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<あすへ つながるTokyo> (1)紙芝居で開く共生の扉 荒川の三橋とらさん作

2019-01-02 | アイヌ民族関連
東京新聞 2019年1月1日

「武四郎物語り」を都内で初めて披露する紙芝居師の三橋とらさん=千代田区で
 「役人はアイヌの食事に箸をつけようとしなかったが、武四郎(たけしろう)はおいしい、おいしいとおかわりした」
 「北海道」の名付け親と呼ばれる探検家の松浦武四郎と、アイヌ民族との交流を描いた紙芝居「武四郎物語り」。昨年末、千代田区内で開かれたアイヌ文化のイベント会場で、紙芝居を作った紙芝居師、三橋とら=本名・依田(よだ)優子、荒川区=さん(35)が声を響かせた。
 江戸時代後期、蝦夷地と呼ばれた北海道で、武四郎はアイヌの人たちと寝食を共にし、心を通わす。三橋さん自身も大好きなシーンだ。身ぶり手ぶりを交えて語り掛けると、通りかかった人は足を止め、子どもたちは真剣な表情を向けた。
 武四郎の紙芝居を作り始めたのは一年ほど前。北海道に二〇一二年から二年ほど住み、アイヌの伝説を紙芝居にするなど活躍していた。そうした実績を買われ、北海道アイヌ協会(札幌市)が「紙芝居なら、子どもにも分かりやすい」と依頼。北海道命名百五十年記念のアイヌ民族文化祭のためだった。
 三橋さんは文献を読みあさり、北海道や武四郎の出生地の三重県でも取材を重ね、専門家らに意見を聞いて回った。探求心が強く、旅好きな武四郎。命を狙われてもアイヌ民族の窮状を訴え続ける情熱に魅了され、「武四郎はヒーローだ」と感じた。しかし、葛藤があった。「東京から来た私がアイヌを描いていいのか」
 北海道に移り住んだころ、飲み屋で偶然横に座った男性に、アイヌについて話題にすると、外から来た人が軽々しく語るなと罵倒されたことがあったからだった。男性はアイヌ民族ではなかった。それだけにデリケートなことだと気付かされ、今も残る差別や偏見の問題の根深さを感じていた。
 紙芝居は同協会の協力を得て、十カ月の制作期間の後、二十一枚、三十分の長編に仕上がった。昨年十月に北海道で開かれたアイヌ民族文化祭で初披露。アイヌを前に緊張した。
 「どう思われただろう」。公演後、鑑賞したアイヌ民族で演出家の秋辺デボさんに問うと、「描いてくれてありがとう」。そして、聞かれた。「あなたの民族は何? アイヌを知りたいなら、民族とは何かを考えて。あせらなくていい、これからだよ」
 つかえていた物が取れたように、涙がポロポロと流れた。「自分が何者かを考えていなかった。武四郎のように自らの信念に誇りを持つことで、相手の民族や価値観も尊重できる」
 出自を隠す人もおり、都内に暮らすアイヌの人数ははっきりしない。国が一一年にまとめた北海道外で暮らすアイヌへの調査では、回答者二百十人のうち、四十三人が「アイヌを理由に差別を受けた」と答えた。
 武四郎の生き方を見つめる三橋さんの紙芝居作りの過程は、他者に寄り添う社会の在り方を考えさせる。三橋さんは「紙芝居が、あなたはどう思った? と話し合う入り口になってほしい」と願う。
 デジタル、AIが脚光を浴びる時代。観客との距離が近い紙芝居を通じて、「立場の弱い人と同じ目線で手をつなぎ、一緒に進みたい。アイヌが、民族が何か、考え続けていかないと」 (中村真暁)

 分断、孤立…、重苦しい社会の流れに抗(あらが)い、「あす」を創り、つながる人たちの鼓動を追った。
◆北海道の名付け親 開拓判官 抗議の辞職
 松浦武四郎は江戸時代後期の一八一八年、現在の三重県松阪市の下級武士の家に生まれ、十代半ばから諸国を巡った。四五年、蝦夷地と呼ばれていた北海道に初めて渡り、十三年間に六回の探査をした。アイヌ民族の協力を得て、見聞きしたことを詳細に記録し、地図を作った。「蝦夷日誌」なども著しアイヌ文化を紹介した。
 六九年、成立してまもない明治新政府に、蝦夷地の名称に「北加伊道」を提案。「北のアイヌが暮らす大地」の意味を込めたといわれる。その後、新政府の開拓判官になった。
 幕府や政府に、アイヌの土地を奪う開拓や、過酷な労働を強いられたアイヌの窮状などを訴えたが、聞き入れられず、開拓判官はわずか八カ月で辞職した。
 八八年に神田五軒町(千代田区)の自宅で逝去。豊島区駒込五の染井霊園で眠る。
◆中央区に文化交流センター アイヌの資料や講座も
 アイヌ民族の歴史や文化について、都内ではアイヌ文化交流センター(中央区八重洲2)で知ることができる。「アイヌ民族文化財団」(札幌市)が運営。関東で生活するアイヌが活動拠点として利用するほか、アイヌ語講座なども行う。
 館内には、伝統衣装や儀礼に使う杯、工芸品など約20点を展示。関連図書5000冊やDVDも閲覧できる。近年はアイヌの少女が活躍する野田サトルさんの漫画「ゴールデンカムイ」の人気で、若者の来館も増えている。
 入場無料。開館は午前10~午後6時。休館は原則日、月曜、祝日の翌日。年始は4日から。18日午後7時から、アイヌ文化の公開講座がある。問い合わせは、同センター=電03(3245)9831=へ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201901/CK2019010102000088.html
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