩羊歯模様 蓋付飾壷」(1953年)も並ぶ。富本はその前年の1952年頃、適温が異なるため不可能とされていた金と銀の同時焼き付けに成功し金銀彩技法を確立、同じ頃、連続する羊歯模様も考案した。金彩、金銀彩の作品群の周りには格調の高い華やかな雰囲気が漂う。最終第5章「くらしを彩る」には富本が手掛けた食器類や装身具の帯留、カフスボタン、ネクタイピンなども展示されている。1階ギャラリーでは安堵町による連携展示「憲吉が訪ねたぬくもりのある焼物」も開催中。

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