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韓国が「法曹一元」(弁護士や検察官を数年経験しないと裁判官になれないという制度)になったというので視察に行ってきました。最終的には10年弁護士等を経験しないと裁判官になれないという制度に変わったのですが、経過措置として10年の猶予期間が在り、最近の5年は、3年の弁護士経験で良い。しかも、うち2年間は、ロークラークという裁判所調査官のようなものを経験しても良いということになっています。そうなると、残りのたった1年しか弁護士をやる気がない裁判官志望者を受け入れる弁護士事務所があるのかという疑問も生じてきます(大手事務所などは、大いに受け入れるだろうと言っていましたが、状況は予断を許しません)。1年の「判事補他職経験」のような感じもします。
 
まずは、司法試験と弁護士試験を担当する法務部法曹人力課でのインタビューからご紹介します。
法曹一元になったのでロースクール修了者が受ける試験の名称は「弁護士試験」になりました。ロースクール修了者については司法修習を廃止してしまいましたので、まさに合格すれば、6ヶ月の研修期間はあるものの、すぐに弁護士になれるのです。検察官にもすぐなれるのですが、それなのに「弁護士試験」というのは、不思議な感じです。現に、裁判官になれるか不安なので検察官志望に人が流れたという噂もあります。なお、従来の司法試験も数年後まで徐々に合格者を減らして残ります。両方の管理委員会・考査委員は別々ですが、事務方は同じ、法務部の法曹人力課なので担当者に両方の話を聞きました(実は訪問直前に読んだ資料で初めて、二つの管理委員会が別であるということを知り、危うく話がおかしくなるところで、インタビュアーとして肝を冷やしました)
 
試験科目は公法系・民事系・刑事系・選択科目と言うところは日本と同じですが、韓国では法曹倫理の試験があります(点数はつけずに合否だけのようです)。韓国では旧司法試験でも行政法が必須科目だったので、その点の新味はないそうです。選択科目は、国際法・国際取引法・租税法・知的財産法・経済法・環境法・労働法です。従来の司法試験から法哲学と刑事政策が削られ、環境法が加わったそうです。
 
出題方法ですが、従来研修所でやっていた「白表紙」的な記録(50p程度のもの)を与えて、訴状・準備書面・弁論要旨などを書かせるものだそうです。そうであれば、事実認定的な要素も試験に入っているのか、ロースクールではそれに対応しているのかと質問したのですが、実体法・手続法の法律論的な質問しかしていない、とのお答えでした(時間の制約もあるのでそれ以上突っ込めませんでした)。口述試験は、司法試験にはあったが弁護士試験では廃止したそうです。理由は数の問題と言うよりも、必要性で、弁論能力・発表能力などはロースクール修了後に研修などで高められるべきものとの認識だそうです(本来なら口述で落ちていたはずの人が受かってしまっているという議論は、韓国にはないそうです)
 
ロースクール定員2000人中、今年の第一回試験では、1665名が受験し、1451名が合格。87.15%の合格率だったそうです。事前に法務部は、ロースクールで厳正な学位管理が行われることを前提に1500人以上合格させる、と方針を公表していたのですが、実際は1500人を切り、合格最低点は1667点満点中の770点だそうです(この結果については、旧司法試験で受かった若手弁護士からの強い批判が出ていると別のところで聴きました)。それにしては受け控えが多いように思うので質問したところ、330人余りのうち、約100人は退学者、230人の大半が落第者だろうと言うことでした。日本で行われている考査委員の採点雑感公表のようなフィードバックは、試験の中立性を害するとの考えと、考査委員を矢面に立てさせないとの配慮のために想定していないとのことでした。1500人は、韓国での法曹の市場規模・成長を見越してシュミレートした1600-1800人という数字を前提に決定したそうです。あと、ロースクール制度を定着させるためには70-80%の合格者を出さないと定着しないという理由もあるそうです。来年も合格者1500人という指針は発表されていますが、再来年以降は、ロースクール教育の状況や弁護士の社会進出状況、社会的需要を見ながら方針決定するそうです。
 
韓国でも、日本同様に弁護士試験の結果は個人に公表されるはずだったのですが、直前に法案が修正され、弁護士試験の成績は「何人にも」公開しないという法律になったそうです。だから、同じ法務部の検察官採用の部署にも開示していない、裁判所の裁判官採用の判断材料に提供されることもないとのことです。その理由は、個人の成績開示は、ロースクール間の競争をあおり、試験学習重視、実務教育軽視になって現場が混乱するからと言う理由だったそうです(各校ごとの合格者数がバレるのに、それ以上に個人成績で競争があおられることはないだろうと思うのですが)。今、それに対して、地方のロースクール出身者(事情でソウルのロースクールに行けなかった者)が、むしろ就職難の中、ロースクールの格付けで選別されて不利になる、という不満が増幅し、成績不開示は憲法違反であるという訴訟が起こされているそうです(ご存じのように韓国には大法院を差し置いて頻繁に違憲判断をする憲法裁判所があります)。
 
なお、韓国には予備試験はありません。これについては国会で法案が否決された経緯があるようです。インタビューに応じてくれた弁護士試験事務方の方は、日本の予備試験に興味津々らしく、逆に予備試験についてロースクールを破壊することにならないかと逆質問されました。来年、予備試験導入について再度議論しようという合意があるそうです。
 
とりあえず、今日はここまで、この後司法研修所編をお楽しみに


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