「敵性語って、聞いたことがない言葉じゃけど、何じゃろ?」
「自分の国と敵対しとる国や戦争をしとる国、つまり敵の国で使われとる言葉のことじゃの。太平洋戦争中、日本では交戦国のアメリカやイギリスで使われとる英語を「敵性」として、英語を排斥する運動が行われたんじゃ」
「「鬼畜米英(きちくべいえい)」という言葉があった時代じゃね」
「昨年末、大和ミュージアムに行ったとき、映画『山本五十六』の撮影で使われた品物が展示してあって、そこにタバコも展示してあったんよ」
映画『山本五十六』劇中使用品
左からCHERRY、櫻、金鵄
(撮影日:2011年12月18日)
「CHERRY(チェリー)、櫻(桜)…。ん? 「CHERRY」って「櫻」のことじゃないかいね?」
「ほうなんよ。「CHERRY」というタバコが「櫻」という名前に変えられたんじゃ」
「敵性語ということで、英語から日本語に置き換えられたんじゃね。この、「金なんちゃら」というタバコは?」
「「金鵄(きんし)」は「ゴールデンバット」という名前のタバコじゃったんよ。「バット(BAT)」は「コウモリ」じゃけぇ「黄金コウモリ」か「黄金バット」になるはずなんじゃが、神武天皇(じんむてんのう)の神話にちなんだ「金鵄」に名前を変えられたんじゃ」
「むかしアニメで『黄金バット』というのがあったよね?」
「わしゃ、そのむかし、アニメ版(1967年~1968年)のレコードを持っとったがのう。ちなみに『黄金バット』は、戦前から戦後にかけて紙芝居のヒーローじゃったんよ」
「コウモリさん、助けて…」
「映画の中では画面にタバコがチラッと映ったんじゃが、敵性語に関してどうこうという話はなかったの」
昭和十六年になると巷(ちまた)では、各方面で日本精神強調による戦時体制化が徹底されていきます。やがて戦うことになるかもしれない対米英戦争のための準備でした。
(略)
また、文部省が阿呆(あほ)らしくも「ドレミファソラシド」を「ハニホヘトイロ」に改めたのが四月一日のことでした。
(半藤一利『聯合艦隊司令長官 山本五十六』文藝春秋 2011年)
「あぁ、「ハニホヘト」が出てきたのはこの時代じゃったんじゃね」
「わしゃ、音楽に疎(うと)いけぇ聞いてみるんじゃが、「イロハ」じゃのうて、「ハニホヘト」という順番に並んどるということは、日本の「イ」は、ドレミの「ラ」にあたるということなんかの?」
「ほうじゃね。書いて説明してみようか」
イタリア式 : Do、Re、Mi、Fa、Sol、La、Si、Do
日 本 式 : ハ、 ニ、 ホ、 ヘ、 ト、 イ、 ロ、 ハ
アメリカ式 : C、 D、 E、 F、 G、 A、 B、 C
「ドレミはもともとイタリア語で、「ド(Do)」が基準の音になるんよ。日本とアメリカでは「ラ」の音が基準になるんよね」
「「ヘ長調」とか「イ短調」とかいうのは、この「ハニホヘト」からきとるんか?」
「ほうなんよ。例えば、「ハ長調」の「ハ」は日本式の「ハ」じゃけぇ、イタリア式で「ド(Do)」、アメリカ式で「C」になるわけ。つまり、「ハ長調」と「ド長調」と「C長調」は同じ、ということになるんよ」
「ほぉ…。勉強になるのう」
「うちも、たまにゃ役に立つじゃろ。ところで、ほかにどんな敵性語があったんかね?」
「音楽でいうと、「ピアノ」が「洋琴(ようきん)」」
「西洋の琴か。これは分かりやすいね」
「「トロンボーン」が「抜き差し曲がり金真鍮喇叭(ぬきさしまがりがねしんちゅうらっぱ)」」
「「抜き差し」とか「曲がり金」とか、苦労の跡がしのばれるね」
「あとは、「コントラバス」が「妖怪的四弦(ようかいてきよんげん)」
「なんで「妖怪」なんじゃろ?」
「以下、わしが面白そうじゃと思うた敵性語を列記しときます」
あきれたぼういず(ボーイズグループ) → 新興快速舞隊(しんこうかいそくぶたい)
