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映画にも、オセージ族連続怪死事件とは、米先住民60人超が犠牲に

2023-10-20 | 先住民族関連

ナショナルジオグラフィック2023.10.19

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が描く実話、FBI誕生の契機

1923年3月、オセージ族のリタ・スミスと夫のウィリアム・E・スミスは、自宅を爆破されて亡くなった。当時、60人以上のオセージ族が資産目当てに命を奪われた。(PHOTOGRAPH BY BETTMANN ARCHIVE, GETTY IMAGES)

 毒物、嫉妬、殺人、野望――。マーティン・スコセッシ監督の最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、20世紀初頭、オクラホマで暮らすオセージ族の富を奪うため、悪に手を染める白人入植者たちの姿を描いた、いかにもハリウッド映画らしいストーリーだ。この映画の原作は、2017年にベストセラーとなったデイヴィッド・グラン氏のノンフィクション小説『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』であり、架空の物語ではない。

 連邦政府が誤った政策を導入し、先住民の土地が生む富を狙う白人入植者の欲望が火に油を注ぎ、この地域の裕福なオセージ族60人以上が命を奪われる事態となった。実際の犠牲者はもっと多いとされている。いったい何が起きたのか? なぜ全容が解明されないままなのか? そして、この事件が米国の近代的な法執行機関の誕生のきっかけとなった経緯を紹介しよう。

石油という莫大な富を手にした先住民

 1890年代にオセージ族保留地の地下から石油が発見されたために、オセージ族は巨額の富を手にした。1920年代には、現在の価値で年間約4憶ドル(約600億円)に相当する石油が人々の生活を潤し、オセージ族は世界で最も裕福な部族と称されるまでになった。

 当時の米国では、「アメリカ先住民は世間知らずで粗野な人々であり、手にした富を浪費しないよう白人が監督する必要がある」という見解が広く浸透していた。政府も、歴史的にアメリカ先住民は連邦政府の保護を必要とする依存的な部族と見なし、先住民に権限を持たせるのではなく「保護する」ための法整備が進められていた。

 しかし、こうした法律は、先住民の利益を守るどころか、先住民とその先祖伝来の土地を白人入植者たちが奪って思いのままにする手段として利用されることが多かった。

 たとえば、1887年に制定されたドーズ法(一般土地割当法)では、先住民部族が共有する土地を分割し、文化的同化に同意する先住民に与えた。しかし、この法律では割り当て後の「余った」土地を白人入植者に売却したので、先住民部族が所有する土地が大幅に減る結果となった。

 1872年にカンザス州の先祖伝来の土地から追われた際、オセージ族はオクラホマの約6000平方キロメートルの土地を連邦政府から即金で購入しており、この「割り当て」制度を免れることができた。

 オセージ族はこの土地をすべて分け合い、各人が約2.7平方キロの土地を所有した。また、オセージ族として鉱業権も保有し、部族内の人々には保留地の鉱物資源から得る利益の「均等受益権」が与えられた。この権利は相続可能だった。

 保留地の石油がもたらす利益は増え続け、オセージ族の人々はオクラホマの他の住民よりも裕福になったが、これが外部の注目を集め、さらには干渉を招いた。

「金銭管理能力がない」と一方的に後見人を付けられる

 オセージ族が新たな富を得たことで、部族の人々の金銭管理に世間の関心が高まった。お抱え運転手付きの自家用車や豪邸、ぜいたくな装いが新聞で報道されると、オセージ族はもっと賢く金銭を使うべきだ、と眉をひそめる人々も出てきた。

 オセージ族には金銭管理能力がないという抗議の声を受け、1908年、裁判官が判断した「未成年者および無能力者」の所有地の管轄権を、米連邦議会がオクラホマ州の郡遺言検認裁判所に付与した。これを受けて遺言検認裁判所は、無能力者とされた人に対して白人の後見人を指名できるようになった。この後見人は、その先住民の財務管理を監督し、彼らが所有する土地を賃貸に出したり売却したりすることも認められた。

 1921年、議会はさらに厳格な定めを設け、純血のオセージ族およびオセージ族の血を半分引いた者だけでなく、オセージ族の血を引く21歳未満の者は誰でも、自らの能力を証明するか、州裁判所が指名し財務管理を担う後見人を付けなければならないとした。責任能力がないという疑いがあるだけでも、裁判所は白人の後見人を任命した。

 後見人は、オセージ族の金銭を散財したり法外な事務手数料を請求したりすることで、四半期で1000ドルという上限を超える額をふところに入れることができた。ジャーナリストのデニス・マコーリフ氏の著書によれば、監督業務も報告義務も果たさない600人の後見人が、わずか3年の間に余剰資金から800万ドルを着服したという。

