マニラ湾の夕陽
南国での4日間は慌しく終わり、昨夜12時雪の信州に帰還した。
歯科、内科、眼科の医師、看護師、薬剤師で構成される医療奉仕団が、二日をかけて4か所を巡回し、6千数百人の治療にあたる。
当初掲げた医療困窮者を救うという本来の目的は薄れた様に思えた。
患者のほとんどは私が見た限り健常者に近い人達である。
短時間の通訳を介した問診で、内科は内用薬を処方され投薬を受ける、眼科は点眼薬と老眼鏡を貰い最後にタオルを渡され嬉々として帰る。
歯科はひたすら抜歯する、乱暴な様だがそれ以外の治療方をここでは実施不可能である、 歯科衛生士さんが熱心に正しい歯磨きを教えるのだけれど、はたして何人が実行できるのだろう。
私は眼科を担当した、役目は診療碌(カルテ)の回収である。
患者さんは受付を済ませ、診断を受け、点眼薬、老眼鏡、タオルを順番に受取り、最後に私のところでカルテを置いてゆく。
帰り際 一様に握手を求め、たどたどしい日本語で「アリガト」「サンキュー」と礼を言って帰って行った
しかし 信じたくないのだが、患者さんは受け取った援助物資のいくつかをお金に変えることもあるという。
多分それは事実だろう。
土産を買いにマーケットに行った折り、我々に執拗にまとわりつく中年の男がいた。
広いマーケットは迷路の様相で迷いやすい「私が案内しますからついてきて下さい」と誘う。
前回この手の甘言に乗って、法外なガイド料を捲き上げられたことがあったから断った。
とたん男は豹変し、半袖のポロシャツをまくり上げ肩口の刺青をちらつかせた。
「俺はこのマーケットのチンピラだ、そこにいる3人は俺の手下だ」いつの間にか仲間が我々を取り囲んだ。
いたるところでガードマンが目を光らせている白昼である、「集合の時間だから」とかまわずと歩き始めると、意味のわからない言葉を発して三人は後を付いて来た。
ところが、通路を隔てたデパート(シューマート)のガラスドアを押して入ると、彼らはあっさり退散していった。
巣を張ってチャンスをひたすら待つ蜘蛛のような彼らにとって我々は格好の獲物に見えたのだろう。
フィリッピンに入国した時、比国通貨ペソに交換したけれど余ってしまった、円への再交換が原則としてできない、ペソ消化の意味もあった買い物である。
あの時、彼らの親切を受け、妥当な対価を払った方が良かったのかもしれない。
彼らは働きたくとも仕事が無いのだという。 「俺はここのチンピラだ」と肩の刺青をちらつかせて凄む彼らも本当は善人なのだろう。