アナウンサー → 放送員(ほうそういん)
カレーライス → 辛味入汁掛飯(からみいりしるかけめし)
キャラメル → 軍粮精(ぐんろうせい)
クロール → 速泳(そくえい)
ゴルフ → 芝球(しきゅう)
コロッケ → 油揚げ肉饅頭(あぶらあげにくまんじゅう)
サイダー → 噴出水(ふんしゅっすい)
サッカー → 蹴球(しゅうきゅう)
ディック・ミネ(歌手) → 三根耕一(みね こういち)
パールハーバー → 真珠湾(しんじゅわん)
フライ → 洋天(ようてん)
(野球の)アウト → ひけ 倒退
(野球の)ストライク → よし 本球
(野球の)セーフ → 占塁
(野球の)ボール → だめ 外球
「NHKドラマ『坂の上の雲』でも出てきたけど、野球の用語は正岡子規(まさおか しき)らが翻訳しよったね」
「「ベースボール」を、自分の名前(升(のぼる))にひっかけて「野球(のぼーる)」と訳したという話は面白かったのう」
「漢字で、投手、打者、走者、遊撃手…。今でも使われとる言葉が多いもんね」
「野球は敵国・アメリカの事実上の国技じゃったけぇ、野球自体の排斥運動も起こったんよ。プロ野球は1944(昭和19)年の秋から翌1945(昭和20)年まで中止されたんじゃ」
「そういや、高校野球も中止されとったんよね」
「春のセンバツは1942(昭和17)年から戦後の1946(昭和21)年まで、夏の甲子園は1941(昭和16)年から年から1945(昭和20)まで中止されとったんじゃ」
↓敵性語については、こちら↓
「敵性語」ウィキペディア
↓大和ミュージアムについての関連記事は、こちら↓
映画『聯合艦隊司令長官 山本五十六』
特殊潜航艇 甲標的甲型
夕日に眠る 戦艦大和
「今日は、敵性語について話をさせてもらいました」
「ほいじゃあ、またの」
「自分の国と敵対しとる国や戦争をしとる国、つまり敵の国で使われとる言葉のことじゃの。太平洋戦争中、日本では交戦国のアメリカやイギリスで使われとる英語を「敵性」として、英語を排斥する運動が行われたんじゃ」
「「鬼畜米英(きちくべいえい)」という言葉があった時代じゃね」
「昨年末、大和ミュージアムに行ったとき、映画『山本五十六』の撮影で使われた品物が展示してあって、そこにタバコも展示してあったんよ」
映画『山本五十六』劇中使用品
左からCHERRY、櫻、金鵄
(撮影日:2011年12月18日)
「CHERRY(チェリー)、櫻(桜)…。ん? 「CHERRY」って「櫻」のことじゃないかいね?」
「ほうなんよ。「CHERRY」というタバコが「櫻」という名前に変えられたんじゃ」
「敵性語ということで、英語から日本語に置き換えられたんじゃね。この、「金なんちゃら」というタバコは?」
「「金鵄(きんし)」は「ゴールデンバット」という名前のタバコじゃったんよ。「バット(BAT)」は「コウモリ」じゃけぇ「黄金コウモリ」か「黄金バット」になるはずなんじゃが、神武天皇(じんむてんのう)の神話にちなんだ「金鵄」に名前を変えられたんじゃ」
「むかしアニメで『黄金バット』というのがあったよね?」
「わしゃ、そのむかし、アニメ版(1967年~1968年)のレコードを持っとったがのう。ちなみに『黄金バット』は、戦前から戦後にかけて紙芝居のヒーローじゃったんよ」
「コウモリさん、助けて…」
「映画の中では画面にタバコがチラッと映ったんじゃが、敵性語に関してどうこうという話はなかったの」
昭和十六年になると巷(ちまた)では、各方面で日本精神強調による戦時体制化が徹底されていきます。やがて戦うことになるかもしれない対米英戦争のための準備でした。
(略)
また、文部省が阿呆(あほ)らしくも「ドレミファソラシド」を「ハニホヘトイロ」に改めたのが四月一日のことでした。
