ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

春の北アルプス「プチ滑落・・・」

2012年09月04日 22時46分38秒 | Weblog
「春の北アルプス」を中断してから一月以上が経った。
やっと再開、あまりにもルーズで申し訳ない。 m(_ _)m

小屋では21時前に就寝し、翌朝は4時頃目が覚めた。
部屋の中は暖かいが、窓の外を見てみると当然まだ暗く何も見えなかった。
「ひょっとして視界ゼロってことはないよな・・・」

朝食前に外に出てみたが、粗目雪のような状態で、視界は僅かに数十メートルってところだろうか。
復路が心配になった。
茶茶丸さんと一緒に食事を済ませ、荷物のチェックをした。
今日自分は同じコースを戻るだけなのだが、茶茶丸さんはソロで「五竜岳」へと向かう。
午前8時。
茶茶丸さんは先に出発した。
ろくに挨拶も御礼もできず、今でも申し訳ない思いが残る。

8時30分。
八方方面に向けて小屋を出発した。
スタートした頃は粗目雪はほぼ止んでいたが、視界だけはかなり悪い。


トレースがはっきりとしているおかげで迷うことはなかったが、夜間の冷えで雪質はかなり固くなっていた。
クランポンを装着すべきか否か・・・。
迷うところではあったが、標高は徐々にではあるが下がることからこのまま装着せずに下山することにした。

「ん? 雷鳥の鳴き声が聞こえる」
目をこらしてはいるのだが、メガネを外していることもあり目視できない。
ましてやこの時季の雷鳥はまだ白い。
尚更見えるはずもなかろう。


ルートの先、左側に生えている「這松」付近に動く物体を発見。
はっきりと見えているわけではないが、おそらくあの動く物体が雷鳥だろう。
カメラを出し、ズームで確認した。
「また会えたね♪」
思わずにんまりとしてしまった。
そして雷鳥が逃げないようにゆっくりとルートを進んだのだが、この時覚えていることは雷鳥を見ながら進んだこと。
つまりはルート上を見ていなかったということになる。
「あっ!」と思った時、すでに右足はルートから外れ、体は右側の斜面に大きく傾いてしまっていた。
ストックを突いたのだが、雪面に深く刺さるのみで体の傾きを支えることはできなかった。
たぶん右肩あたりからだったと思う。
雪の斜面に突っ込み一回転くらいしたような気がする。
「落ちる! 俺、滑落するのか・・・」
一瞬そう思ったのだが、幸いに転げ落ちることはなく、むしろ雪の中に埋もれるようにして止まってくれた。
一面雪で真っ白な世界で、頭の中も真っ白(笑)。
「大丈夫! 俺は止まっている。」
先ずは落ち着こう。
そしてどうやってルートに戻るかを考えよう。
とりあえず深呼吸をし、冷静に周囲を見渡した。
あまり体を動かしてしまうと更に落ちてしまうことや深く埋もれてしまうことが怖かったからだ。

上を見上げると、ルートまでの距離はほんの5~6メートルだった。
「これなら何とか・・・」と安心したのだが、その時左指に激痛が走った。
おそらくは体が右に傾いた時に、無理矢理岩をつかもうとしたが、つかみ損ない指をひねったのではないだろうか。(あくまでも推測・・・はっきりと覚えていない)

ストックは何とか手の届く距離にあった。
ゆっくりと腕を伸ばしストックを握る。
そしてこれまたゆっくりと、スローモーションのように体の向きを変え、雪をひとかきずつしながら登り始めた。
5~6メートルの距離を10分くらいかけたかなぁ・・・。
あまり覚えてはいないのだが、とくかく「ゆっくりと」だけを心がけ、あがいてこれ以上雪に埋もれないようにした。
また、自分の作った雪面の乱れがきっかけで、もし雪崩が・・・。
まさかとは思ったがそれも怖かった。

やっとルートに戻ることができたのだが、「わき見運転事故のもと」とは、なにも車の運転だけではないことを思い知らされた。(反省)

ガスは一向に晴れることはなく、相変わらず視界不良状態が続いている。
さっき雪に埋もれた時に、耳の中に雪が入り込んでしまい冷たい。
指で掻き出したがまだ残っているのがわかる。
まぁこのまま耳の中で凍ってしまうこともあるまい。


濃いガスのせいもあり、周囲の状況(風景)が見えない。
せめて見覚えのある風景が確認できれば心強いのだが・・・。
トレースがはっきりしていてくれることだけがありがたかった。
高度計による現在地の標高、そしてトレースの進行方向とコンパスを合わせてみる。
地図で凡その位置を確認しながら下山を進めた。


次第にではあったが、視界が利くようになってきた。
稜線の先が目視できる。
思わずバンザイだ(笑)。


遂に青空がのぞき始めた。
「このままこのまま♪ 頼むよ!」
決して軽い気持ちではなく、祈るような思いだ。

もうすぐ「丸山ケルン」が見えてくるはず。
早くそこまでたどり着きたい。