この10年間ほど、一ヵ所に定住することなく、方々の国を移住しながら写真を撮ってきた。どこの土地を訪ねても、そこでの日常生活があり、それは当たり前のことだけど、ちょっと訪れた自分のような外国人が見て面白がるためにあるのではないと思うようになった。
写真展タイトル「人はその河を二度渡らない。」は「たとえ今日渡った河が昨日と同じ河だとしても、水の流れは昨日と同じではないし、渡った人間も昨日のその人自身ではない」という意味の英語のことわざからアイデアを得たもので「世の中のものはすべて変化する」という教訓である。
そう思いながら旅をし、街を歩くと、目に映るものすべてが尊く、また無常にも思える。だから、そっと静かにそのままの形で残したくなる。ありふれているが再び目にすることのないこの光景を、しっかりと丁寧に記録したいと強く思い、撮影した。
会場の入り口にあった文章である。
筆者ごときがこれに付け加えることは、ほとんど何もないようにおもわれる。そんな、完成度の高い写真展だった。
カラーフィルムで撮影され正方形にプリントされた46点が、細心の注意を払って排列され、1点ごとに撮影地のみが付記されている。
India
Laos
Nepal
Thailand…
どの作品も、やや黄緑がかった白っぽい色調に統一され、また、4点ずつ排列された作品は、ふしぎとイメージが隣り合うように計算されている。(ほとんどが曇天に撮影されている)
プロの技術の高さを無言のうちに物語っているようだ。
「広田泉の携帯撮影日記」には
ネガフィルムで撮影したものを暗部を持ち上げ明部をおさえフラットな味に仕上げています。
それでいて硬調な線使い。
これを見事に同居させている写真は初めて見ましたがとても新鮮です。
とある。なるほど。
染めた布を干している人たちがいて、遺跡のようなところで映画か何かの撮影をしている人たちがいる。
夜の都会があり、聖地として知られる川で沐浴する人たちがいる。
木であたらしい家を建てている人がいて、水辺にたたずむ人がいる。
狭い街路に殺到するバイクがある。
共通しているのは、一歩引いたような作者の視線の位置だ。
それは、とても現代的な位置のように思われる。
これらの撮影地から思い出したのは、たとえば藤原新也「全東洋街道」である。
あの写真群が、濃厚に作者自身を映し出した、或る意味できわめて主観性の強いものだったのに対し、札幌出身だという村井さんの写真は、似たような国々を放浪しているにもかかわらず、非常に淡々としている。
いわば、目の前にあるものから、一歩引いたスタンスなのだ。
といって、人間以外の、たとえば風景に興味があるというのでもないようだ。
ときどきのぞいているブログ「スノーマンズ・ライフ北海道」に、
「人は好きなのに、人間関係を築くことが苦手なんだろう」
みたいな一節があったけど、あるいは、そうなのかもしれない。
この写真展では、どこにでも人がいて、それぞれの「生」を営んでいるという、文字にすれば当たり前だけど、とてもたいせつな事実が、押し付けがましくないかたちで、提示されているのだ。
ところで、こんなに紹介が遅れてしまって、恐縮の限りだが、この写真展については、是が非でも会期中に見て、早めに紹介すべきであったと、悔やまれる。
で、あらためて感じたのは、センスのいいDMの展覧会は、実際に見に行っても良い展覧会であることが多いということだ。
もちろん、かっこいいDMのわりには、ぱっとしない展覧会というのもあるけれど、この写真展について言えば、DMの良さを反映していたと思う。
07年4月10日(火)-15日(日)10:00-19:00(火曜は12:00-、最終日は-17:00)
札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階 地図G)
センスのいいDMは捨てられないですよね。
だからもしかしたら作家の方の、この展覧会を見て欲しいって気持ちが伝わるのかもしれません。
そういうDMを製作している人の作品は、確かに何か色んなことを訴えかけてきているような気がします。
DMの良し悪しというのは、けっこう展覧会を見に行くか行くまいか決めるのに参考になりそうな気がします。
なお、小生は、センスの良し悪しにかぎらず、DMは一枚も捨てられません。
たいへんこまった事態になっております。
僕の場合は大量にいただいてきて、大学に置いたり、人に配ったりするので
会期が終わった時に研究室の前にあまっているDMがどうも後ろ髪を引かれる思いで。。。
自分の分は全てファイルに保管してるのですが。
確かにどうにかならないかといつも頭を悩ませる問題です。