ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

最後は3000m越え:・・・越えられず

2015年06月25日 02時51分09秒 | Weblog
急ぎ朝食を済ませ、身支度を整えた。
眠い、だるい・・・。
だが、行けるところまではと決めていた。


テントから出るも360°周囲は真っ白なガス。
そのガスの中にポツリポツリとテントがあるといった感じだった。
「行くんですか?」
隣のテントの方が聞いてきた。
「そうですねぇ・・・行けるところまでは行ってみます。」
「僕は今日は諦めてここでのんびりしますよ。気をつけて。」

おそらくはその方が正しいのだろうということは分かっていた。
残雪期であり、明け方までの豪雨からしても雪面は相当緩んでしまっているに違いない。
ということは、おのずと落石の危険性も高まってくるのではないか・・・。
そのくらいは予測ができた。
アイゼンの爪がどれほど効いてくれるだろうか・・・。
考えれば考える程不安はつのる一方だった。

もう一度小豆沢(あたり)を見上げた。
まったく何も見えない。
とぼとぼと歩き出すが、まだ幾分眠気が残っているようだった。

昨日ピンポイントで登り口を起点とし、地図上に一本の線を引いておいた。
あとはコンパスを頼りにひたすらその方角に向かって登れば良いだけだ。
もちろんトレースを・・・

そのトレースが消えてしまっている。
雨のせいだということはすぐに分かった。
トレースなのか、残雪期特有の雪面の凹凸なのか、その区別がつかなくなってしまっている。
トレースっぽくも見えるけど、確信が無い。
「地図とコンパスを信じよう。」

登り始めて20分程過ぎただろうか。
振り返るも、涸沢のテントなどとっくにガスで見えなくなってしまっていた。
そしてルートのすぐ横に、落ちかけて途中で止まっている石があった。
「落石かぁ・・・。そう言えば、去年の北穂の時も落石に遭遇したっけ。」
嫌なことを思い出してしまった。

本当に濃いガスの中だった。
そのガスの中を今は唯一直線に登攀するだけだ。
昨日あれだけ明瞭に残っていたトレースは分からない。
「地図とコンパスを信じよう。」
繰り返しそう何度も何度も思いながらの登攀だった。

徐々に斜度がきつくなってきている。
キックステップに切り替えるが、思っていた以上に前爪が効かない。
ピッケルのスピッツェはズブリと突き刺さる。
それだけ雪面が緩いということだ。
「まいったなぁ・・・まるで糠に釘だ。」

不満を並べたからと言って今の状況が変わるわけでもない。
自分の技術と判断力と経験でできることをするべきだ。
それでも愚痴が出る。

登攀開始から一時間程が経過した。
見上げても何も見えない。
右を見ても左を見ても何も見えない。
分かっているのは、自分は今急斜面を登っているという感覚だけ。
ある種の「ホワイトアウト」状態に近かった。

緊張感が増す。
「下りるべき・・・か・・・」
判断の迷うところだったが、迷いながらも一歩ずつ斜面を登っている自分だった。
だが、その迷いを払拭し、下山の決断を下す状況が起き始めた。

落石だ。

落ちてくるのは当然上からだが、上と言ってもあまりにも範囲は広い。
そしてホワイトアウトの様な真っ白いガスのせいで、どこから落ちてくるのか分からない。
更には音がしない。聞こえない。
突然自分のすぐ横を石が転げ落ちて行くのだ。
これには怖さを感じた。
「これやばい! 絶対にやばい状況だ!」
そう思っているとまた落ちてきた。
「下りよう。今ここでの無理な行動はただの蛮勇だ。」

しかし、背中を向けて下山することが怖かった。
背後からの落石は避けようがないからだ。
ナインオックロック、またはスリーオックロックの体勢での下山とした。
これなら体は真横を向いてはいるが、上もすぐに確認できる。
先ずは慌てないこと。
慌ててしまうとろくな結果に繋がらないことは、嫌という程経験してきた。
・・・が、やはり少しは急ぎ足になってしまった。(笑)

下山の途中でも、数回自分のすぐ横を落石が追い越していった。
「これって、運もあるよなぁ・・・」
そんな気がしてならなかった。



今回、割と早く下山の決断をすることができたのは、1月の横岳の経験があったからだと自分では思っている。
あのあまりにも苦く辛い経験があったればこそのことだ。
「状況からの判断・迷い・思考・予測」そこからの「決断・実行」。
登頂できないことは確かに悔しいし、「ここまで来たのに・・・」という思いもある。
それでも、あの時の決断は正しかったと今でも思える。

ガスの向こうに黄色いテントらしき物が見えてきた。

「しょうがない、また来年来るか。」

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