語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】円安で小企業や家計は赤字 ~トリクルダウンはなぜ生じない?~

2014年12月17日 | ●野口悠紀雄
 (1)豊かな者がより豊かになれば、その恩恵は社会全体に及ぶ」
 これがトリクルダウンの考えだ。
 自民党は、アベノミクスを正当化する論理としてこれを用いている。これまでは株価が上がって一部の富裕層だけが利益を得ただけだが、その恩恵はやがて貧しい者にも及ぶというのだ。

 (2)トリクルダウンは、原理的かつ一般的にはあり得ることだ。
 <例>先進企業が新商品の開発に成功し、事業を拡大する。すると、オフィスワークからビルの清掃に至るまで、さまざまな付帯サービスが必要になる。こうして波及効果が経済全体に及ぶ。
 米国で1990年代以降に起こったのは、基本的にこのようなことだった。
 1985年ごろ、小平が唱えた先富論(豊かになれる者から先に豊かになれ)も、トリクルダウンの実現だった。

 (3)トリクルダウンはしかし、どんな場合にも生じるわけではない。生じるかどうかは、富裕者が豊かになるメカニズムによる。
  (a)それが経済活動の量的拡大を伴っている場合には、トリクルダウンが生じ得る。
  (b)単なる分配上の変化であれば、(財政による強制的な再分配を行わない限り)生じない。
 日本の状況は(b)に該当する。したがって、トリクルダウンは生じていない。今後いくら待っても生じない。
 これまでも、大企業の利益増大と株価の上昇によって一部の富裕者が利益を受けたが、その恩恵は小企業や雇用者には及んでいない。 

 (4)円安で株価が上昇し始めたころ、資産効果で高額商品の売れ行きが増加した、と報道されたことがある。これも、トリクルダウンを期待した考えだった。
 そうした効果は、一部にはあったかもしれない。しかし、額的に大きくなかった。あったとしても、消費税増税前の駆け込みで耐久消費財購入が前倒しされただけだった可能性がある。
 株高の利益の大半は、売買で6割のシェアを占める外国人投資家に帰属した可能性が高い。株を保有している退職後の富裕層は、株価が上がったからといって売却して消費してしまうような行動はとらないだろう。

 (5)円安で大企業の利益は増大したが、恩恵は小企業には及んでいないし、それどころか、円安で利益が減少している業種もある。法人企業統計によって製造業について見ると、
  (a)大企業(資本金1億円以上)の営業利益は、2014年7~9月期は2012年7~9月期に比べて66.1%(額では1.39兆円)の増加になった。
  (b)小企業(資本金1,000万円以上1億円未満)の営業利益は、2014年7~9月期は円安の始まる2012年後半と同程度の水準だ。ちなみに、食料品製造業の小企業の営業利益は、2014年1~3月期と7~9月期は赤字になっている。また、パルプ・紙・紙加工品製造業の小企業の営業利益は、2014年7~9月期は2012年7~9月期の半分に減少している。つまり、円安で利益が減少している業種もある。

 (6)恩恵は一般の就業者にも及んでいない。労働力調査によると、
  (a)2013年1月から2014年10月までの間に、雇用者は127万人増えたが、増えたのは非正規の職員・従業員(157万人)で、半面、正規の職員・従業員は38万人も減少している。非正規労働者は、雇用が不安定であるだけでなく、正規労働者に比べて著しく低賃金だ。
  (b)産業別に見ても、経済の好循環が雇用面に及んでいる、などとは到底いえない。
    ①雇用が顕著に増えたのは建設業、不動産業、医療・福祉、飲食サービスだ。・・・・建設業、不動産業が増えたのは住宅駆け込み需要や公共事業の増加のためで、これらは一時的な増加だ。医療・福祉の増加は高齢者の増加によるもので、アベノミクスとは無関係だ。また、医療・福祉や飲食サービスの賃金水準は低い。
    ②製造業の雇用者は減少している。
    ③金融業、保険業はほとんど変化していない。

 (7)家計調査によると、消費者物価の上昇によって、2013年10月以降、実質実収入の対前年比がマイナスになっている。2014年4月以降は、名目実収入の伸びもマイナスだ。この結果、駆け込み需要のあった2014年3月を除くと、実質消費支出の伸びはマイナスで、特に2014年以降は大きくマイナスだ。

□野口悠紀雄「トリクルダウンはなぜ生じないか? ~「超」整理日記No.738~」(「週刊ダイヤモンド」2014年12月20日号)
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【政治】アーレント「悪の陳腐さ」(2) ~被害者は加害者ともなる~

2014年12月16日 | 批評・思想
 (承前)

 ただ、こういうアーレントの真意が誤解される理由がなくはない。それは、悪の陳腐さに苛立つ語り口もさることながら、彼女独特の論理的思考法、とくに二つのものを対比させる場合の二分法の持つ微妙な含みに由来するところが大きい。
 AとBとは一応区別され対比されはするが、それは直ちに二項対立ではなく、それを前提とした二者択一や「決断」には結びつかない。
 <例>公/私、ドイツ人/ユダヤ人。
 「バーリア()」【注】/「成り上がり」・・・・という二分法にしてもそうだ。両者は、同化しようとするユダヤ人にとっての所与条件と、そこからの離脱目標という形で対比されている。しかし、恵まれた身分に生まれたものは、別に成り上がりたいと思う必要はなく、バーリアだからこそ成り上がりたいのだという意味では、両者は通底している。また、異文化への同化に成功しても、「自覚的バーリア」として居直っても、どちらも真の自己解放(本来的な自己実現)に結びつかない点では、共通している。

   【注】ユダヤ人の「同化」をめぐるキー概念。 

 同じことは、アイヒマン・レポートのキー概念たる「陳腐な悪」/「根源悪」、「加害者」/「被害者」・・・・といった対概念についても言える。根源悪は「悪の英雄」の姿をとるころもなく、月並みの小悪党、場合によっては、ごく普通の善人を通じて現出する。
 アルゼンチンに遺された息子にしてみれば、アイヒマンは家庭内でよきパパだったし、不当にも国外へ拉致され、処刑された被害者でしかない。加害者/被害者・・・・という関係は、ルサンチマンを介して循環する。
 その悪循環を絶つためには、「宥すか裁くしかない」と、かつてアーレントは言い切っていた。
 しかし、アイヒマン裁判によって、この循環は絶たれたのか。ユダヤ人に対する罪をユダヤ人が裁くのでなく、「人類そのもの=人間存在(human being)」への罪を裁くのは、神ならぬ誰なのか。

 今では、全体主義的国家体制は、かつてのような勢力を誇ってはいない。
 「最終解決」計画進行中の「ゲットー」のような「極限状況」も見当たらない。
 しかし、根源悪/陳腐な悪、被害者/加害者・・・・が通底し、転換し合う全体主義的状況は、テクノロジーによって支配された文明の現段階に、姿を変えてグローバルに拡散しているのではないか。
 <例>原爆投下やミサイル発射のボタン一つ押すだけで、人は自分の行為の結果に良心の痛みを覚えることなく、数万の人間を殺すことができる。
 このような状況下では、善良な市民は、被害者になる危険とともに、容易に加害者になり得る潜在的可能性を持つ。
 根源悪は抽象的になり、不透明になりつつある。

