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「無縁坂」に文京区教委が設置した案内板や、あちこちのサイト、ブログでは、この坂は、文豪森鴎外「雁」で、主人公・岡田の散歩コースであったために有名である-という説明がなされています。
しかし、散歩の道順だったというぐらいでそんなに知名度が上がるでしょうか。
疑問を抱いた筆者は、むかし読んだ「雁」を書棚に探しましたが、見あたらなかったので、市立小樽文学館の古本コーナーで日焼けした岩波文庫を買いもとめ、再読しました。
その頃から無縁坂の南側は岩崎の邸(やしき)であつたが、まだ今のような巍々(ぎぎ)たる土塀で囲つてはなかつた。
土塀というよりは、石垣のようですが・・・。
ともあれ、この坂の上に、主人公の岡田と、小説の語り手である「僕」の下宿があったのです。
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坂の北側はけちな家が軒を並べてゐて、一番体裁の好いのが、板塀を繞(めぐ)らした、小さいしもた屋、その外は手職をする男なんぞの住ひであつた。店は荒物屋に烟草(たばこ)屋位しかなかつた。中に往来の人の目に附くのは、裁縫を教へてゐる女の家で、昼間は格子窓の内に大勢の娘が集まつて為事(しごと)をしてゐた。(中略)その隣に一軒格子戸を綺麗に拭き入れて、上がり口の叩きに、御影石を塗り込んだ上へ、折々夕方に通つて見ると、打水のしてある家があつた。(中略)そして為事物(したてもの)師の家の賑やかな為めに、此家はいつも際立つてひつそりとしてゐるやうに思はれた。
この家こそ、悲劇のヒロイン「お玉」が、高利貸しの末吉に囲われて(=「妾」となって)ひっそりと住んでいた家だったのです。
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だから「散歩コース」というのは間違いではないにせよ、この坂を岡田が行き来するうちに、お玉と顔見知りになり…という筋書きなのですから、「雁」は、この坂なしでは成立しない小説なのです。
お玉の家は、作中「無縁坂の家」とよばれています。
「雁」には、ほかにもいろいろな東京の地名が出てきますが、無縁坂は、単なる散歩の道順ではなく、まさに「雁」の舞台なのです。
「雁」は薄い本で、読み終わるのに2時間かかりません。
値段も安く、文庫本で300円ほどです。
その程度の手間を惜しんでつづられたブログの多いことに、あらためて驚きました。そして、なんでもかんでも安直にコピペで済まさぬよう自戒したいと思いました(もちろん、ちゃんと小説を読んで書かれたサイトもありますが)。
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「雁」は、運命の残酷さを、簡潔な筆致で見事に描いています。
だからこそ、さだまさしは歌の舞台に選んだのかもしれません。
(なお、この曲は元々さだまさしのレコードではなくて、「グレープ」の曲として発売されました)
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無縁坂を上り詰めたところに、東京大学の鉄門があります。
ここをくぐると医学部はすぐです。
岡田や「僕」は学校にずいぶん近いところに下宿していたのですね。
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キャンパスの中は古い建物が多く、散歩していて気分が落ち着きます。とても良い風情です。
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本郷かいわい。
もうすこし散歩したかったです。
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薄暮の不忍池。
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ここで夕食を取りました。
上野公園の中といってもよいロケーションにあり、日本で最も古い洋食店のひとつだと思います。
「雁」是非読んでみます。
大人の文学だと思います。
森鴎外は、断念とか失意を知っている面で、大人なのだと思うのです。