【仏像写真家・永野太造の作品をパネル展示】
奈良市の帝塚山大学付属博物館で、昭和後期に仏像写真家として活躍した「鹿鳴荘」主人、永野太造(1922~90年)の作品展が開かれている。題して「写真で巡る大和・山城の社寺彫刻―永野鹿鳴荘の写真作品から」。博物館実習生による企画展示で、実習生が展示作品の選定や解説キャプションの作製などに取り組んだ。2月3日まで。
「鹿鳴荘」は奈良国立博物館本館(現なら仏像館)の東入り口のそばにあった仏像・古美術の写真店(現在は土産物店)。永野はここを拠点に写真撮影に没頭した。仏像写真家といえば入江泰吉や土門拳が有名だが、永野の作品も「大和古寺大観」「奈良六大寺大観」などの美術書に多く使われた。帝塚山大学は永野の作品125点を所蔵する。
展示コーナーに並ぶ作品は東大寺の不空羂索観音立像や月光菩薩立像、興福寺の阿修羅像や弥勒如来坐像、法隆寺の釈迦三尊像、峰定寺の千手観音坐像、法華寺や室生寺の十一面観音菩薩立像、新薬師寺の伐折羅大将立像など。永野の仏像写真は「文化財調査を原点としたため、撮り手側の脚色をできるだけ抑えた写真を目指したのが特徴」という。
永野は写真を通じて仏像の魅力を広く紹介する一方、仏像保存運動にも積極的に取り組んだ。約30年前の新聞にその思いをこう寄せている。「平安、鎌倉といった昔につくられたお寺や仏像が荒れるにまかしてあるのは見るにしのびなかった。私たちは拝観したり、研究したりするだけでなく、それらを大切に後世に引き継ぐお手伝いをしたい」(1982年9月18日付日本経済新聞朝刊文化面)。