 アーレントの問題提起を受けとめつつ、こういう方向へさらに展開していったのは、アンデルス(アーレントの別れた最初の夫)やハンス・ヨーナス(終生の友)だったかもしれない。
 アンデルス・・・・アイヒマンの息子や原爆投下B29の飛行士に公開書簡を送り、その罪の意識を問い、日本にも来て、反原爆運動に挺身した。
 ヨーナス・・・・「アウシュビッツ以後、なお神を信ずることは可能か」を問い、創造計画の実現を一部人間に委託することで、神の善意と、人間の生命・責任の尊厳との、その両者を守ろうとした。
 こういう人々との、家族を超えての友情。
 アーレントは終生、自分のアイデンティティを、特定の集団への所属によって決めようとはしなかった。しかし、信頼する人々との厚い友愛関係の中を生きた。

 そういうサークルは、奇しくも
  ①1920年代、『存在と時間』を執筆中のハイデガーの下に、与えられた運命からの解放をめざす「実践の哲学」を求めて集まり、
  ②1933年の彼のナチス入党とフライブルク大学総長就任以来、離れて米国へ亡命した
ユダヤ系ドイツ人思想家たちによって形成された。
 レーヴィット、マルクーゼを含むそれら「(ハイデガーの)息子たち」は、「父親殺し」をつうじてそれぞれ成長していった。
 それに対して、アーレントは戦後いち早くハイデガー弁護に廻った。「優しい娘」として「迷える父親」を見守ったと言うべきか。
 たしかにアーレントは、ハイデガーのニーチェ解釈の転回のうちに、彼のナチス加担への自己批判を認め、それを悲劇ではなく、喜劇とみなすことで、旧師の名誉を温存しようとした。それは、彼女の「プルーラリズム」に基づく寛容さともとれる。
 しかし、アイヒマン・レポートでは、旧師の抽象的な「存在論的区別」という二分法を破って、「善悪の彼岸」にあった「根源悪」を「世界内」に引き出し、その陳腐で恐るべき姿を白日の下に曝した。そこに、私情を超えた「世界への愛」がある。

□徳永恂「アーレント「悪の陳腐さ」をめぐって」(「図書」2014年12月月号)
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 【参考】
【政治】アーレント「悪の陳腐さ」(1) ~普通人による恐るべき差別~



【政治】アーレント「悪の陳腐さ」(1) ~普通人による恐るべき差別~

2014年12月15日 | 批評・思想
 「アイヒマン裁判」に係るハンナ・アーレントのレポート【注】は、単なる裁判傍聴者の印象記ではない。百数十回続いた公判記録の膨大な資料を、帰国後丹念に精査・考量した上での論説だ。にも拘わらず、その筆致には、ある「拡大されたエモーショナリティ」が溢れている。何か、機嫌悪そうに書いている。
 このテキストは、客観的な事実の報告でも、冷静な観察批判でもなく、裁判への大きな期待と激しい失望の告白であり、「卑小なもの」への侮蔑と忿懣に彩られている。そしてその背後には、「根源悪」という問題性と、「全体主義状況の変容」という、現代の「人間の条件」への批判と問いかけが、ある方向を示している。

  【注】ハンナ・アーレント(大久保和郎訳)『イエルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』(みすず書房、1969、新装版1994)

 アーレント・レポートに対する米国ないしイスラエルのユダヤ人から巻き起こった非難とバッシングは、シオニズムへの敵視といった政治路線の違いは別として、道徳的意味では次の二つに要約される。
 (1)レポートの副題にされた「悪の陳腐さ」に注目して、アーレントが「ホロコースト(ショア)の極悪を陳腐なものとして相対化し、アイヒマンを弁護しようとしたのではないか」というもの。
 (2)ユダヤ人団体代表者、協会理事などの役員が、ゲットーでの収容所への移送、選別に協力したことの強調について、殉教した死者を鞭打つようなこういう仕打ちは、「ユダヤの娘でありながらユダヤへの愛を知らない」彼女のハートの冷たさの現れではないか、というもの。

 だが、(1)、(2)とも誤解だ。いずれの非難も、アーレントが重心を置く方向を正しく捉えていない。
 ふつう「悪の陳腐さ」と訳されている Banality という言葉は、語源的には、封建時代に平民にも等しく課せられた賦役(common to all)の、さらに転じて、平凡・凡庸・陳腐といった軽蔑的意味を帯びるようになったもの。だが、アーレントが副題に「悪の陳腐さ」を選んだとき、それは、ナチスがやったショアという行為の「測りがたい、比類ない悪」の度合いを、過小評価したり、弁護したりしようとするものではない。①行為と、②行為者(行為の主体)を区別した上で、極悪を犯す主体が、意外にも凡庸な普通人(命令を果たそうと努める善き家庭人)であったことに、アーレントは深い失望を味わった。彼女はこの裁判に大きな期待を寄せていたから。

 戦争直後、まだショアの全貌が明らかになっていなかった時点でのニュルンベルグ軍事法廷では、平和に対する罪(開戦責任)や人道(humanity)への罪(残虐行為)が問われても、「ユダヤ人問題の最終解決」に係る「人間存在(human being)」への罪は、十分に問われることはなかった。その罪を問われるべきナチス幹部のほとんどが自殺したり処刑された後、逃亡したナチスのユダヤ人問題担当部長アイヒマンは、最大の大物として注目を集めていた。しかもイスラエルでの裁判は、ドイツの国家犯罪を裁くものではなく、それに関わった個人の責任を問うものだった。
 ヒットラーの責任をアデナウアーに負わせるつもりはない、というベン=グリオン首相の言明は、国際法というより、冷戦状況のただ中にあった当時の国際政治上の了解事項だったはずだ。当然、期待されるのは、巨悪の権化たる「モンスター」だ。

 しかし、百十数回にわたる公判を通じて、検事の論告、弁護側の弁論、そして何よりも被告の自己陳述によって露わになったのは、モンスターどころか、ごく普通の、与えられた命令を何とか忠実に実行しようとして苦心する、そしてある程度有能な、小役人の姿だった。
 ドイツもしくはヨーロッパからの「ユダヤ人一掃(Judenrein)」計画も、スムーズに実行されたわけではない。①党と、②政府と、③軍とで異なる複雑な命令系統と占領地域によって異なる法体系の中で、とにかく一応合法的にプロジェクトを実施しようとする中間管理職。
 「最終解決」という名の絶滅計画を決めた「ヴァンゼー会議」(1942年冬)にも、書記という形で陪席していたものの、自分は絶滅収容所の所在地への輸送を担当しただけで、そこで何が行われていたかは関知しない、という弁明。
 ここには、「われわれは、非人間的な所行において超人間的でなければならない」とうそぶくヒムラーのような悪役はいない。悪役のいない芝居は、見世物として退屈だ。

 悪役が全くいなかったわけではない。ドイツ・ユダヤ人協議会の理事たちだ。
 アイヒマンは、ユダヤ人たちにある程度自治組織も認め、その代表者との「話合い」路線によって、移送プロジェクトを効率的に行おうとした。ナチスの追放計画とシオニズムの国外移住計画が一致していた時点では、少なくとも「話合い」による「取り引き」が成り立ち得た。
 しかし、戦争の激化で海外への脱出ができなくなった時点で、なおかつユダヤ人組織の幹部たちが、労働キャンプと絶滅収容所への移送者仕分けにまでタッチさせられるとなると、当然彼らは悪役となり、被害者でありながら加害者に加担するという悲劇の主人公になる。
 だが、事は単なる見世物ではない。

