経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済運営の反省点

2011年06月12日 | 経済
 本コラムを一般に公開するようになってから、2年近くが経つ。この間に示してきた経済の見通しは、ほぼ外さずに来ている。世間におもねらずに、この結果だから、ますまずではないだろうか。ただ、一つ読み違えたのは、昨年度後半の日本の消費動向である。もっと強く出ると考えていた。

 まあ、家計調査の季節調整やサンプル替えの影響が大きいようにも思うが、結果を否定しても始まらない。反省点は、エコポイント廃止などによる駆け込みと反動減への評価が十分でなかったことにあるように思う。所得水準が伸びていたので、もう少し、粘りを見せるのではないかと見ていた。

 ここから得られる教訓は、景気対策を打ち切るときは、きちんとした移行措置が必要だということである。もちろん、それが議論されている段階から危険性を指摘してきたのだが、経済にショックは禁物ということを再確認することになった。このようにして、経済運営の見識を磨いていくことは、プロの務めであろう。

 しかるに、日本の財政当局の場合、「増税は景気に影響しない」という信仰をお持ちなので、景気対策を打ち切ることに不安も感じないし、その後の消費の不調にも平気なものである。世間も、震災のあった1-3月期の落ち込みに気を取られ、その前の10-12月期が、それと変わらぬほど悪かったことの意味が分からないでいる。憂いなければ、反省もなしである。

 経済運営の心得として、景気回復局面での緊縮は慎重にすべしというものがある。これは、大恐慌の後、早々と財政を戻してしまい、二番底を作った「ルーズベルト不況」以来の教訓である。特に、現在の日本の場合、景気回復局面で法人税を中心に税収が急増する傾向があるため、景気が回復してきたからといって、安易に景気対策を切ってしまうと、ダブルパンチとなり、オーバーキルを起こしてしまう。

 昨年度後半は、まさに、そういう局面だった。前半の景気の急回復は、後半になると一気に鈍化し、円高に慌てて、増収分を充てての補正予算を組むというドタバタぶりだった。企業業績は向上しても、消費は、駆け込みと反動減を繰り返しつつ、伸び悩むという展開になった。はっきり言って、昨年度の経済運営は極めて稚拙だったが、日本人は、そのこと自体が分からないようだ。

 この影響はまだ続いており、前年度の税収は、補正後をも更に上回りそうである。その分、経済にはデフレ圧力が加わっていることになる。その大きさは、震災対策の一次補正の実質的な歳出の積増額である2.5兆円の大半を打ち消すほどになるかもしれない。需要管理の観点から見た日本経済は、こういう状況にある。

 似たような局面は、2006年~2007年にかけてもあった。当時、安倍内閣は、4兆円の緊縮財政の予算編成を行い、全国紙はもっと絞れと言っていたものである。筆者は、「夏の参院選を控えているのに、いい気なものだ」と冷ややかに見ていたが、案の定、成長の減速と景気が波及しないことへの不満が「格差問題」という形で破裂して、内閣は崩壊した。

 実は、昨日、取り上げた消費税に関する政府の「研究報告書」は、この経緯について、増税が景気に悪影響を及ぼさなかった例として挙げている。増税教の信者には、事実は都合良く見えるらしい。経済と言うのは、成長率の数字だけで計られるのではなく、国民生活の在り様を見なければならないが、それは、お役人にとって問題にはならないということだろう。

 さて、このところの経済運営を振り返っても、反省すべき点は多々ある。むろん、財政当局は反省などしていない。もっともっと緊縮をしたかったが、運悪く景気が悪化したと思っていることだろう。全国紙も緊縮や増税は大好きである。「巨額の財政赤字にあるのだから、緊縮と増税は、すればするほど良い」と考えているようだ。どの程度の緊縮と増税なら、経済状況にマッチするのかという、ごく普通の議論は、日本には存在しないのである。

(今日の日経)
 日本企業アジアが稼ぎ頭、リーマン前並に。復興増税・枝野氏は消費税以外で。スズキPHVを13年投入。社説・高速無料化は被災者限定で。上海指数低迷・吉田忠則。中国バブル懸念高まる、沿岸部では調整色。ボルトガル国債利回り過去最高。NY株12000割れ、弱気心理が台頭。LED照明素材も活況。トヨタ世界生産は前年度上回る。読書・日本型近代家族。

※大企業は海外で稼いでいるし、自動車各社の2012年3月期見通しも悪くない。2011年度税収は前年度並みが望めるかもしれない。今からこういう読みをしているのは、筆者くらいのものかな。 ※筆者も被災者支援は直接的にすべきと思うね。 ※毎日のように、米中欧の不調のニュースが入ってくる。7-9月期には影響が出るかもしれないな。


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