かぶれの世界(新)

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

周回遅れの読書録14夏

2014-09-01 18:49:18 | 本と雑誌

 読書量が減っている。近年は1か月5冊を目標としてきたが、6-8月は10冊しか読めなかった。前回の3-5月も昨年の夏も月3冊のペースだった。読書量を増やしたいという意欲はあったのだが、私にとってとっつきにくいテーマでタフな内容だったのも一因だ。今回目先を変えるのと理解を深める目的で、今回は2冊の本を併読する試みをやってみた。

 「これから正義の話をしよう」(Mサンデル)と「なぜ、民主主義を世界に広げるのか」(Nシャランスキー)の2冊だ。前者は争点を全てテーブルに広げて読者に考えさせるスタイル、後者は民主主義を絶対原理としてあるべき姿を徹底追求するスタイルで、読み比べるにに相応しい良書だったと思う。一冊だけ読み進めると、前者は一体何が言いたいのかと疑い、後者は徹底した自己主張に辟易したかもしれない。併読が良いバランスをとって私の理解が進んだと思う。

 次に読書を勧めたいのは「世界金融危機からの再生」(中村裕一)で、リーマンショック直後の書として驚くほど的確に問題の全体像を把握しており、金融機関のあるべき姿を示唆している。同じ観点から「市場が問う成長戦略」(山川哲史)はアベノミクスの成長戦略の第3の矢をほぼすべて的確に指摘している。後から結果論として説明の上手な学者や専門家は多いが、現在進行中の出来事や将来を正確に予見した、ある意味貴重で珍しい佳作だ。

 今回、「亡国の宰相」(読売新聞政治部)を逆説的にマスメディアのやってはいけない反面教師のお手本として取り上げる。大局を論じず細部に立ち入って推測による人身攻撃を行うやり方だ。この手のマスコミ報道が非常に多いように感じる。ワシントンポスト(WP)のBウッドワード氏のような綿密なインタビューに基づく(とそれを許す信頼感)NFに比べ対極にある典型的な見本として、批判精神を持って本を読むためあえて高得点を付けた。

 (2.5+)これから「正義」の話をしよう Mサンデル 2010 早川書房 卑近な例をあげ所謂「正義」が口で言うほど単純ではないことをアリストテレスから現代哲学者までの主張をあげて深堀したもの。取り上げられた例は簡単に聞こえるが、著者が展開する議論の内容は私には複雑だ。悪く言えば「ああ言えばこう言う」式の議論で突き詰めていくスタイルで読者を混乱させる。最後に著者は「共通善の基づく政治」と言う平凡な持論で締めているのも私には尻すぼみに感じた。

 (2.5)なぜ、民主主義を世界に広げるのか Nシャランスキー 2005 ダイヤモンド社 冷戦終結後イスラエルに移住し閣僚にまでなった著者が、レーガン大統領が自由の大義に基づきソ連と妥協せず追い詰めたヘルシンキ条約を高く評価する一方、PLOアラファトの恐怖政治に目をつぶったオスロ条約を認めず、ソ連やPLOの恐怖政治が民主主義国の脅威と説く。自由を守り圧政とテロに打ち勝てという「自由拡大思想」がブッシュ外交政策に大きな影響を与えたと言われる。

 (2.0-)民主党迷走と裏切りの300日 読売新聞政治部 2010 新潮社 民主党が政権交代して鳩山内閣が誕生から、「政治と金」と「普天間基地移転」の問題に対処できず小沢幹事長と刺し違えて退陣するまでを描いたもの。なってはいけない政治家が首相になった国の悲惨さが生々しく思い出される。だが、こんな無能の宰相を選ぶ日本の政治システムを見直すという視点が欠けている。

