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<ほっかいどうの本>アラシ

2024-09-10 | アイヌ民族関連

北海道新聞2024年9月8日 5:00

ヤマケイ文庫 1100円

今野保著

山奥の暮らし 人間と犬の絆

 手付かずの原始的な環境がまだ残っていた大正から昭和初期の北海道。その無垢(むく)で豊かな自然を舞台に描いたノンフィクション作品として、本書は知る人ぞ知る名作の1冊だ。長く絶版となっていたのだが、今回、二十数年ぶりに復刊された。

 著者は1917年(大正6年)、胆振管内安平村(現安平町)出身。生家が炭焼きを仕事としていたため、幼少から青年期を道内の山奥で暮らした。晩年、著作活動に入った著者は、山の生活の思い出を本書をはじめ「秘境釣行紀」「羆吼(ひぐまほ)ゆる山」の3冊にまとめるが、刊行の数年後にはいずれも中公文庫が文庫化、さらに多くの読者を獲得することになったのである。

 山奥に生きる人間と犬との絆や、犬を通した山の自然の豊かさを描く本書には4編が収録されている。表題作でもある「アラシ」は、吹雪の夜に迷い込んできた山犬の子の成長を描いた作品。山犬とは絶滅したはずのエゾオオカミそっくりで、群れで山中を生きる野犬のことだ。今野少年に懐き驚くほど賢かったアラシは、山犬の襲撃など彼の窮地をたびたび救ってきたが、成長とともに家に戻らない日が増える。そして、野生のおきてに従い群れの仲間と山に帰るときが訪れた…。

 ほかにも、川で溺れた今野少年を助け出した「クロ」。アラシ同様、山犬の子で勇猛果敢に成長した後はヒグマも倒したという「タキ」。これはアイヌ民族の青年が語ってくれた話をまとめたものだ。さらに、知恵を働かすことに優れ、人間と心を通じ合うことができた「ノンコ」。いずれも犬好きには堪らない感動の物語ばかりだ。

 また、農業などとは異なり、北海道の開拓期に木炭生産に携わった人びとの生活記録は、意外に少ないように思える。その意味で本書は山の暮らしを描く一級の史料ともいえそうである。(中舘寛隆・編集者)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1060366/

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