 アーレントの真意は、「ごく普通の人でも、特定の条件下では、極悪の所行に、とくに罪の意識なしに、あるいは命令を履行することを義務と心得る道徳意識に基づいて、荷担する傾向を持つ。そこでは、被害者も加害者の企画に巻き込まれ、協力を余儀なくされる状況に追い込まれる」という実例を伝えることだ。アーレントはそこに、カントの言葉を、拡大修正した形で、借りて「根源悪(das Radikalboese)の現出を認め、その現代における変容と普遍化に警告を発しているのだ。裁判に現れた限りでは、悪はヤスパースが言うように「深くも根源的でもないように見える」が、実はそこにこそ「単なる理性の限界内」に止まらない、形而上学的領域に根ざした現代の暗闇がひそんでいる。

□徳永恂「アーレント「悪の陳腐さ」をめぐって」(「図書」2014年12月月号)
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【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~

2014年12月14日 | ●佐藤優
 8月9日、米国ミズーリ州ファーガソンで、黒人青年マイケル・ブラウン(18歳)が白人警官ダレン・ウィルソンによって射殺された。
 ブラウンは武器を持っていなかった。警察の過剰反応に対する批判が強まり、全米各地で黒人を中心とするデモが起きた。

 米国では、父親が黒人であるオバマ大統領が政権の座に就いている。
 「人種差別については、完全に解消されることはないとしても、米国社会を揺るがすような社会問題ではない」という見方を今回の事件が覆した。
 <人口が2万人余りのファーガソンは、住民の約3分の2が黒人。一方、警察官のほとんどは白人で、以前から黒人ばかりが職務質問されるといった人種問題がくすぶっていた。今回の騒動拡大の背景にも、人種問題が絡んでいると指摘される。
 事態を重く見たオバマ氏は14日、休暇先のマサチューセッツ州で緊急会見し、「警察が平穏なデモ隊に対して暴力を振るう理由は常にない」などと発言。司法省や連邦捜査局(FBI)に、ブラウンさんの死亡の経緯も含めて調査するよう指示したことを明らかにした。
 同日会見したミズーリ州のニクソン州知事は、今後は現場周辺の治安維持を地元のセントルイス郡警察ではなく、州警察の高速隊が担うと発表。黒人の高速隊幹部はさっそく、「催涙ガスを使わない」と宣言。抗議をする住民たちと一緒に行進するなど、信頼回復に向けた対策を取り始めた。>【注1】

 11月24日、ミズーリ州の大陪審は、ウィルソンを不起訴とすると決定した。
 これに対して、再び全米でデモが発生している。
 <12人の市民から構成される大陪審は捜査対象者を起訴するかどうかを判断するが、理由の詳細は明らかにされない。記者会見をした地元の検察官は「捜査は尽くされた」と語った。CNNによると、大陪審は7人の男性と5人の女性で構成され、白人が9人、黒人が3人だったという。
 AP通信などによると、捜査の途中では被害者のマイケル・ブラウンさんが撃たれた時の状況が焦点になったとみられる。発砲をしたウィルソン警察官は「身長約193センチ、体重が136キロ近いブラウンさんが迫ってきて、命の危険を感じた」と述べたのに対し、複数の目撃者は「ブラウンさんは降伏しようと、両手を上げていた」などと話したという。ブラウンさんは武器を持っていなかった。>【注2】

 丸腰の人間を射殺するのは、明らかに行きすぎだ。手足を撃つことによって投降を呼びかけることもできたはずだ。
 黒人に対する偏見が、警官に過剰な行動をとらせ、その行動を白人が多数を占める陪審員が追認した、ということだ。
 11月29日にウィルソンは警察を辞職したが、事態はこれによって沈静化しないだろう。
 特に懸念されるのは、ウィルソンが米国の白人至上主義者の間で英雄視されることだ。米国で白人の人種的優越感が高まると、排斥の対象は黒人だけでなく、日本人を含むアジア人に対しても向かってくる。

 【注1】記事「住民デモ、警察過剰鎮圧 米・ミズーリ州、黒人少年の射殺で対立」(朝日新聞デジタル 2014年8月16日)
 【注2】記事「黒人少年射殺の白人警官を不起訴 米ミズーリ州大陪審」(朝日新聞デジタル 2014年11月25日)

□佐藤優「米国の「人種差別」は終わっていない ~佐藤優の人間観察 第93回~」(「週刊現代」2014年12月20日号)
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 【参考】
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~



【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~

2014年12月13日 | 社会
 衆議院解散前日(11月20日)付けで、
萩生田光一・自民党筆頭副幹事長および福井照・報道局長から、
在京テレビキー局編成局長および報道局長宛て、
要請文書が出された。いわく、選挙があるので「公正中立」と「公正」な放送を心がけろ、うんぬん。
 萩生田は、総裁特別補佐も務める安部総理の側近。ゆえに、この文書は安部総理に代わって発出された、と受けとめられた。

 「公正中立」や「公正」の文言がある要請だから問題なしか、というと、それは全く違う。
 (1)A41枚の文書の中に「公正中立」、「公正」という言葉を13回も繰り返し強調していて、本気だぞ、という脅しをかけている。
 (2)「出演者の発言回数及び時間等」「ゲスト出演者等の選定」「テーマについて」「街角インタビュー、資料映像」など具体例を挙げて要請している。・・・・こうした問題について自民党は日ごろから文句を言っているので、言われたテレビ局は個別に何をするなと言われているのかがピンと来るようになっている。具体的な圧力なのだ。
 (3)テレビ朝日の報道局長の発言が問題となって国会で証人喚問が行われた例(いわゆる「椿事件」)を(具体名を出さない形で)引き合いに出している。・・・・政権党として、言うことを聞かないと国会に呼びつけるぞ、そして、政府は放送免許剥奪の権限があるぞ、と脅しをかける意味合いがある。

 自民党の今回の文書発出は、どう見ても政権与党として禁じ手だ。
 明らかに憲法が保障している表現の自由への重大な挑戦だ。
 これが他の先進国で起きたら、単なる政権批判だけではすまない。政権そのものが揺らぐ大問題になるはずだ。

 ところが、驚くべし、この文書を受け取ったテレビ局や、それを知った他の報道機関の多くが、本件を重大な問題だと受け止めていない。自民党の「暴挙」を知りながら、日本の報道機関はほぼ1週間放置した。テレビ局は、報道したら安部総理に睨まれるから、ということでおとなしくしていた。政府を監視するというマスコミの役割を果たす気力も能力も持っていなかった。
 官邸詰めの記者クラブにいたテレビ局以外の新聞社の記者たちも、うすうすと知っていたらしい。しかし、どの新聞も通信社もこれを報道しなかった。
 インターネットテレビ「ニューズオブエド」が、最初に報道した。
 しかし、その後もテレビ局はニュース番組でこれを取り上げていない。・・・・これは、結果的に、在京キー局が選挙に際して自民党擁護の役割を果たすことになる。偏向以外の何ものでもない。これこそ、放送免許剥奪につながる問題ではないか。

 「国境なき記者団」が発表している「報道の自由度」世界ランキングによれば、日本はG7の中ではダントツのビリだ。
 先進国でも、異例の下位にあり、2014年は何と59位だ。
 民主党政権時代は、10位台か、悪くても20位台だった。
 第一次安倍内閣の時も51位を記録しているから、安倍総理は構造的に報道に対して弾圧的だと世界にも認識されているわけだ。

 日本は独裁国家へ至る会談を着実に歩みつつあるように見える。
 政府が報道機関に圧力や懐柔をかけてくる「ホップ」。
 国民が洗脳されていく「ステップ」。現在はこの途上だ。
 次は、洗脳された国民をマスコミが煽り、選挙による一党独裁が実現する「ジャンプ」。
 そして、その先に戦争が待ち受けている。

□古賀茂明「自民党の圧力文書 ~官々愕々第135回~」(「週刊現代」2014年12月20日号)
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 【参考】
【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~
【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~


【経済】日本銀行総裁の資質 ~“平成の鬼平”と“パペット”~

2014年12月12日 | 社会
 三重野康氏が日銀総裁に就任した1989年12月は、バブル経済の絶頂期で、日経平均株価が史上最高値の38,915円を記録した。総裁就任前の副総裁時代から、三重野氏は過熱する経済に懸念を抱き、しばしば「日本経済は乾いた薪のうえにいる」と警告を発していた。
 総裁就任後は、立て続けに公定歩合を引き上げ、金融引き締めにとりかかった。バブル退治に邁進する姿に、“平成の鬼平”という賛辞が贈られた。

 いま、この急激な金融引き締めがバブル崩壊の傷を深くした、という評価が定着している。
 しかし、ここで論ずべきは、政策の是非ではない。セントラルバンカーの資質についてだ。
 三重野氏は、2012年4月に88歳で鬼籍に入った。白川方明・日銀総裁(当時)は、弔辞のなかで、三重野氏がつねに「中央銀行の物差し」を大切にしていたことを振り返りながら、「終始、慈父のような存在でした」と偲んだ。
 近視眼的な見方に陥ることを戒め、中長期的視野を持つことを説いた三重野氏は、総裁退任後も長らく日銀の精神的支柱であり続けた。

 その精神的支柱を失った後、日銀はあからさまな政治介入に見舞われた。
 「インフレ・ターゲット」なる聞き慣れない金融政策を掲げ、自民党総裁、首相に返り咲いた安倍晋三だ。
 白川総裁は、追われるように日銀を去った。
 刺客として送り込まれる格好で、財務省出身の黒田東彦が総裁に就いた。彼は、安倍首相が唱える“異次元緩和”を直ちに実行し、株価は沸騰した。国内外の投資家たちは、その威力をロケット弾に喩え、“黒田バズーカ砲”と囃し立てた。

 だが、いま、「量的金融緩和」シナリオは、狂い出している。
 皮肉にも、日銀が10月末に発表した追加金融緩和策によって、狂いが明白になった。
 “異次元緩和”の開始時、黒田総裁は「2年後に2%」の物価上昇を約束した。だが、“黒田バズーカ砲”の第一弾では目標達成が絶望的となり、慌てて第二弾を放ったのだ。自分が設定した無理な目標を達成するため、さらなるマネーを供給する。日銀は、文字どおり自縄自縛に陥っている。

 折しも、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が量的金融緩和を終了させた直後だ。
 “異次元緩和”を支持する人々が理論的支えとしてきたパーナンキ前FRB議長が「量的金融緩和は理論的には説明がつかない」と発言していたことが「ファイナンシャル・タイムズ」にも報じられ、話題になった。
 “異次元緩和”は
  (1)理論的根拠を欠き、
  (2)実証データ上も疑問が残る。
 そうしたなか、黒田バズーカの号砲だけが虚しく鳴り響いたのだ。

 総裁就任の経緯やその後の言動から、黒田総裁は“パペット(操り人形)”でしかない。黒田バズーカによって日本は再び“平成の鬼平”のいわゆる「乾いた薪」のうえに置かれてしまった。だが、肝心の日銀総裁は警告を発するどころか、薪の前で火遊びをしている。
 株高を演出し、安倍政権を献身的に支え続ける日銀。
 だとすれば、“マネタリー・ディシプリン”の喪失を、総選挙の争点にしてもよいはずだ。

□佐々木実「“平成の鬼平”と“パペット” セントラルバンカーの資質を選挙争点に ~佐々木実の経済私考~」(「週刊金曜日」2014年11月28日号)
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【議会】が農薬使用の指導強化を訴えた議員を問責処分 ~各務原市~

2014年12月11日 | 医療・保健・福祉・介護
 岐阜県各務原市の市議会、9月定例会、9月17日。
 杉山元則・議員が、農林水産省・環境省通知「住宅地等における農薬使用について」を取り上げ、各務原市の農薬使用指導に係る対策を質した。
 同通知は、農薬被害を受けた人たちからの要望に応えて発出された(改訂版2013年4月26日)。地方公共団体に、次のことを指導するよう求めたものだ。
 (1)公園・街路樹等の植栽管理
 (2)農耕地での農作物の病害虫防除のため、住宅地周辺で農薬を使用する場合の遵守事項
   ・使用量を減らす。
   ・散布時間帯の配慮。
   ・周辺飛散の低減化。
   ・散布内容の住民への周知。
   ・etc.
 杉山議員は、ミツバチ被害の原因として、EU諸国で2013年12月から使用規制されたネオニコチノイド剤や、その発達神経毒性に係る研究・学説などを紹介した。そして、農薬や化学物質で健康被害を受け、日常生活に困っている人がいることを市民に知ってもらい、環境意識を高めてもらうことが大切だ・・・・という思いから、農薬を適切に使うことだけでなく、公共施設で使用される衛生害虫・不快害虫用殺虫剤や、香料の使用自粛の対策強化をも求めた。

 この定例会から5日後、9月22日。
 市の水田農業担い手協議会など三つの農業団体から、先の議会発言の取り消しを求める抗議文が届いた。いわく、
  (a)ミツバチ被害は農薬が原因だとする大学教授の説は一例であり、国などが措置する動きはない。
  (b)発達障害の児童数の増加が、農薬散布と深く関わっているとしたのは、根拠となる資料と因果関係が不十分だ。
  (c)「農家」と発言したが、一般市民も農薬を使っている。農業従事者への理解ある言葉遣いがなかった。
  (d)今回の問題は、議員活動の中で、執行部との打ち合わせや調整などのうえ、広く市民に呼びかけるべきもので、わざわざ議会の場で発言する内容とは思われない。

 この抗議に対して、「発言の訂正・削除をするつもりはない」と杉山議員は回答した。

 前年のミツバチ被害件数69件のうち、岐阜県は全国第2位の9件だった。斑点米カメムシ防除のために使用された農薬に直接被曝したミツバチが大量死している可能性が強い。今後の対策として、農薬散布時のミツバチの巣箱の避難、散布時間帯や農薬形状の液剤から粒剤への変更。・・・・などが報告されている。【「蜜蜂被害事例調査中間取りまとめ」、農林水産省、2014年6月公表】
 また、農薬を子どもの発達障害等の危険因子であるとする疫学調査が多数ある。
 くだんの農業団体の(a)や(b)の主張はおかしい。

