ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

最後は3000m越え:ニリンソウ

2015年06月26日 23時08分04秒 | Weblog
力なくテントへと戻り、アイゼンを外した。
煙草に火をつけゆっくりと煙を吐いた。
「ふぅー・・・」と大きく吐きながら奥穂高岳と推測する方角を見上げた。
もちろん何も見えない。
ただ真っ白なガスのぶ厚いカーテンだけが視界に入って来るすべてだった。
「しょうがないよなぁ・・・。」
落石に当たらなかっただけでも良しとしなければならない。

今日は上高地まで戻ればいいだけだし、慌てて撤収する必要もない。
お湯を沸かしチャイを飲んだ。
諦めはついているが、心の何処かに悔しさを感じていた。
チャイは甘い。
その甘さが染みるだけに、僅かな悔しさは苦かった。

昼近くになりテントを撤収し下山を開始した。
途中何度か涸沢を振り返るが、どこもかしこも真っ白なガス。
「また来年だなぁ・・・」
そう思いつつも、頭の中では突如として目の前に姿を現す落石を思い出していた。
やっぱり怖い。
「コロコロ」或いは「ゴロゴロ」と落ちて来る程度であれば、当たっても膝から下だけで済むだろう。
しかし、時には途中でバウンドして上半身あたりの高さまで跳んでくるものもあった。
もしあれが頭部に当たっていたら・・・。

「やっぱりこれで良かったんだ」
自然に逆らうには限界がある。
その限界を越えてしまうことで結果がどうなるのかは言うまでもあるまい。

本谷橋までもうすぐという所に来て、ルート状況の急変に驚いた。
「なんじゃこりゃぁ。これって昨夜の風か? 風でこうなってしまったのか?」
確かにテントが飛ばされてしまいそうな程の猛烈な強風であったことには違いないが、この変わりようには驚かされた。

両側の樹林帯から風で飛ばされてきた気の葉や小枝が散乱していたのだ。
いや、小枝だけではなかった。
まさかこんな太いものまで・・・と思うものがルートを塞いでいた。
「こんなに強い風だったんだ・・・。 よく(テントが)飛ばされずに済んだものだ。」

テントの撤収時に気付いたことだが、実はテントポールが曲がってしまっていたのだ。
幸いに折れることはなかったが、風で曲がってしまったテントポールを見て、「補強作業をやっておいて良かった」としみじみと思った。

本谷橋でアイゼンを外し小休止をした。
この日涸沢を目指す登山者達とすれ違う。
明日は晴れそうだし、きっとてっぺんからは良い景色を見ることができるだろう。

徳澤園に着きここでも小休止。
今回のソフトクリームは「残念賞」的な意味もあるかな(笑)。
でも美味い!!!

もうすぐ上高地だ。
何ら急ぐことなど無い。
のんびりと歩こう。
ゆっくりと歩くことで、周囲に目が向くようになった。
日の差さない樹林帯の中、樹木の下には真っ白な花が群生となって咲いていた。
「あれっ、来る時は気がつかなかったなぁ・・・」

小さく可憐な花だった。
名前は分からない。
そこここに群生となって咲き乱れているその花に見入った。

自分らしくもない行動をとった。
道端にしゃがみ込み、じっとその花を見つめた。
花を見ているという自分が不思議だった。
自分らしくない行動が不思議なのではない。
それは、つい数時間前の自分は、ホワイトアウトの様なガスの中で息を切らせ、落石の恐怖に怯えていた。
だが、今の自分はどうだ。
こうして可憐な花の群生に囲まれるようにして道端に座っている。
あまりにも極端であるにも関わらず、どちらも同じ自分であることが不思議でならなかったのだ。

写真は撮ってこなかったが、花びらや葉の形は目に焼き付けた。
帰宅してネットで調べてみたところ「ニリンソウ」という花であることが分かった。
「あの花はニリンソウって言うのか。忘れられないなぁ・・・。」
そして後日、何と高山植物の本を購入した。
これこそ自分らしくない行動だろう。(笑える)

あれから時々ではあるが、その本を開き一つ二つと花の名前を覚えた。
もちろんすべてを覚えるなどといったことは自分にはあり得ない。
今回の様な出来事があり、その日その時のインパクトでもなければ本気で覚えることはないだろう。

まぁ気長にやって行こう(笑)。


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