語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す

2014年12月19日 | 社会
 12月14日に投開票の総選挙ほど、「解散の大義」と「争点は何か」が議論された選挙も珍しい。
 完全に虚を衝かれた野党からは、解散に対する恨み節「大義論」として噴出した。「解散は望むところ」であるはずの野党が、「大義がない」としつこく言い募ったのは、選挙にちっとも自信がなかったからだ。

 一方、安倍政権も実は、「アベノミクスはうまく行ってない。このままではジリ貧だ。野党が準備不足のうちに奇襲攻撃をかけよう」という本音を隠さねばならなかった。
 そこで展開された安倍政権の「大義」論は、コロコロ変わっていった。

 (1)「消費税増税延期は3党合意を覆すものだから国民の信を問うのは当然」
 ・・・・しかし「3党合意に基づく消費税増税法案の景気条項には、景気回復未達成の時には増税を延期すると書いてある」と反論されて、完敗。

 (2)「税制は民主主義の根幹だ。増税を延期するのだから、国民の信を問うのは当然」
 ・・・・安倍総理のブレインは、「代表なくして課税なし、そんなイロハもわからないのか」と、税制を変えるなら選挙で国民の代表を選びなおす必要があると語った。しかし、この言葉は、選挙で議会に代表を送る権利がなければ課税は不当だ、という米国の独立戦争時の標語なのだ。使い方が奇妙だ。逆に、「そんなことも知らなかったのか」と切り返された。
 しかも、「集団的自衛権行使容認の閣議決定のときには実質憲法改正なのに国民に信を問わなかった。憲法は民主主義の根幹ではないか」とという致命的な批判を受けて、この議論も、たちまち轟沈した。

 (3)安倍政権の大義論は選挙の争点論にシフトし、主張されたのが、「アベノミクスを進めるのか、止めるのかを問う」。
 ・・・・しかし、「アベノミクスの第三の矢を止めているのは安部総理自身だ」という批判を誘発し、舌がもつれてしまった。

 (4)最後に安倍総理側近が持ち出したのは、「今回の選挙は“財務官僚と自民党内守旧派族議員の連合”対“改革派安部総理”の戦いだ」。
 ・・・・これは、(a)TPP参加決定、(b)医薬品ネット販売解禁、のパターンだ。「悪者」の抵抗を演出し、「最後に安部総理のリーダーシップで“改革”が決まった」と大本営発表する。が、しばらくすると、全く看板倒れの結果が出て終わる。

 姑息きわまる。
 そもそも、安部総理は官僚と戦っているのか? 
 ノー。
 安部総理は、就任早々公務員改革を封印した。坂篤郎・前日本郵政社長(元財務省)の天下りを糾弾するパフォーマンスはやったが、①普通の役人の天下りは完全に野放し。②4月には、東北復興予算の財源として7.8%削減していた公務員給与を元に戻し、③10月には、月給0.27%、年間ボーナス0.15か月分の引き上げを決めた。
 ④増税で対立しかねない財務省には好きなだけ国債を発行させて、彼らが一番喜ぶ利益(公共事業の配分)を増やし、⑤自民党の分厚い公約集には、各省の予算要求項目がズラリと並ぶ。
 アベノミクス第三の矢の規制改革も、本気度はゼロ。官僚への配慮で溢れかえる。

 これだけお粗末な大義論、争点論だったが、選挙が終わってから省みれば、自民党にとっては、全く問題なかった。
 障害物競走で、必死に障害をクリアして、何とかゴールに辿り着き、振り返って見たら、野党は池に落ちたり、怪我をしたりで、遙か後方にいた、という状況だ。
 税も予算も、すべて官僚によるお膳立ては済んでいる。それに乗っかれば、補正予算や来年度予算の成立もさほど遅れることはない。
 組閣と同時に、官僚主導の安倍政権が再スタートする。

□古賀茂明「官僚主導の安倍政権 ~官々愕々第136回~」(「週刊現代」2014年12月27日号)
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