ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

シーズンを締めくくる:「シーズンを締めくくる」

2016年06月25日 12時56分42秒 | Weblog
奥穂高岳の頂上を目指すルートは、今回で6回目となる。
ただし、5回目までは夏ルートだ。
つい3年前の夏にもこのルートは一往復してはおり、参考までにとその時の画像を家でじっくりと脳裏に焼き付けてきた。
当たり前のことだが、夏ルートと雪のルートは違う。
すべてが違うわけではないが、ここまで何度かルートを見失いかけたのは事実だ。
それでも雪解けが早かったおかげで、明らかにルートである区間は幾つか見分けることができた。

高度計を見た。
正確ではないにしろちょうど3200mを表示している。
時刻はスタートして1時間を少しだけ経過している。
「もうそろそろなんだけどなぁ・・・」
胸を締め付けられるような不安の中で真っ白なガスの世界を見渡した。
「もう少しだけ登ってみるか」
登ることができると言うことはまだてっぺんではないという証拠。
だが、せめて祠とか指標とかが目視できてもいいはずだ。

5分程登っただろうか、再び周囲を見渡した。

安堵感に包まれた瞬間だった。
西穂高岳方面を示す指標と、山頂の祠が目視できた。

長い1時間だったが、指標に向かって進む足取りはついさっきまでと比べて軽くなっていた。

当初の計画では、ここから「馬の背」までは行ってみようと考えていたのだが、この悪天候のためそれはやめにした。
今日中に上高地まで下山しなければならないし、彼のこともちょっと気になっていた。

3年振りの奥穂高岳のてっぺんは誰一人もいなかった。
しかしそんなことはもう慣れっこになってる。
雪山であればそう珍しいことではない。

せっっかくだからピッケルだけでなく、アイスバイルも一緒にセットした。
ここまで1時間24分かかってしまった。
「まぁいろいろあったしね(苦笑)」

とてつもなく雨風が強く、煽られながら頂に立った。
やっとリベンジができたことの嬉しさや達成感、そして充実感を噛みしめた。
ほんの数分程度の山頂だったが、それで十分だった。


「さぁて戻るか・・・」
再び緊張のルートとなったが、小屋までのルートにおいても一度ルートを間違えてしまった。
間違い尾根に入り込んでしまったわけではないが、僅かに右寄りに進んでしまい、腰まで雪に埋もれてしまったのだ。
まともに抜け出すことなどできるはずもなく、ピッケルで少しずつ雪をかきだし、片足ずつ抜いていった。
「大丈夫、慌てる事じゃない。」
今までの経験がそう言っている。

間違い尾根の手前まで来たが、既に彼は居なかった。
「下山したんだな。いや、下山できたのかな・・・」
心配になったが、今は自分のことを心配すべき時だ。
フィックスロープの位置を確認し、もう一度間違い尾根を見た。
「確かにこれじゃ間違う人がいるはずだ。」
そう確信できる程のハッキリとしたルートに見えた。

雪壁を下りる時は、右手にピッケル、左手は岩をホールドして下りた。
去年の夏、劔岳の平蔵谷雪渓でのシュルンドでも似たようなポイントはあったが、高さが違う。
だが、あの時の経験も役に立っていることがありがたかった。
「経験を積む・・・か。なるほどなぁ・・・」

鉄梯子を下り、小屋に戻った。
まだすべての山行が終わったわけではないが、ホッと一息付ける状態となってくれた。
アイゼンを外し小屋に入る。
「わぁー良かったです! 無事登られたんですね!」
黄色い声にちょっと照れながら「ありがとうございます」と返事をした。
びしょ濡れのグローブを外し、煙草に火を付けた。
美味い。安堵感の味がした。

スタッフの女性がお茶を入れてくれた。
冷え切った体には本当にありがたい心遣いだった。
(本来であれば、お茶も有料なのだ)

ポケットに入れておいた荷物をザックに詰め替え、すぐに下山した。
「ハチローさんによろしくお伝えください。あなたのアドバイスのおかげで無事登頂し、戻ることができましたと、くれぐれもよろしくお伝えください。」

白出のコルから涸沢まではちょうど1時間だった。
途中休憩することなく涸沢まで来たが、緊張感から解放されたためか、左足の疼きが再発した。
いや、おそらくは今朝から疼きはあったのだろう。
まぁここまで来てしまえば、もう急斜面を下ることもないし、あとはのんびりと上高地を目指すだけだ。

事故の報告は無いことから、彼は無事だったと思う。
無謀だと言えるし、本当に一人で登れると思ってきたのだろうか。
何とかなると思っていたのだろうか。
どれだけ事前に調べたのだろうか。
どれだけの経験を積んできたのだろうか。
そして、どれだけ自分自身のことを知っていたのだろうか。
知ろうとしたのだろうか。
事故に遭わなかったことを最大の幸運と思って欲しい。
己の実力ではなく、ただの幸運であったと思って欲しい。

涸沢から白出のコルを振り返るが、何も見えない。
もちろん奥穂高岳もガスの中。
ガスの中にあるであろう頂を見つめながら、雪山シーズンのラストはちょっと複雑な思いに駆られた。
が、それなりに満足できる山行となってくれた。

さて、今度は癒しを求めてのんびりと花を愛でに登ろう!