 (2.5-)亡国の宰相 読売新聞政治部 2011 新潮社 就任直後に東日本大震災・原発事故に見舞われた菅政権及び与党の迷走を描いたもの。民主党の経験不足・人材不足と足の引っ張り合いが続く中、菅首相の個人攻撃が最後まで続く。原発事故の責任は長年の自民党政治にあることに触れず、稚拙な危機管理にだけ焦点を当て、多くの紙面を使い推測こよる人身攻撃が続く。こういうアプローチでは日本を代表するメディアとして寂しい。

 (1.5)ヤクザと原発 鈴木智彦 2011 文芸春秋 暴力団取材専門の著者が、暴力団のつてを使って福島第1原発事故の作業員として現場に潜入し、最下層の素人作業員から見た原発事故対応を報じたもの。内容は稚拙だが事故前後を通じて暴力団と原発が関わっていること、作業員から原発メーカーまで誰も全容を把握していない状況が興味深い。

 (1.5)権力の病室 国正武重 2007 文芸春秋 大平元首相が40日抗争を経て不信任決議を受け衆参同時選挙になだれ込む直前に病に倒れ、心筋梗塞で亡くなるまでの14日間を朝日新聞の番記者だった著者が27年後に描いたもの。政策抜きの権力を巡る人間劇でつまらない。私の父が心筋梗塞で死んだという一点で読む興味があった。

 (2.0+)民の見えざる手 大前研一 2010 小学館 税金を使うな、民で出来ることは全てやれ、新しいトレンド(単身所帯増と新興国成長)を見逃すな、縮小均衡から転じてグッドライフを目指せ、グローバル時代にふさわしい人材教育を地方主権で実行せよといつもの主張をまとめたもの。著者は政治を経済の言葉で語るが、自由と民主主義には興味が無く儲ければいいという露骨な姿勢が限界。それなら独裁政治でもいいのか。後半の教育に関する提案には傾聴に値する。

 (2.5)世界金融危機からの再生 中村裕一 2009 東洋経済 サブプライム焦げ付きがリーマンショックから世界経済危機に至り当局がどう対応したか、具体的な数字で的確に説明した解説書。リーマンショック後たった半年でこれ程しっかり全体像を把握した書は珍しい。リーマンショック前後の世界金融を理解する為の良い教科書。だが、これは世界同時信用危機の前半で、これに続き実体経済にどう影響していくか第2部が欲しいところ。

 (2.5-)市場が問う成長戦略 山川哲史 2012 日本経済新聞 アベノミクスの第3の矢の成長戦略の第2弾がほぼカバーされており、その根拠を詳しく解説している。唯一残念なのは、著者のテリトリーのはずの黒田現日銀総裁の異次元の金融緩和を予測・理解されてない。日銀出身らしく難しい言い回しの論理展開はうんざりだが(ここまで来ると同情する)、書き方の問題であって指摘する内容が正しくないとは言えない。

 (2.5)失敗学の法則 畑村洋太郎 2002 文芸春秋 「失敗」が起こった時、「要因」が発生して「からくり」を通って「失敗」という結果が生じる、という失敗学の法則と実例を使って分かり易く説いた入門書。なぜ失敗するか、どうしたら失敗を減らせるか、失敗にどう対処すべきか(部下として上司として)等々良くできたサラリーマンのサバイバル解説書の様に感じた。

 最後に「失敗学の法則」(畑村洋太郎)は失敗を構造的に分析して分かり易く解説したもの。東大の先生が書いた本とか法則とかあまり難しく考えないで、通勤の電車の中で気楽に読めるノウハウ本だと考えて、読書を勧めたいいい本だ。■

 凡例:本の評価
 
 (0):読む価値なし (1)読んで益は無い (2):読んで損は無い
 
 (3):お勧め、得るもの多い  (4):名著です  (5):人生観が変わった 
 
 0.5:中間の評価、例えば1.5は<暇なら読んだら良い>と<読んで損はない>の中間
 
 -/+:数値で表した評価より「やや低い」、又は「やや高い」評価です。

 無印:「古本屋では手に入れた本
 
?: 図書館で借りた本
 
?:  「定価」で買った本 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする