goo blog サービス終了のお知らせ 

北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

木田金次郎 山ハ空ヘモレアガル

2007年04月18日 20時57分32秒 | つれづれ読書録
 木田の地元、後志管内岩内町で塾講師を務める斉藤武一さんによる、画家・木田金次郎の評伝。
 小説仕立てなのだが、「いかにも想像力をたくましくしました」的な、つくりものくさい部分はほとんどない。
 やはり斉藤さんが、相当以前からたくさんの資料を渉猟してたしかな伝記を抜粋した上で、木田への敬愛をこめて筆を進めたためだろう。
 ところで、木田金次郎といえば、近代日本文学屈指の小説家有島武郎が、代表作「生れ出づる悩み」でモデルとして登場させたことで知られる。木田は、有島を終生敬愛していたので、彼の「地元にいたほうが良い」という支持にすなおにしたがったとばかり思っていた。
 でも、そんなかんたんな話ではなかったのだなあ。
 若き日の木田だって、やっぱり上京して絵をやりたかったのだ。
 しかし、そこをじっとこらえて、絵筆を執り続け、やっと晩年になって、みとめる人が出てきたのだ。
 そこらへんの、木田の長年にわたる辛抱の様子が、よく描かれている本だと思う。

 もうひとつ感服したのは、木田をはじめとする岩内の青年たちの、有島に寄せる思いの一途さである。
 講演で「有島は軟弱である」とぶった中野正剛に対し、木田は「質問アリ」と立ちはだかり、さらには帰路の中野と議論して、ついに黒松内まで話し込んだというからすごい。

 晩年に大火で自作の大半を失うくだりは読んでいてつらいものがあるが、木田の理解者たちが猛火から体を張って作品を守ろうとする描写には感動した。
 もちろん、岩内には木田の生き方に賛同していた者ばかりがいたわけではないだろう(この本でも、示唆されている)。しかし、その一途すぎるほどの生き方に、深い共感を抱いていた人たちも、確実にいたことがわかる。
 斉藤さんも含め、そういう人たちの精神のあり方が、岩内の文化のバックボーンとなって今に至っているといったら、言いすぎであろうか。


北海道新聞社 1575円


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。