
石狩市厚田にアトリエのある金属工芸家、望月建さんの個展。
「貸し館」という位置づけであるが、本郷新記念札幌彫刻美術館は誰にでもやみくもに会場を貸すわけではなく、作品の水準を考慮しているはずである。筆者は、以前から、道展で見る望月さんの作品がわりと好きだったので、今回の個展はうれしいことだった。
では、どこがいいのかと言われると、「シンプル」であること、だと思う。
シンプルであるには、勇気がいる。
ものを作る人は、ほかのだれかの作風に似てしまうことを恐れて、つい作品を複雑にしてしまう。
その気持ちはよくわかるのだが、史上「良い」とされる作品は、思い切ってシンプルな範囲で筆や手を止めたものが多い。安田侃、熊谷守一。デザインでいえば、ユニクロも、それで成功したといえるだろう(近年はそうでもないが)。
望月さんの初期作も、北方の叙情をたたえていて、なかなか良いのであるが、近年は、フォルムから一切の無駄がそぎ落とされ、ほんとうにシンプルで美しい形状になっていると思う。
このシンプルさは、見る人の想像力を刺戟する。
たとえば、欠けた輪は、残りの部分を見る人が頭の中で補うのである。
弧状のかたちをいくつか束ねた作品も同様である。いずれも「環」と題されている通り、この弧は、大きな輪の一部なのであろう。そう思うと、急に作品がスケールアップする。最初から完全で巨大な作品を提示するよりもむしろ、作品の潜在的な巨大さを見る側に思わせているようだ。
形状はシンプルだが、表面は、錆びと緑青が独特の凹凸を作り出し、深い味わいをたたえる。
わざと屋外に銅板を放置するなど、いろいろ工夫を凝らしているようだ。
いま銅板と書いたが、望月さんの作品はすべて板を張り合わせたものである。重厚な存在感から、鋳造作品だと思われそうだが、いずれも内部は中空になっている。しかし、その事実は、望月さんの作品の価値をいささかも損なうものではないだろう。
ところで、展覧会を機にまとめられた作品写真集を拝見して、オホーツク管内遠軽町の太陽の丘公園、苫小牧市のホテルニュー王子、留萌管内羽幌町のサンセットホテル、網走市の道立北方民族博物館、札幌市北区の麻生総合センターなどに、パブリックコレクションがあることを知った。遠軽、苫小牧、網走の各会場についてはかつて行ったことがあるだけに、自らの注意力不足が惜しまれてならない。
また、年譜を見ると、1985年に「札幌豊平河畔野外展」とある。楢原武正さんが黒いインスタレーションを設置し、シアターキノの中島洋さんが廃棄テレビモニターを積み上げ、当時は北海道に拠点を置いていた舞踏家の田中泯が川の流れの中でパフォーマンスを行ったという、今となっては伝説の催しに参加していたというのは、興味深かった。
2014年5月14日(水)~25日(日)午前10時~午後5時(最終日~3時)=入場30分前まで
本郷新記念札幌彫刻美術館(中央区宮の森2の14)
「貸し館」という位置づけであるが、本郷新記念札幌彫刻美術館は誰にでもやみくもに会場を貸すわけではなく、作品の水準を考慮しているはずである。筆者は、以前から、道展で見る望月さんの作品がわりと好きだったので、今回の個展はうれしいことだった。
では、どこがいいのかと言われると、「シンプル」であること、だと思う。
シンプルであるには、勇気がいる。
ものを作る人は、ほかのだれかの作風に似てしまうことを恐れて、つい作品を複雑にしてしまう。
その気持ちはよくわかるのだが、史上「良い」とされる作品は、思い切ってシンプルな範囲で筆や手を止めたものが多い。安田侃、熊谷守一。デザインでいえば、ユニクロも、それで成功したといえるだろう(近年はそうでもないが)。
望月さんの初期作も、北方の叙情をたたえていて、なかなか良いのであるが、近年は、フォルムから一切の無駄がそぎ落とされ、ほんとうにシンプルで美しい形状になっていると思う。
このシンプルさは、見る人の想像力を刺戟する。
たとえば、欠けた輪は、残りの部分を見る人が頭の中で補うのである。
弧状のかたちをいくつか束ねた作品も同様である。いずれも「環」と題されている通り、この弧は、大きな輪の一部なのであろう。そう思うと、急に作品がスケールアップする。最初から完全で巨大な作品を提示するよりもむしろ、作品の潜在的な巨大さを見る側に思わせているようだ。
形状はシンプルだが、表面は、錆びと緑青が独特の凹凸を作り出し、深い味わいをたたえる。
わざと屋外に銅板を放置するなど、いろいろ工夫を凝らしているようだ。
いま銅板と書いたが、望月さんの作品はすべて板を張り合わせたものである。重厚な存在感から、鋳造作品だと思われそうだが、いずれも内部は中空になっている。しかし、その事実は、望月さんの作品の価値をいささかも損なうものではないだろう。
ところで、展覧会を機にまとめられた作品写真集を拝見して、オホーツク管内遠軽町の太陽の丘公園、苫小牧市のホテルニュー王子、留萌管内羽幌町のサンセットホテル、網走市の道立北方民族博物館、札幌市北区の麻生総合センターなどに、パブリックコレクションがあることを知った。遠軽、苫小牧、網走の各会場についてはかつて行ったことがあるだけに、自らの注意力不足が惜しまれてならない。
また、年譜を見ると、1985年に「札幌豊平河畔野外展」とある。楢原武正さんが黒いインスタレーションを設置し、シアターキノの中島洋さんが廃棄テレビモニターを積み上げ、当時は北海道に拠点を置いていた舞踏家の田中泯が川の流れの中でパフォーマンスを行ったという、今となっては伝説の催しに参加していたというのは、興味深かった。
2014年5月14日(水)~25日(日)午前10時~午後5時(最終日~3時)=入場30分前まで
本郷新記念札幌彫刻美術館(中央区宮の森2の14)