 抗議はしかし、杉山議員と団体の間だけの問題では終わらなかった。
 定例会、9月30日。
 杉山議員の議会発言に対して、問責決議を求める議案が提出された。「農業従事者に対し、配慮を欠けた発言として、不快感をもたられた事は誠に遺憾である。よって関係者の声に充分耳を傾け、誠実かつ適切に対処することを求める」うんぬん。
 質疑の過程で、議員のどの発言のどの点がふさわしくなかったかの充分な説明もなく、単に発言が不快だ、という抗議者の言い分をそのまま受け容れただけの決議案が、賛成18、反対4で可決された。

 各務原市議会は、国の指導内容を遵守するよう求めた議員発言を多数決で封じた。
 この愚行に対し、市民だけではなく、全国から批判の動きが出ている。

□河村宏(反農薬東京グループ)「農薬使用の指導強化を訴えた議員に市議会が問責処分」(「週刊金曜日」2014年11月28日号)
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【電力】会社が再生エネ買い取りに消極的な本当の理由

2014年12月10日 | 社会
 電力各社が進めてきた再生エネルギー買い取りが問題化している。
 再稼働するからか。
 行き当たりばったり政策の失敗か。
 わけても鳴り物入りで進めてきた太陽光発電事業が、頓挫している。電力会社が買い取り契約を「中断」するケースが急増しているのだ。

 太陽光発電買い取り制度の始まりは、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」に基づく仕組みだ。地球温暖化対策における代替エネルギーの育成を目的とし、2003年に施行された。細々とした制度で、一般家庭の屋根に太陽光パネルを取り付け、電力会社がその発電力の一部を買い取ってきた。

 その法律を、2012年7月1日、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」として大幅に衣替えした。政府が太陽光発電の育成を打ち出し、原則として電力会社の全量買い取りを義務化した。
 新制度に基づいて太陽光発電事業者が経産大臣の認可を受け、電力会社に「特定契約」(電力の買い取り)を申請する。特段の事情がないかぎり、電力会社は契約を拒否できない。加えて、買い取り価格は申請時から10~20年間固定される。
 かくして、いち早く事業参入を決めたソフトバンクを始め、一挙に太陽光発電事業の参入が増えたのだ。

 制度発足の2012年当初の太陽光発電の買い取り価格は、10kW/時以上発電する業者で税抜き40円/kWを20年間固定、それ以下の規模の業者だと42円/kWを10年間固定と決まった。
 価格については、専門家から高すぎるという意見が出たが、孫正義・ソフトバンク社長が政府に主張した「最低でも税抜き40円」で押し切った格好だ。

 しかし、やはり太陽光発電はあまりに高コストというほかはない。
 経産省発表の電力コストによれば、廃炉費用まで入れた原子力発電で1kW/時当たり8.9円、事故対策などを含めると十数円にはねあがるが、それでも太陽光発電よりかなり安い。

 太陽光発電の買い取り価格は毎年経産省が見直すことになっている。さすがに年々値下げされてきた。今年は、税抜き32~37円となっている。
 割高なコスト分は電気料金に加算される。火力発電の石油燃料高騰もあり、結局、割をくうのは一般の庶民だ。

 買えば買うほど赤字となるのが、今の太陽光発電の買い取り制度だ。
 割高なコスト分は電気料金に加算されるとはいえ、電力会社も電気料金を上げ続けるわけにはいかない。
 ここに来て、陽光発電の買い取りに待ったをかけたわけだ。

 太陽光発電の買い取り制度について、政府は表向き、再生エネルギー事業の普及という錦の旗を掲げてきた。だが、肝心の事業が行き詰まるのは、目に見えていた。
 なぜ政府は無茶な制度を進めてきたのか。
 とどのつまり、やるだけやったけれどダメだったから原発の再稼働しかない・・・・というアリバイ作りか。
 あるいは新規参入業者の声に押し切られ、高コストで見切り発車してしまったのか。
 電気料金の値上げや事業が頓挫している業者を尻目に、我先に太陽光発電事業を展開したソフトバンクなどは濡れ手で粟の構図になっている。  

□森功「電力会社が再生エネ買い取りに消極的な本当の理由 ~ジャーナリストの目 第229回~」(「週刊現代」2014年11月29日号)
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【食】来年4月から始まる健康マークの幻想

2014年12月09日 | 医療・保健・福祉・介護
 健康マーク認証制度が2015年4月から始まる。
 スーパーマーケット、コンビニエンスストア、宅配から外食産業まで、どんな業種業態であろうが、国が決めた基準を満たせば「健康マーク」を表示することができる。

 この認証制度は、<消費者は、分かりやすいマーク(適切な情報)をもとに選ぶことで、手軽に「健康な食事」の食事パターンに合致した料理を入手し、組み合わせて食べることができる>一方、<小売業や外食産業は、作り手の優れた技術により質を保証した料理を提供し、そのことをマーク(適切な情報)で表現できる>のだ。【厚生労働省「日本人の長寿を支える『健康な食事』のあり方に関する検討会」報告書】
 国が認証した健康マークの食品を食べていれば、健康で長生きできる・・・・夢の制度に見えるが、むろん、健康はそんなに簡単には得ることはできない。
 認証マークを作った厚生労働省自身、「マークが表示された食品を食べれば健康になるということではない」とハッキリと、つれなくおっしゃっている。

 そもそも厚労省(国)は、以前から、健康21や食事バランスガイドなどで、1食分ではなく1日分での、バランスのとれた食生活を推奨している。
 しかも、年齢や運動量の差による違いも考慮した食事摂取基準を示している。

 今回の認証制度では、
 (1)塩分(食塩相当量)
 条件(基準)は1食3g未満=条件(基準)は1日3食分で9g未満
 ところが、2015年版食事摂取基準では、1日あたりの塩分目標摂取量は、12歳以上の
  ・男性は8g未満
  ・女性は7g未満
 よって、認証マークの食品・料理を食べると摂取目標値を上回る。

 (2)摂取カロリー
 1食分650kcal未満(1日3食分で1,950cal未満)。
 ところが、食事摂取基準では、1日あたりの推定エネルギー必要量は、18~49歳の
  ・男性は2,300~3,150kcal
  ・女性は1,650~2,300kcal
 よって、認証マークの食品・料理を食べるだけでは、多くの人が目標摂取量を確保することができない。
 厚労省が作った目標値を厚労省自身が破っているのだ。

 しかも、この制度は有機JAS制度のように第三者機関などが認証するものではない。認証に国や公正な機関が関わることがなく、あくまで自己認証の制度だ。小売店、製造業者、外食産業などの事業者が、基準を満たしていると思えば、勝手にマークを表示できる。

 では、国の基準が実際に守られているかどうかを厚労省などが監視、摘発するかというと、2015年4月からスタートするのに、まだ何も決まってない。よって、事業者のやりたい放題になる可能性がある。
 厚労省は、この制度の普及を本気で望んでいるのか?
 厚労省は、「認証マークの食品を食べれば健康になる、と誤解されて定着する恐れがある」ので、普及しないことを望んでいるのか?

 認証制度は、安部総理が成長戦略の一つとして強引に推し進めた。しかし、家庭料理より小売店で販売される弁当・総菜・外食を奨励することが健康につながるというのはマユツバだ。
 1日あたりの食生活全体で健康を考えてきた厚労省(世界的にも同じ)にとっては、今回の制度作りはこの上もなく迷惑至極な作業だろう。
 健康マーク食品を食べていれば健康になれる、というのは幻想にすぎない。

□垣田達哉「誰のため? 何のため? 来年4月から始まる健康マーク」(「週刊金曜日」2014年11月28日号)
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【経済】地方を疲弊させたフランチャイズ ~フランチャイズ商法の光と影(2)~

2014年12月08日 | 社会
【経済】地方を疲弊させたフランチャイズ ~フランチャイズ商法の光と影(2)~

 地方経済の活性化という視点から見ても、フランチャイズには問題がある。
 仮にフランチャイズ加盟店が儲かっても、その恩恵が地元に還元されない。地元からカネを吸い上げて、東京などにある本部に持っていってしまう。ために、地方が疲弊してしまう。
 置いてある商品は基本的に全国画一的で、地元の商品を売っている加盟店は少ない。ために、地元にカネが落ちない。
 大規模小売店舗立地法が2000年に施行された。それ以降、全国各地の郊外に大型店舗ができ、経験のない加盟者に高い賃料と保証金を払わせるフランチャイズがそこに入った。画一的な商品と販売手法が広がり、その地方の特色や文化がどんどん薄れていった。
 学校で就業体験を行うのだが、今や地方の就業体験の重要な担い手にコンビニがなっている。他に体験できるところがなくなってしまったのだ。

 サービス業(清掃、運送、教育など)のフランチャイズにはビジネスモデルが確立していない場合が多い。そのような場合は、ほとんど詐欺と言ってよい。
 <例>運送業(フランチャイズと名乗っているかどうかはさて措く)・・・・まず運送業の登録をさせ(事業者にさせ)、軽自動車を買わせる。架装品も暴利と言えるほど高額だ。しかし、加盟者ばかり増え、仕事がない。あったとしても大手がやりたくない仕事などが回ってくる。

 全国5万店のコンビニでは、利益の6割が本部に行き、加盟者には利益が残らず、納める税金も減る。
 地方の消費が地方に還元されず、東京に利益が集中している。
 今でも自己仕入れは可能だが、手続きが面倒だから取り扱わない加盟店が多い。
 これをやりやすくし、ロイヤリティを下げる。弁当など食品は廃棄せずに売り尽くす。加盟店に利益が残り、地元に還元できるようにすればよい。

□談:中野和子(弁護士)/まとめ:片岡伸行(編集部)「地方を疲弊させたフランチャイズ ~フランチャイズ商法の光と影~」(「週刊金曜日」2014年11月28日号)

   *

【経済】どのような規制が必要か ~フランチャイズ商法の光と影~

 どのような法整備が必要か。
 法学者で、コンビニ会計に批判的な論陣を張った故・北野弘久・日本大学名誉教授(2010年没)とともにフランチャイズ規制法要綱案を作成した中村昌典・弁護士/日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長(独禁法部会部会長)は、概要こう話す。
 (1)契約側の情報開示を抜本的に拡充する。
 (2)本部の登録制ないし事前開示書面の登録制を導入する。重要な開示項目に事実に反する点があった場合は、加盟者が無条件に契約を取り消せることも明記する。これによって詐欺的なFC本部を市場から排除する効果がある。
 (3)加盟店にとって不公正・不平等な現状を改めるために、近隣出店の規制や会計の透明化、正統な理由のない場合の契約更新拒絶の禁止、多額な違約金の禁止など規制する。
 (4)加盟者の団結権、団体交渉権、本部の団体交渉応諾義務、交渉誠実義務を明文化し、本来の意味での本部と加盟店との対等性を確保する。

□片岡伸行「23兆円産業!! この業界には規制法が必要だ ~フランチャイズ商法の光と影~」(「週刊金曜日」2014年11月28日号)
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 【参考】
【経済】規制法が必要な業界 ~フランチャイズ商法の光と影~



【経済】規制法が必要な業界 ~フランチャイズ商法の光と影~

2014年12月07日 | 社会
 今日のフランチャイズの原型は、1920~30年代に興ったFCビジネス(アイスクリームとレストランの「ハワード・ジョンソン」など)にあるとされる。
 その後、1950年代にケンタッキーフライドチキン、日本では1960年代の不二家などが最初とされ、1970年代にコンビニや外食産業の展開で本格化する。

 フランチャイズとは、パッケージされたイメージブランドによる商品・商号での販売を画一的に全国展開する事業形態のことだ。本部が加盟店にそのノウハウを提供して営業を行わせ、加盟店が本部に指導料(ロイヤリティ/チャージ)を払う契約を結ぶ。
 フランチャイズの業態はさまざまだ。コンビニ(セブン-イレブンなど)、各種小売店(ヤマダ電機、マツモトキヨシ、TSUTAYA、ブックオフなど)、飲食店(マクドナルド、ドトールコーヒー、養老乃瀧、幸楽苑など)、清掃業(ダスキンなど)・・・・。

 FCチェーン店舗数は、全国の小売業者の2割超(252,500店)、売上高は23兆4,700億円。うち52,902店のコンビニの売上が9兆6,000億円に及ぶ(2013年度)。
 コンビニ店舗数は、1994年に郵便局を抜き、2008年にはガソリンスタンドを抜き、2009年に年間販売額が百貨店を超えた。以後もその差は開きつつある。

 フランチャイズの問題点は、本部からの規制が厳しいコンビニに集約されている。フランチャイズそのものが蔓延りすぎているのが問題。庶民の収入が低くて物が売れないから自前もスーパーも儲からないのだが、コンビニだけ収益をあげているのは、巧妙な搾取が行われているからだ。
 巧妙な搾取とは何か。
 加盟店の実態は契約にあるような「独立事業者」ではなく、本部の支配下にあり、従業員のように使われている。労働契約を締結していれば労働基準法に反した就労状態になる状況を正当化するのに使われているのが「フランチャイズ」という仕組みだ。従業員と同じ扱いにするなら本来守るべき労働基準法などさまざまな労働法を、その仕組みの中で回避しているから儲かるに決まっている。
 本来は従業員(労働者)として雇い、「24時間営業」の店舗経営と販売をさせるべきところ、「独立事業者」と称して契約することで、残業時間代や各種保険などの本部負担を回避している。だから、儲かるのだ。
 このことは、「個人を加盟者としるフランチャイズ」という業態そのものが加盟者の無償労働を前提としているので、労働法を脱法した搾取の仕組みであることを意味する。

 フランチャイズは、三段階で本部が儲かる仕組みを持っている。
 (1)最初の契約締結段階。研修、店舗建設や内装、初期商品購入義務などで高い金額を設定して本部が儲かる。
 (2)商品販売段階。バイイング・パワー(販売力)を使ってメーカーや物流業者に大幅な仕入れ価格などの譲歩を迫るのに加盟店には高く仕入れさせるので本部は儲かる。コンビニの場合、さらに高率のロイヤリティをとり本部が儲かる。
 (3)店舗を辞めるときに高額の違約金をとるから儲かる。

 では、本部はリスクを負うのか。
 「独立事業者」として出店させ、赤字でも初期投資回収のため10年、15年の長期契約で縛りつけ、ほとんどの出店リスクを回避している。自前で出店すると、赤字になって撤退する損失をすべて本部が被るからだ。
 要するに、本部は加盟者の労働力を利用し、過去・現在・未来の労働を搾取し、しゃぶり尽くすことができる。経営リスクを負うことなく、店舗を展開することができる。しかも、諸事情でやめる場合は、高額な違約金を請求する。
 「儲けは本部へ、リスクは加盟店へ」
 本部だけが儲かる不平等契約なのだ。