毒殺疑惑、自殺に見せかけた死、列車からの投げ落としも

 こうして財務面の悪事が行われる環境が生まれ、やがて連続怪死事件にまで発展する。1921年以降、オセージ郡では不可解な死が次々と報告されるようになった。

 1921年5月、アナ・カイル・ブラウンといとこのチャールズ・ホワイトホーンの遺体が、同じ日にオセージ郡の別の場所で発見された。2カ月後には、アナ・カイル・ブラウンの均等受益権を相続した母リジー・カイルが毒殺される。

アナ・カイル・ブラウン、享年35歳。保留地で60人以上が犠牲となった一連の怪死事件で亡くなった。(PHOTOGRAPH BY VINCE DILLION, OKLAHOMA HISTORICAL SOCIETY/GETTY IMAGES)

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 次いで、1923年2月にはリジーの甥が殺害された。3月10日には自宅で不審な爆発が起き、リジーの娘夫婦と使用人が死亡した。

 連続する殺人事件はオセージ郡の人々を恐怖に陥れ、「恐怖時代」として知られるようになった。一方、カイル一族の巨額の富は、一族の生存者であるモリー・カイルと夫のアーネスト・バークハートが相続した。モリーは純粋なオセージ族であり、リジー・カイルの娘としてただひとり生き残った。

 この頃に毒殺疑惑、自殺に見せかけた死、列車からの投げ落としなどの不審死を遂げたオセージ族はカイル一族だけではなく、1921年から1925年の間に少なくとも60人のオセージ族が殺されたり行方不明になったりしている。犠牲者はすべて均等受益権で富を得た人々だった。

 オセージ族評議会は、地元の有力な牧畜業者である白人、ウィリアム・K・ヘイルに疑いの目を向けていた。テキサス出身のヘイルは、オセージ族を食い物にする金融取引で知られ、郡で絶大な影響力を誇る人物だった。彼は銀行や地元の雑貨店、葬儀場を所有あるいは部分的に支配し、予備保安官でもあった。

 ヘイルの甥であるバークハートはモリー・カイルと結婚していたので、カイル家の数百万ドルの資産を受け継いだ。

 殺人事件は連続して起きていたが、地元の捜査関係者や警察の力では、この一連の事件を解決することができなかった。そこで、オセージ族評議会が事件の解決に連邦政府の支援を求めたところ、現在の米連邦捜査局(FBI)の前身である捜査局が、現地で秘密裏に捜査を開始した。

 ヘイルと殺害事件とのつながりは徐々に明らかになってきたが、殺人事件はさらに発生した。モリー・カイルが「自分は毒を盛られているかもしれない」と司祭に告白したことから、捜査官が事態を打開した。ヘイルが甥にカイルとの結婚を迫り、その後に殺人請負人を雇いカイル一族を皆殺しにするよう命じた事実が明るみに出たのだ。伯父から圧力をかけられたバークハートは、毒入りウイスキーを妻に与えていたこともわかった。

 オクラホマ州と連邦政府による数々の劇的な裁判だけでなく、証人となるべき数人が殺害されたことも、全米の注目を集めた。最終的にヘイルと共犯者2名には終身刑が言い渡された。しかし、連続怪死事件の大部分は未解決のままだ。

「私たちは過去の遺物ではありません」

 オセージ族の富の物語も、殺人犯の有罪判決で幕を降ろしたわけではない。

 1925年、オセージ族ではない者が、オセージ族やその他のアメリカ先住民の子孫が所有する均等受益権を相続することを禁じる法律を連邦議会は制定した。しかし、オセージ族の資産への政府の対応については、不満が収まらなかった。

 数十年間に及ぶ法的争いを経て、2011年、連邦政府はオセージ族に3億8000万ドルの和解金を支払い、オセージ族の資産管理を改善するさまざまな対策を行うことに同意した。

 広範囲に及ぶ捜査やおとり捜査、情報提供者の協力を駆使して複雑な刑事事件を解決しようとするFBIや近代的な警察が誕生したのは、オセージ族の事件がきっかけだった、と今日では広く考えられている。この連続怪死事件が始まったのは1世紀以上も前のことだが、今もこの事件はオセージ族の暮らしや金銭管理に傷痕を残している。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』について述べたオセージ族のウェブサイトの声明によれば、現在もオセージ族の均等受益権の約26%を部族以外の人が所有しており、オセージ族ではない事業体に随意に譲渡できる。そして、次のように強調している。

「『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は遠い過去の事件を取り上げた作品ですが、私たちは過去の遺物ではありません。オセージ族は、オクラホマ州北東部の保留地で力強く生きています。私たちはたくましく、希望にあふれ、情熱に満ち、過去の物語を尊び、明日の社会を築きあげます」

文=ERIN BLAKEMORE/訳=稲永浩子

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/101700530/

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