経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

危険性を伝えるということ

2011年04月21日 | 経済
 今回の原発事故では、国民への情報の出し方が問われている。リスク・コミュニケーションと言われるものだ。基本は、より早くということになろうが、本当に早く出した方が良いものなのか、事故の初期対応の状況が明らかにつれて、そんな疑問も湧いてきた。

 原子力の専門家にとっては、原子炉の冷却のための電源装置が失われたとき、どのような時間的推移で、何が起こるかは承知のことだったはずだ。報道されているように、原子力安全基盤機構が昨年10月に報告書をまとめているから、専門家は読んでなければおかしい。実際、そこに書かれていることが起こった。

 それを踏まえると、電源喪失の段階において、炉心溶融が起こり、核燃料が崩落し、圧力容器や格納容器の損壊に進み、大量の放射性物質が放出されることは、十分に予想されたことであり、それを国民に伝えることも可能だったはずだ。早い段階で、記者団にそうした「背景」説明をしていた技術系の審議官が居たとも言われる。

 むろん、原子炉の中で何が起こっているか、確かめることはできないのだから、十分な「可能性」があったとしても、口を噤むことが、間違った行為だとは責められない。今回の震災で落ち着きぶりを賞賛されている日本国民にしても、さすがに、そうした深刻な事態を短時間のうちに聞かされていたら、パニックになっていたかもしれない。

 政府は、技術系の審議官をスポークスマンから外し、文系の者に代えて、「余計なこと」を説明しないようにした。管首相が国会で「評価を歴史に待つ」と発言するのも、あながち、強がりばかりではなく、世間が思う以上に、早くから深刻な事態を認識していて、「全力」で事に当たっていたのだと言いたいようにも見える。 

 先の報告書には、容器が破損するとあったわけだが、その意味するところは、大量の水素の発生による、原子炉建屋を吹き飛ばすほどの爆発であった。そこまて明確に書いてあったのなら、報告書は原子炉の安全管理の方法を変えていただろう。そこは惜しまれるところである。しかし、確率的である巨大な損害の危険性を、どのように伝えるか、その答えは、筆者にも分からない。

(今日の日経)
 LED照明に節電需要、リコーが参入。社説・景気と貿易収支の悪化に細心の注意を、家庭の節電意欲をどう高める。素材、復興需要は夏以降、回復ピッチ遅く。「稼ぎ」減り起こること・滝田洋一。公営住宅を被災者に6万戸計画、払い下げも可能。夏の電力供給さらに積み増し5500万kw。三洋、店舗・家庭向け蓄電装置。東ガスが風力発電を強化。金利1.230%に低下。経済教室・生産性向上に健康もカギ・河野敏鑑・齊藤有希子。


※本コラムが示してきた方向に、ようやく日経が気づいてくれたように感じる。本コラムでは、電力供給力を最重要情報としてきたが、今日も詳しく報道してくれて、ほぼ夏の需要を賄えるところまで来たことが判明した。また、今日の社説では、節電策への踏み込みも見られる。

 そして、もう一つ、今日の社説にあるように、震災後の経済指標で出始めたことで、景気を心配するようにもなった。これで、反バラマキ、増税歓迎の態度を、少し改めてくれれば良い。こうしたことは、一定以上の成長率を実現してからのことなのだ。それを肝に銘じなければならない。

 滝田さんは、貿易収支の悪化を気にしているようだが、真に恐れるべきは、景気を失速させ、所得の減少を通じて、国債を引き受けている家計や企業の貯蓄を減らしてしまうことである。日本の財政当局は、こうした「自爆」をハシモトデフレの時にしているので要警戒だ。ハシモトデフレも、阪神大震災の時の村山政権で消費税増税を仕掛けたことが伏線になっている。

 震災による輸出力低下は一時的なものであり、復興資材の輸入増も然りである。これに驚いて緊縮財政を取り、デフレにして短期的に輸入を抑えても意味がない。むしろ、それは国内の設備投資を停滞させて生産力を弱め、中期的な輸出力を低下させてしまう。そうなると、構造的な貿易赤字国になり、外債に頼る国へ転落することになる。単に財政再建をすれば済むという単純なものではない。

 滝田さんが言うところの「財政再建の道筋」は、4/17に書いたとおりである。日経の編集委員ともなれば、この程度のイメージは持っておかなければならない。要は、経済状況に合わせることを第一とし、必要最小限の増税を着実にするということである。派手な歳出削減や一気の増税は、非常に巨大な危険を伴うもので、大自爆を起こしてからでは遅いのである。さてと、リスクコミュニケーションになったかね。


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