 問題の多いフランチャイズ契約だが、日本にはそれを取り締まる法律が存在しない。
 米国では州ごとにフランチャイズ関係法があり、契約の入口と契約後の両方が規制される。韓国では、近隣出店(ドミナント)を規制するために距離制限(原則250m)を設け、加盟店者との団体交渉義務もある。
 日本の中小小売商業振興法(1973年に制定)では、フランチャイズ本部が「特定連鎖化事業」に該当する場合は、契約締結前に一定の情報を開示しなければならない、と定めている。しかし、開示項目が限定的で、しかも商品の販売を伴わないサービス業のフランチャイズには適用されない。実効的な法規制とはとうてい言いがたい。

  「優越的地位の濫用」や「再販売価格の拘束」などを規制する独占禁止法にも抵触する問題を多々含むため、公正取引委員会は実態調査をした上で「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」と題する文書を発表した。
 その「フランチャイズ・ガイドライン」(2011年6月23日付けが最新版)では、十分な情報開示」の必要性を説き、具体的な開示事項を示しているが、あくまでガイドラインにとどまるという限界がある。

□片岡伸行「23兆円産業!! この業界には規制法が必要だ ~フランチャイズ商法の光と影~」(「週刊金曜日」2014年11月28日号)
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【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~

2014年12月06日 | ●佐藤優
 セルゲイ・キリエンコ・「ロストアトム」(ロシア国営原子力会社)社長は、次のように語った。
 <同氏はモスクワ物理工科大の講演で、福島第一原発事故以後原子力エネルギーの成長は世界的に鈍化するとの悲観的な観測がなされたが、杞憂だった、と述べた。「世界は福島以前に戻った」(中略)
 世界にはいま71の新原子炉が建ちつつあり、それは1年前よりむしろ大幅に大きな数字である。多くの発展途上国が自国に原発を建てて利益を出し、かつ「最高の科学水準」の仲間入りをしたいと考えている、とキリエンコ氏。>【注1】

 キリエンコは、1998年4~8月(エリツィン大統領時代)、首相を務めた。同人は1962年7月生まれだから、首相就任時は35歳だった。エリツィンは、キリエンコを後任大統領候補の一人と考えていたが、1996年8月の金融危機に対応できず、首相職から解任された。
 その後、国家院(下院)議員を務め、リベラル派を代表する政治家になった。
 プーチン政権下でも生き残り、沿ボルガ連邦管区大統領全権代表などの要職を務め、2005年11月にロシア原子力庁長官に就いた。2007年12月、同庁が国営会社「ロスアトム」に改組された後、社長を務めている。

 今年1月22日、プーチン大統領がエネルギー政策について重要な発言を行った(日本では報道されていない)。
 <ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はモスクワ工科物理大学国立原子力研究所の学生たちとの会合のなかで、2011年の福島原発事故のような悲劇はあるが、今後、原子力を一層発展させていくことは不可避であるとの考えを示した。その際、自動車が開発された時、その速度や馬を驚かせることで、自動車反対の声があったことを引き合いに出した。
大統領によれば、2030年までに28の原子炉を建設する予定で、ロスアトムはすでに世界で22の原子炉に関する注文を受けているという。
さらに、他の核保有国が核兵器を廃棄しない限り、ロシアは核兵器を廃棄できないと述べ、「現在の状況下で(廃棄という)行動をとることは、ロシア連邦にとって極めておかしなことだ。これは我が国と国民にとって深刻な影響をもたらす恐れがある。」と指摘した。>【注2】

 プーチンのこのような発言の背景には、三つの理由がある。
 (1)中東情勢が今後も混乱する、とにらんでいるからだ。ロシア国内の電力生産における原発の比重を増やすことによって、ロシア産原油と天然ガスを輸出し、外貨を獲得しようと考えている。
 (2)ロシアが原発プラントの国家セールスを積極的に推進し、経済成長につなげていこうとしているからだ。この場合、原発に合わせて、潜水艦、戦闘機、地対空ミサイルも抱き合わせて販売し、ロシアの影響力の拡大を図る。典型的な帝国主義政策だ。
 (3)核抑止力に依存して、ロシアの安全保障を担保するためだ。そのためには原発を一層拡大・発展させ、専門家を増やす必要があるからだ。

 キリエンコは、プーチン大統領の路線に忠実に従っている。

 【注1】記事「ロスアトム長官「世界の原子力エネルギーは福島以前の成長シナリオに戻った」」(「ロシアの声」2014年11月22日)
 【注2】記事「「プーチン:原発のさらなる発展は不可避」(「ロシアの声」2014年1月22日)

□佐藤優「ロシアは原発と福島をこう考えている ~佐藤優の人間観察 第92回~」(「週刊現代」2014年12月13日号)
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 【参考】
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~



【沖縄】のメッセージを日本政府に伝えていくことが重要

2014年12月05日 | 社会
 辺野古建設に反対する沖縄県知事が誕生した。10万票の大差をつけた。
 この結果は米国にも大きな影響を与える。米主要メディアはこぞって長文の記事を掲載した。
 <例>「日本政府への打撃」【「ニューヨークタイムズ」】
     「事態を複雑にした」【ワシントン・ポスト」/「星条旗新聞」】

 鳩山由紀夫・首相(当時)が普天間基地の県外移設を主張してから、辺野古基地建設反対は文字どおり「オール沖縄」の取り組みとなった。昨年1月には、県内全市町村長による「建白書」行動も行われた。
 しかし、昨秋、中央からの圧力で県選出の自民党国会議員が辺野古を容認。昨年12月末には仲井眞弘多・知事(当時)が埋め立てを承認した。

 猿田佐世・新外交イニシアティブ(ND)事務局長は、どのように沖縄の基地問題をワシントンに伝えるか、という視点でこの問題に取り組んできた。自ら米政府・議会にロビーイングし、国会議員を含む沖縄の方々の訪米活動をサポートしてきた。

 沖縄の基地問題をめぐって、ワシントンには多様な意見が存在する。
 特に鳩山政権時代には、さまざまな角度から議論が活発化した。リチャード・アーミテージ“日米関係の守護神”なども、辺野古以外を検討すべき、という発言を繰り返した。米政府でも別案を検討する人々が現れていた。ジョン・マケインら有力米上院議員は現在の計画は実行不可能との声明を発表した。
 しかし、近年、尖閣諸島や歴史問題などに米国の日本専門家の関心が移るにつれ、沖縄が話題にのぼる頻度は低下した。

 とはいえ、米政府は常に状況を注視している。辺野古で調査が開始されたこの夏、米国の「知日派」から真っ先に問いがあったのは、「反対派は何人集まっているか」だった。その地で基地運用を予定する米国としては、反対の規模は強い関心事だ。
 そこに、この知事選の結果だ。
 むろん、米政府が直ちに政策を変えることはない。安倍政権も強行姿勢を崩さない。この選挙で事態がすぐに変わると思うのは誤りだ。

 やらねばならぬことは多い。
 「日米政府に沖縄のメッセージを伝えていく」【翁長雄志】 
 これが何よりも重要だ。米国内の活動に限っても、連邦議会の上院軍事委員会、歳出委員会への訴え、米基地予算案に係るロビーイング、各シンクタンクとの連携など、これまで誰も戦略的・継続的に取り組んだことのない多くの課題を一つ一つ実践していかねばならない。
 翁長・新知事は、ワシントン沖縄オフィスの開設を公約に掲げていた。オール沖縄での米国への働きかけをNDは全面的にサポートしていく。

