屯田物語

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雪の山を歩く

2020年03月03日 | 春を呼ぶ朝


大村正次著「春を呼ぶ朝」―故郷の電車―

 雪の山を歩く

どこまでも僕達を靡くのは
足跡一つなお清浄な山の雲、
なだらかな純白のスロープ、
行手の空を割り
雪また雪の圓らかな孤線、
そしてこゝかしこ頭をもたげ
緑の顔を覗かせる松のむれ
 
ふゆ、溌剌のスキー場を
一山越えた山ひだの 何といふ静寂しづけさだ。
友よ 耳を澄ませ かすかに響くもの
眼には見えこず響くもの、
おゝ谷底だ。
雪の下ゆく瀬の音だ。
そして この雪原の裾を消し
直下ました濃青あおい淵ののぞいてゐる厳粛おそろし
かすかなものは その川上から來るのだ。

友よ この
浮世の外の世界に腰を下さう
息の根がとまつたやうに。
しらじらに仄くは
静寂しずかさに身ぶるひする樹々の
ふりこぼす粉雪である。