11/14公表のQEで、日本のGDPは535兆円に達し、駆け込み需要に沸いた2014年1-3月期に並んだ。むろん、過去最高水準だ。他方、家計消費(除く帰属家賃)は247兆円と、消費増税直後の落ち込み時の2014年4-6月期と変わらず、まったく生活は良くなっていない。この247兆円は、6年も前の2010年7-9月期と同じだ。成長したのに、恩恵がないという異常さは、金融緩和に緊縮財政を組み合わせたアベノミクスの当然の帰結である。
………
消費増税前の家計消費は255兆円程だったから、約8兆円減っており、ちょうど消費増税で取り上げられた分に相当する。消費増税の影響を軽視する人たちは、これをどう評価するのか。しかも、それまでの緩やかな増加トレンドが失われてしまった。増税ショックの落ち込みが、一時的でなく、2年半にも渡って続いていることは重大だ。なぜ、消費の「成長力」は消えたのか。
実は、消費の動向は、外挿的に決まる3つの需要を足し合わせたものと、よく似ている。この「3需要」とは、民間住宅、公共事業(公的固定資本形成)、輸出の3つだ。消費と3需要の動向が似かよう理由は、3需要の生産活動が高まると、追加的な所得が増え、その分、消費が押し上げられるからだろう。では、消費と同じく、増加トレンドを失った3需要は、どんな経緯をたどったのか。
それは、複合的なものである。まず、増税前の景気づけをしていた公共が消費増税を前に減少に転じ、次いで、増税を境に、住宅が、駆け込みと反動により、下落した。そして、増税後も支えていた輸出が2015年春に失速する。こうした動きが重なり、3需要も、消費増税以降、まったく増えない形になった。教科書的には、金融緩和をすれば設備投資が増え、経済は成長するというものだが、現実は、随分と様相が異なるのである。
(図)
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さて、そうすると、消費や成長のために、3需要を伸ばせば良いと思われるかもしれないが、事は、そう簡単でない。確かに、2015年春以降、輸出が失速しているに、公共の手を抜いたのは、ボーンヘッドだったにしても、輸出は、世界経済次第の水物であるし、建設関係の需給は、毎日エコノミスト(11/15)で日本総研の枩村秀樹さんが指摘するように、逼迫していて、これを吹かすと空回りしかねない。
そもそも、本来、3需要は景気回復のスターターでしかない。3需要と、これが加える消費増が、設備投資のリスクを癒し、投資増、所得増、消費増と波及して、好循環に移行する。これを消費税や社会保険料の負担増でせき止めるのは、セルモーターだけでクルマを動かそうとするようなもので、エンジンをかけないでいると、そのうちモーターのバッテリーがダウンしてしまう。緊縮財政は、こういう問題を孕むのだ。
政府の働き方改革では、配偶者控除の改革が課題になっているが、財政当局が税収中立という理屈を振り回したために、袋小路に入ってしまった。所得税は、2013年度から2015年度にかけて2.3兆円も増えているのに、これを還元しようという発想はない。おまけに、人的控除の範囲での中立に拘泥するから、利子・配当所得への増税で補おうといったことは、及びもつかない。成長も社会もそっちのけの財政至上主義の現れであろう。
またぞろ1000万円超の高所得層の負担増で賄おうとしているが、児童手当も与えず、高校無償も外し、配偶者控除もなくすといったことを続け、財源確保策だと言って社会制度での選別を強めれば、国民の間に分断を生む。トランプ現象を目の当たりにしても、危機感はないようだ。消費増税でデフレに転落させ、回復の芽を摘む緊縮財政の繰り返しで企業の成長志向を去勢し、いよいよ社会連帯の堀り崩しへと進む。
………
金融緩和と緊縮財政の組み合わせでも、ある程度の成長は得られる。しかし、その成長は不公平なものと見られがちだ。米国では、日欧に比べれば、リーマン後の経済運営が比較的、上手く行っていたのに、働く低所得層に不満が鬱積していた。オバマ政権が十分な財政措置を取れず、金融緩和に頼らざるを得なかったのは、共和党の反対によるもので、しかも、景気は加速しているのだから、選挙結果は何とも皮肉である。
7-9月期GDPの結果は、金融緩和と緊縮財政の組み合わせを象徴するようなものだった。米国の社会分断の噴出は「他山の石」にせざるを得まい。幸い、足元で3需要は上向いている。輸出は増加基調にあり、住宅の上乗せは難しいものの、補正予算の公共事業が補う形になろう。大切なのは、こうした回復の芽を育てると同時に、働く低所得層への還元を図って、社会連帯を保つことである。
(今週の日経)