 ワシントンでは、安全保障の観点を踏まえて立論しなければならない。
 どの場面で海兵隊を用いるのか。なぜ海兵隊は沖縄にいなければならないのか。
 分析を進めれば、「抑止力」の観点からも米海兵隊が沖縄にいる必然性はないことがわかる。
 このような議論をワシントンの安保専門家と深めることも重要だ。

□猿田佐世「日本政府に沖縄のメッセージを伝えていくことが重要 ~強化される沖縄の自己決定権~」(「週刊金曜日」2014年11月28日号)
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 【参考】
佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~



【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ

2014年12月04日 | ●佐藤優
 沖縄県知事選挙(11月16日投開票)では、翁長雄志・前那覇市長が当選した。翁長氏は現職の仲井眞弘多氏を10万票も離し、得票率は51.22%を占めた。
 具体的な争点となったのは、米海兵隊普天間飛行場の移設問題だ。
 しかし、より本質的な争点は、沖縄が東京の政治意志に隷属する日本の一地方に留まるか、それとも沖縄(琉球王国を持ち、独自の言語・文化を維持する)が自己決定権を確立すべきか、という沖縄人のアイデンティティをめぐる問題だった。

 日本の一部には、保守系の翁長氏が知事になっても、中央政府から圧力を加えられれば再び辺野古容認に立場を変更する、という見方がある。・・・・これは、沖縄の自己決定権を軽視した非現実的な見方だ。
 「琉球処分」(1879年)によっても、沖縄人は自らの共同体・文化を維持し、沖縄人という自己意識を失うことはなかった。しかし、同時に沖縄人も日本人としての自己意識を持つようになった。そのため、現在沖縄人の自己意識は4つのカテゴリーに分かれている。
 (1)沖縄人性を完全に放棄し、日本人以上に日本人になろうとする沖縄人。日本人に過剰同化する沖縄人といってよい。
 (2)沖縄系日本人という自己意識を持つ人びと。これが従来の沖縄で圧倒的多数を占めていた。
 (3)日本系沖縄人という自己意識を持つ人びと。沖縄人と日本人の複合アイデンティティを持っているが、どちらか一つを選ばなければならなくなったとき沖縄人を選択する人びとだ。
 (4)日本人性を完全に否定し、琉球人(沖縄人)という自己意識を持つ人びと。

 仲井眞弘多氏も翁長雄志氏も(2)だった。しかし、中央政府の強圧的姿勢を前にして、仲井眞氏や一部保守政治家は、(1)になろうとした。これに対して、翁長氏と別の保守政治家は(3)の方向へ自己意識がシフトしたのだ。

 翁長氏と同じベクトルでの自己意識の変化が、広範な沖縄人の間で生じている。
 少数派の気持ちを理解することができない日本の中央政府は、沖縄の民意を無視して、辺野古への新基地建設を強行しようとするであろう。
 しかし、それは絶対に不可能だ。なぜなら、沖縄の主権は沖縄人に属するからだ。

 中央政府は、「未完の琉球処分」を完成させようとしている。すなわち、「外交、国防は中央政府の専権事項なので、地方は口を出すな」という理屈を沖縄人に押しつけようとしている。
 沖縄が日本の一地方である、という認識が、根本的に間違っている。
 沖縄人からすれば、日本は、二つの主体によって構成されている。①沖縄、②沖縄以外の日本。
 いわば二つの主体が一つになって日本国家が形成されている・・・・という現実を、中央政府は冷静に認識すべきだ。
 中央政府が梃子入れすれば、(1)を作ることができる、というのは幻想だ。

□佐藤優「辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ ~強化される沖縄の自己決定権~」(「週刊金曜日」2014年11月28日号)
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 【参考】
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
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【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
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【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
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【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~





【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~

2014年12月03日 | 社会
 このたびの総選挙で誰に投票すればよいかと書いた【注1】後、各党の選挙公約がほぼ出そろった。メディアも型どおりに報道した。
 しかし、報道自主規制のため、有権者にとって最も重要なことが伝えられていない。すなわち、安倍政権のこれまでの実績に関する評価が伝えられていない。
 その結果、有権者は非常な混乱状態に陥る仕儀となる。
 <例>この選挙ではアベノミクスを進めるのか、止めるのかが問われる・・・・と安倍自民党は言う。そこには、アベノミクスは一体として前進している、という前提がある。
 しかし、アベノミクスの最大の問題は、第三の矢と言われた成長戦略の中身がないことだ【注2】。

 「私のドリルで岩盤規制に穴を開ける」と安倍総理は胸を張っていた。しかし、そのドリルはずっと空回りしていた。誰も止めていないのに、自分が、既得権との戦いに怖気づいて、何もできなかったのだ。
 つまり、日本再生の鍵となる改革を進められなかったのは、勇気のない安倍総理の責任だ。
 その安倍自民党に引き続き政権を任せていいのか・・・・ということが、本当の争点なのだ。

 国民に最も人気がある、と目されている自民党若手政治家Kは、2012年(自民党がまだ野党で、谷垣禎一・総裁のころ)、こう言った。
 「自民党は、日本国民に対して、三つの滞在を犯した。
  (1)900兆円超の借金大国にした。
  (2)少子高齢化を放置し、社会保障の基盤を危うくした。
  (3)原発神話を作り、福島の事故を招いた。
 この三つについて、真剣な反省をして、それに関する政策を大きく変えることが必要なのに、残念ながら民主党の失政によって、何もしなくても政権が奪回できそうな状況だ。
 しかし、国民は、自民党が生み出した「失われた20年」に愛想をつかして、民主党政権を選んだ。仮に自民党が、その失敗を省みず、単に民主党の失政につけ込むだけで、何も変わらないまま政権に就いたとしたら、どうなるか。
 国民は、昔の自民党の失敗を完全に忘れたりはしない。今度は、自民党は変わっていないと、あっというまに国民に見透かされてしまい、非常に短期間で、また政権の座を追われることになるのではないか」

 まったくそのとおりで、自民党が犯した最大の罪は、日本を成長できない国にしてしまったことだ。
 実は、若き自民党のヒーローが2012年に懸念したことが、今まさに現実のものになりつつあるのではないか。

 今露呈しているのは、「アベノミクスの失敗」という短期的な問題ではない。
 もっと深刻な事態なのだ。
 日本をダメにした自民党が、全く変わっておらず、決して改革を進められない、という事態だ。
 そして、その原因は、むろん既得権層との癒着だ。

 しかし、マスコミは、選挙前に政権批判をしてはいけないという「自主規制」をかけて、この本質的な問題を一切報じなくなってしまった。その結果、皮膚感覚では
  「変われない自民党」
に気づきながらも、
  「改革を進めようとしている安倍政権を支持するのかどうかが問われている」
という錯覚に陥る有権者が多いのだ。

 政権与党の実績に関する批判的な評価(投票の前提となる最も重要な情報の一つ)を選挙前に報道しないなら、マスコミはその存在意義を自ら否定しているのと同じだ。

 【注1】「【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
 【注2】前掲記事。

□古賀茂明「若手ヒーローK氏の言葉 ~官々愕々第134回~」(「週刊現代」2014年12月13日号)
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 【参考】
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~
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【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
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