【〝万葉日本画〟中心に100点余】
奈良県内には古代「官道」が縦横に走っていた。三輪山の麓から難波宮に続く「横大路」、南北に貫く「下つ道」「中つ道」「上つ道」の三道、飛鳥と斑鳩を結ぶ「筋違道(太子道)」、奈良盆地東側の「山辺の道」……。奈良県立万葉文化館(明日香村)で開催中の「絵画で綴る大和古道」展はこれらの古代の道を、万葉集の歌をモチーフにした館蔵の〝万葉日本画〟を中心に100点余の絵画でたどる。
会場入り口正面を飾るのは平山郁夫の「額田王」(上㊧)。万葉日本画にはそれぞれモチーフとなった万葉歌と口語訳が添えられている。この作品には「君待つとわが恋ひをればわが屋戸の すだれ動かし秋の風吹く」(額田王)。濃い紫色の絹地に金泥の曲線で歌姫が描かれており、哀愁とともに高貴な雰囲気が漂う。この作品を皮切りに12の古道や地域ごとに作品が並ぶ。
奥田元宋の「明日香川夕照」(上㊥)のモチーフは「明日香川黄葉流る葛城の 山の木の葉は今し散るらむ」(作者未詳)。奥田は自然風景をよく赤で表現したが、この作品も〝元宋の赤〟を彷彿とさせる。上㊧の作品は辰巳寛の「月出づ」。万葉集の中で斑鳩を詠んだ歌は「斑鳩の因可(よるか)の池の宜しくも 君を言はねば思ひそわがする」(同)の1首だけ。井上稔の「斑鳩夕景」(下㊧)はこの歌を題材とした。
平岩洋彦の「早蕨(さわらび)」(上㊨)のモチーフは志貴皇子の有名な歌「石ばしる垂水の上のさ蕨の 萌え出づる春になりにけるかも」。平岩は「小さな蕨に目を留めるほどの繊細な歌を詠んだ皇子に少しでも近づかねば」との思いで描いたそうだ。万葉集で最も多く詠まれた植物は萩の花。今展でも市川保道の「萩」、林潤一の「秋風」など、萩を描いた作品も多く出品されている。
静かな風景画が多い中で、絹谷幸二の「大和国原」(上㊧)はカラフルな色使いが際立つ。題材となった万葉歌は舒明天皇の「大和には群山あれど とりよろふ天の香具山…うまし国そ蜻蛉島大和の国は」。絹谷は「鳥のように大空を巡っていくようなはるかな視線に万葉人の眺望のスケールを感じざるをえない。古代人の飛行する心に私自身の筆をのせてみたいと思った」との言葉を寄せている。
川崎春彦のメルヘン調の作品「鳥の声」(上㊨)も目を引く。木々に止まる様々な鳥の奥には山のような大きなゾウの姿。山部赤人の歌「み吉野の象山(きさやま)の際の木末(こぬれ)には ここだもさわく鳥の声かも」をモチーフとした。川崎は象山を求めて吉野を歩き回って、万葉の世界が今もそこにあるのを感じたそうだ。「象山はよく見ると、アチコチの山全部が象の形に見えてきた。飛鳥の人達が象の山を愛した素直な童心が漂ってくるようで嬉しかった」という。同展は3月2日まで。