国債 消えるマイナス金利。新興国通貨安 景気に影。中国の車市場、減税バブル。日銀 利回り指定で国債無制限購入。人民元安、リーマン前迫る。配偶者手当の縮小求める 会員企業に経団連。減税含む財政拡大必要 浜田宏一氏。
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消費増税前の家計消費は255兆円程だったから、約8兆円減っており、ちょうど消費増税で取り上げられた分に相当する。消費増税の影響を軽視する人たちは、これをどう評価するのか。しかも、それまでの緩やかな増加トレンドが失われてしまった。増税ショックの落ち込みが、一時的でなく、2年半にも渡って続いていることは重大だ。なぜ、消費の「成長力」は消えたのか。
実は、消費の動向は、外挿的に決まる3つの需要を足し合わせたものと、よく似ている。この「3需要」とは、民間住宅、公共事業(公的固定資本形成)、輸出の3つだ。消費と3需要の動向が似かよう理由は、3需要の生産活動が高まると、追加的な所得が増え、その分、消費が押し上げられるからだろう。では、消費と同じく、増加トレンドを失った3需要は、どんな経緯をたどったのか。
それは、複合的なものである。まず、増税前の景気づけをしていた公共が消費増税を前に減少に転じ、次いで、増税を境に、住宅が、駆け込みと反動により、下落した。そして、増税後も支えていた輸出が2015年春に失速する。こうした動きが重なり、3需要も、消費増税以降、まったく増えない形になった。教科書的には、金融緩和をすれば設備投資が増え、経済は成長するというものだが、現実は、随分と様相が異なるのである。
(図)
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さて、そうすると、消費や成長のために、3需要を伸ばせば良いと思われるかもしれないが、事は、そう簡単でない。確かに、2015年春以降、輸出が失速しているに、公共の手を抜いたのは、ボーンヘッドだったにしても、輸出は、世界経済次第の水物であるし、建設関係の需給は、毎日エコノミスト(11/15)で日本総研の枩村秀樹さんが指摘するように、逼迫していて、これを吹かすと空回りしかねない。
そもそも、本来、3需要は景気回復のスターターでしかない。3需要と、これが加える消費増が、設備投資のリスクを癒し、投資増、所得増、消費増と波及して、好循環に移行する。これを消費税や社会保険料の負担増でせき止めるのは、セルモーターだけでクルマを動かそうとするようなもので、エンジンをかけないでいると、そのうちモーターのバッテリーがダウンしてしまう。緊縮財政は、こういう問題を孕むのだ。
政府の働き方改革では、配偶者控除の改革が課題になっているが、財政当局が税収中立という理屈を振り回したために、袋小路に入ってしまった。所得税は、2013年度から2015年度にかけて2.3兆円も増えているのに、これを還元しようという発想はない。おまけに、人的控除の範囲での中立に拘泥するから、利子・配当所得への増税で補おうといったことは、及びもつかない。成長も社会もそっちのけの財政至上主義の現れであろう。
またぞろ1000万円超の高所得層の負担増で賄おうとしているが、児童手当も与えず、高校無償も外し、配偶者控除もなくすといったことを続け、財源確保策だと言って社会制度での選別を強めれば、国民の間に分断を生む。トランプ現象を目の当たりにしても、危機感はないようだ。消費増税でデフレに転落させ、回復の芽を摘む緊縮財政の繰り返しで企業の成長志向を去勢し、いよいよ社会連帯の堀り崩しへと進む。
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金融緩和と緊縮財政の組み合わせでも、ある程度の成長は得られる。しかし、その成長は不公平なものと見られがちだ。米国では、日欧に比べれば、リーマン後の経済運営が比較的、上手く行っていたのに、働く低所得層に不満が鬱積していた。オバマ政権が十分な財政措置を取れず、金融緩和に頼らざるを得なかったのは、共和党の反対によるもので、しかも、景気は加速しているのだから、選挙結果は何とも皮肉である。
7-9月期GDPの結果は、金融緩和と緊縮財政の組み合わせを象徴するようなものだった。米国の社会分断の噴出は「他山の石」にせざるを得まい。幸い、足元で3需要は上向いている。輸出は増加基調にあり、住宅の上乗せは難しいものの、補正予算の公共事業が補う形になろう。大切なのは、こうした回復の芽を育てると同時に、働く低所得層への還元を図って、社会連帯を保つことである。
(今週の日経)
国債 消えるマイナス金利。新興国通貨安 景気に影。中国の車市場、減税バブル。日銀 利回り指定で国債無制限購入。人民元安、リーマン前迫る。配偶者手当の縮小求める 会員企業に経団連。減税含む財政拡大必要 浜田宏一氏。