ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

限界を感じて・・・トラバースⅡ

2015年03月03日 13時53分12秒 | Weblog
「命懸け」と言うには大袈裟だろうが、あの時の自分にとってそれは将に未曾有の経験だったことは間違いない。
後日、山仲間や山の知人に「どうだった?」と聞かれ、その時の状況を説明すると答えは皆同じだっだ。
「俺だったら絶対に行かない。って言うか無理!」
「えーっ、行っちゃたんだ。あそこは無理だろう。」
こんな感じだった。

さて、実際のトラバースはどうだったかと言えば、僅か7~8m程度の距離を通過するのに30分もかかってしまった。
先ず集中すべきは左手だった。
これ以上は積もった新雪の上に体重をかけたくはなかっただけに、握ったバイルの先端部位に意識を集中させ、右手でピッケルを操作。
一歩進む距離はたかだか30㎝で、足下の雪を崩し続けた。

次に集中することは、ピッケルで崩した雪を左足で踏み固めること。
そしてゆっくりと一歩を踏み出すことだった。
この時細心の注意を払ったのは、決して全体重をかけないことだった。
できる限りバイルに体重をかけての踏み出しだった。

何度かこれを繰り返し数メートル進んだのだが、今度は左手に問題が発生してしまった。
握力が続かなかったのだ。
情け無いかなこれが自分の現状だった。
ほんの数分だったが、バイルを握っている握力をゆるめ回復を待った。
そして再び一歩ずつ。

やっとの思いでトラバースを終え、思わず雪の上にうつぶせになって倒れ込んだ。
西側からの猛烈な風が顔面に吹き付ける。
ゴーグルの表面には次第に粉雪が積もりはじめ、少しずつ視界を遮っていった。
「俺、なんでこんなストイックなことしているんだろう。やめときゃよかった・・・。」
バラクラバにも雪が付着し始めた。
「息ができなくなるなぁ・・・」
そう思い、仕方なく・・・そう、仕方なく立ち上がり先へと進んだ。

あれだけ事前に調べ上げたルートの詳細情報がまったく何の役にも立っていないことが不安・・・いや、恐怖でならなかった。
そしてこんなことまでして経験値を高めようなんて考えたこともない。
なのに足は前へと進む。
思いと行動が矛盾しきっていた。
「やめろよ。もう帰ろう。」
「腰を据えて熱いカップラーメンでも食べよう。」
もう一人の俺が語りかけている。

小説などでは「もう一人の自分が・・・」という一節はよくあるパターンだが、現実ではそんなことはあり得ない。
ただ、あの時は何となくもう一人の自分がいて、弱さをさらけ出していたような気がしてならない。
甘くて楽な世界への誘惑だ。
それでも不思議と足だけは前へと踏み出していた。

たった一つだけ後悔していることがあった。
帰りも再びここを通過しなければならないということだ。
硫黄岳まで縦走し、雪崩の危険を承知で下山した方が良いのか・・・。
やはり今日は登るべきではなかったのだろうか・・・。

あの時の自分は迷いと後悔だらけだった。

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