(半藤一利『聯合艦隊司令長官 山本五十六』文藝春秋 2011年)
「あぁ、「ハニホヘト」が出てきたのはこの時代じゃったんじゃね」
「わしゃ、音楽に疎(うと)いけぇ聞いてみるんじゃが、「イロハ」じゃのうて、「ハニホヘト」という順番に並んどるということは、日本の「イ」は、ドレミの「ラ」にあたるということなんかの?」
「ほうじゃね。書いて説明してみようか」
イタリア式 : Do、Re、Mi、Fa、Sol、La、Si、Do
日 本 式 : ハ、 ニ、 ホ、 ヘ、 ト、 イ、 ロ、 ハ
アメリカ式 : C、 D、 E、 F、 G、 A、 B、 C
「ドレミはもともとイタリア語で、「ド(Do)」が基準の音になるんよ。日本とアメリカでは「ラ」の音が基準になるんよね」
「「ヘ長調」とか「イ短調」とかいうのは、この「ハニホヘト」からきとるんか?」
「ほうなんよ。例えば、「ハ長調」の「ハ」は日本式の「ハ」じゃけぇ、イタリア式で「ド(Do)」、アメリカ式で「C」になるわけ。つまり、「ハ長調」と「ド長調」と「C長調」は同じ、ということになるんよ」
「ほぉ…。勉強になるのう」
「うちも、たまにゃ役に立つじゃろ。ところで、ほかにどんな敵性語があったんかね?」
「音楽でいうと、「ピアノ」が「洋琴(ようきん)」」
「西洋の琴か。これは分かりやすいね」
「「トロンボーン」が「抜き差し曲がり金真鍮喇叭(ぬきさしまがりがねしんちゅうらっぱ)」」
「「抜き差し」とか「曲がり金」とか、苦労の跡がしのばれるね」
「あとは、「コントラバス」が「妖怪的四弦(ようかいてきよんげん)」
「なんで「妖怪」なんじゃろ?」
「以下、わしが面白そうじゃと思うた敵性語を列記しときます」
あきれたぼういず(ボーイズグループ) → 新興快速舞隊(しんこうかいそくぶたい)
アナウンサー → 放送員(ほうそういん)
カレーライス → 辛味入汁掛飯(からみいりしるかけめし)
キャラメル → 軍粮精(ぐんろうせい)
クロール → 速泳(そくえい)
ゴルフ → 芝球(しきゅう)
コロッケ → 油揚げ肉饅頭(あぶらあげにくまんじゅう)
サイダー → 噴出水(ふんしゅっすい)
サッカー → 蹴球(しゅうきゅう)
ディック・ミネ(歌手) → 三根耕一(みね こういち)
パールハーバー → 真珠湾(しんじゅわん)
フライ → 洋天(ようてん)
(野球の)アウト → ひけ 倒退
(野球の)ストライク → よし 本球
(野球の)セーフ → 占塁
(野球の)ボール → だめ 外球
「NHKドラマ『坂の上の雲』でも出てきたけど、野球の用語は正岡子規(まさおか しき)らが翻訳しよったね」
「「ベースボール」を、自分の名前(升(のぼる))にひっかけて「野球(のぼーる)」と訳したという話は面白かったのう」
「漢字で、投手、打者、走者、遊撃手…。今でも使われとる言葉が多いもんね」
「野球は敵国・アメリカの事実上の国技じゃったけぇ、野球自体の排斥運動も起こったんよ。プロ野球は1944(昭和19)年の秋から翌1945(昭和20)年まで中止されたんじゃ」
「そういや、高校野球も中止されとったんよね」
「春のセンバツは1942(昭和17)年から戦後の1946(昭和21)年まで、夏の甲子園は1941(昭和16)年から年から1945(昭和20)まで中止されとったんじゃ」
↓敵性語については、こちら↓
「敵性語」ウィキペディア
↓大和ミュージアムについての関連記事は、こちら↓
映画『聯合艦隊司令長官 山本五十六』
特殊潜航艇 甲標的甲型
夕日に眠る 戦艦大和
「今日は、敵性語について話をさせてもらいました」
「ほいじゃあ、またの」
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