ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

最後は3000m越え:眠れぬ夜

2015年06月17日 22時24分03秒 | Weblog
早めに夕食を済ませ、ゆっくりと珈琲を飲みながらテン場を散策した。
まだ日は落ちてはいないが、日中と比べれば肌寒さを感じる。

北穂を見上げた。
去年のちょうど今頃に登った山だ。
「最後の1時間が厳しかったなぁ・・・」
それでも、頑張って頑張って頑張って余りある360°白銀の絶景に言葉を失った。

「明日はどうかな。天気がなぁ・・・。」
今のところ崩れて来る気配はないのだが、予報によればあまり良くない。
「まぁ行けるところまでは行ってみよう。」
それだけは決めていた。

テントへと戻り、好きなバーボンをチビリチビリとやりながら本を読んだ。
テン泊において、食事の時も大好きなひとときではあるが、食事が終わり、明日の準備も済み、後は寝るだけとなったこの時の流れがたまらなく好きだ。
周囲の一切の音が消え、独りテントの中でシュラフに下半身だけを入れ足を伸ばす。
ゴロリとしながらヘッデンの灯りで文字を照らし、そして時々酒を口にする。
何となく睡魔が来れば、灯りを消して肩までシュラフにくるまりそのまま眠りに就く。
とは言っても、酒が入ればやはり煙草が吸いたくなるのは常。
ダウンジャケットを着込んで外へと出てみたが、いつの間にか漆黒の闇に包まれた涸沢カールには、涸沢ヒュッテと涸沢小屋と自分を含めた三つのテントの灯り以外何も見えなかった。


夜空を見上げた。
星が瞬いている。
標高2300mから見上げる夜空はことのほか美しい。
自分が住んでいるところは田舎ではあるが、その田舎の空でさへも都会と感じる程にここの星空は美しかった。

「さて寝るか」
シュラフにくるまり目を閉じた。
程よく心地良い酔いにまかせ、眠りに就いた。

夜中に目が覚めヘッデンで腕時計を照らした。
まだ23時を過ぎたばかりだった。
ちょっと天気が気になりテントから顔を出すと、相変わらずの星空に胸をなで下ろした。
「(天気予報は)外れかな・・・」
そう思い、安心して再び眠りに就いた。

バラバラバラ。
バタバタバタ。
そんな音で目が覚めた。
「あぁー来ちゃったか・・・」
深夜の1時過ぎになり、雨と風の音で嫌でも起こされてしまった。
まぁ仕方ないだろう・・・と、少々甘く見ていたのだが、風雨は音と共に次第にその強さを増してきた。
テントが煽られるようにばたつき始めた。
「やばいなぁ・・・」
急ぎ着替えて、入り口の横に刺しておいたスノースコップを持ち出しテントの補強作業に取りかかった。
壁を作ろうかとも思ったが、先ずは張り綱とペグのポイントを中心に雪を重ねた。
もちろん張り綱もチェック。
「(これで大丈夫だろう)」と思える程度の補強だった。

テントへと入るが、びっしょりに濡れたアルパインジャケットとパンツをそのまま中に入れる訳にも行かず、適当に水滴を振り払いビニール袋に入れた。

下半身だけシュラフに入り、ダウンジャケットを着込んで膝を抱え込んで目だけを閉じた。
眠気があり、ウトウトとしながら時が過ぎる。
雨あしと風は徐々に強くなってきているようだ。
分かってはいるが、眠い。
自分の背中側から強風でフライシートが押されているのが嫌でも感じた。
だが眠い・・・。
それでも「大丈夫だろう」という、何の確証も根拠もない勝手な思いを正しいと思い込んでいる自分だった。
それは単に「眠い」「これ以上の補強作業が面倒だ」「外へなんて出たくない」。
ただそれだけの理由に他ならない。
それでも「危険だ」「もう一度チェックしなきゃ」。
相反する考えもあった。

「葛藤」と言うには大袈裟だが、一時間以上もずっと考えていることがバカらしくなってきた。
少しでも安心して夜を越すためには、やはりもう一度外へ出る以外に解決策はなかった。
再びジャケットとパンツを着て外へと出た。
ヘッデンの灯りに照らされた雨粒は、自分の目の前で真横に飛んでいる。

今度はピンポイントだけの補強ではなく、フライシートの周囲全体に雪をかぶせ積み上げた。
スノーフライシートでは無いので「スカート」は無い。
だからと言って今更空気の対流がどうのこうのとか言ってられなかった。
とにかくテントが飛ばされないことだけを第一に考え雪を重ねるしかなかった。

テントに戻った時は、夜中の3時をまわっていた。
体が寒い。
バーナーでテント内を暖めようかとも思ったのだが、それだけは止めた。
予備の着替えをすべて着込み、行動食を食べ体の中からも熱を発するようにした。

今度はもう眠気など何処かへすっ飛んでいってしまった。
不安は完全に払拭された訳ではないが、「やることはやった」という安心感があった。
このままやり過ごせればありがたい。

時々ウトウトとしてはしまったが、空が白みかける頃には風雨は止んでくれた。
「良かった。何とかテントは持ってくれたようだ。」
そうなってくると、今度は安心感からか急に眠気が・・・。
「あぁ~これから眠れたらどんなに楽かなぁ。」

時刻は朝の4時50分。
先ずは珈琲で目を覚まさねば・・・。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (腹ペコ山男)
2015-06-21 21:27:20
状況がよくわかる文章です。私もテントの中にいる気持ちで読ませていただきました。9時ごろに寝るようにしていますが、2回ほど目がいつも覚めます。冬の雪かきとトイレは迷いどころですね。ちなみに本日六甲山でツオロミーブーツの慣らしをしてきましたよ。
返信する
一度で済ませれば・・・ (FZ-TAKA)
2015-06-22 02:50:59
いやはや、何故一度目の補強の時に完璧に仕上げなかったのかと悔やみました。
そうすれば後は安心して眠れたかも知れないと・・・。
人は自然に対して何と無力で小さいものかと思い知らされます。
さて、ツオロミーの慣らしに出かけられたとのこと。
固めの重登山靴とは違って、慣らしの期間や回数は比較的少なくて済むのはありがたいですね。
今年の夏は是非アルプスへ!
返信する

コメントを投稿