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■中村善策と小樽・風景画の系譜 (2018年10月27日~19年2月24日、小樽)

2019年02月23日 09時29分44秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
承前

 ことし1月9日に小樽を訪れた際の記録をこれまで「小樽散歩」という6回のシリーズで書いてきたが、最後に足を運んだ市立小樽美術館のことを書いていないので、ここに簡単に記しておこう。

 同美術館は、派手さはないがしっかりした調査と収集により、地元ゆかりの美術家に焦点を当てた好企画の展覧会をよく開いている。
 なかでも中村善策(1901~83)は、小樽出身の画家でも代表格というべき存在で、これまでも折にふれて展覧会を開いてきている。
 今回は、1階には中村善策の、2階には彼と、彼の薫陶を受けた小樽の風景画家たちの絵を展示している。

 1階は中村善策記念ホールで、彼の所蔵品をふだんから展示しているのだが、ここを見ない人がいるとしたらもったいない。
 半年おきぐらいのペースで展示替えをしているからだ。
 筆者は同館に行くと、時間がよっぽど無いとき以外はのぞくようにしているが、そのたびに
「あ、これ初めて見る」
という絵がある(ちなみに、三岸好太郎美術館は来訪30回を超えて、さすがにそのようなことはほとんど無くなってきた)。
 今回も、あらたに寄託・寄贈された作品があった。
 1934年(昭和9年)作で、第21回二科展に出品された「海港夕景」(130.3×162.1センチ)、81年の「小樽の祝津港」(97.0×145.5センチ)など4点で、いずれも売り絵の小品などではない、力作だ。

 ちなみに、昨年10月10日の北海道新聞の小樽・後志版に、善策のパトロンについての興味深い記事が載っていたので、一部を転載しておこう。


 小樽を代表する風景画家、中村善策(1901~83年)の人物画2点が、石川県加賀市橋立町の北前船主家、西谷家の5代目・庄八(1860~1933年)の子孫から市立小樽美術館に託された。作品は地域の文化芸術に寄与した西谷家への善策の恩義を映している。

(中略)

 人物画は西谷庄八の妻、和喜わき像と、6代目・西谷正治の妻、貞子像の2点。北海道北前船調査会を主宰する土屋周三さん(元・小樽市総合博物館館長)と小樽商科大の高野宏康研究員が7月に旧西谷家を訪ね、小樽に関する1万点以上の資料から発見した。土屋さんは「地域の文化・教育のために財産を投じた明治、大正の商人の気骨が西谷庄八にもあり、善策を支えた。恩義を感じて描いたものだろう」と推察する。

 庄八は北前船交易で財を成し、1887年(明治20年)に小樽に進出し回漕かいそう店を開業。95年(同28年)に倉庫会社「小樽倉庫」を創設し、1922年(大正11年)に海運会社「西谷海運」を小樽に設立した。

 善策は15歳で同社に入社。働きながら小樽洋画研究所に通い絵画を勉強をした。庄八と息子の正治は善策が画家を志し23歳で上京する直前の半年間、地獄坂近くの山荘をあてがい絵に専念させ、27歳で結婚した時の新居も手配するなど手厚く支援した。
(以下略)


 コーナー展示「北前船主 西谷家と中村善策」には、ここにある「五代目西谷庄八の妻西谷和喜像」と「六代目西谷正治の妻西谷貞子像」をはじめ、同家が旧蔵していた中野五一のブロンズ像「三猿」、工藤三郎の絵画「神威岬」、善策の西谷庄八、正治宛書簡などが並び、自分の立身を支えてくれた西谷家に対する善策の謝意が伝わってくる。

 ちなみに、樺太との交易などで小樽を拠点に財をなした西谷家だが、戦後は引き払い、石川県の能登半島に移っている。

 さて、2階「描かれた小樽」は、石塚常男、伊藤正、冨澤謙、小川清、小竹義夫、金丸直衛の6氏の風景画が展示されている。
 いずれも、かつての小樽運河や小樽港を含め、地元ならではの目線でとらえたすてきな風景画だ(一部、パリが題材の絵もあるが)。

 冨澤の「北の集落」は、海に向かって下っていく道の左右に、まばらに家のある一帯を描いた作品。遠くに「小野田セメント」があるので、見る人が見れば場所が分かるだろう。
 さびた青や赤のトタン屋根、煙突の煙などが、北国のマチらしさを醸し出す。家々は、ほとんどが片流れ屋根の同じような構造で、あるいは社宅か何かなのだろうか。

  小川清「勝納川暮色」は、小樽で最も大きな川である勝納かつない川にかかる函館本線の鉄橋を描いた絵で、遠くに池田バンビの看板が見えるのがなつかしい。
 ♪池田バンビのピーナツロール、のCMソングやキャラメルでおなじみだった池田製菓は、川沿いに古く大きな工場があったが、2006年に経営不振で操業を停止し、07年に取り壊された。


 以上で、小樽への冬の旅はおしまい。

 また行きたいな~と思っているうちに、春になりそうだ。


2018年10月27日(土)~2019年2月24日(日)午前9時半~午後5時(入館30分前)
毎週月曜休み(祝日や振替休日は開館し、翌火曜と水曜休み。11月6日と27日、12月29日~1月3日も休み)
市立小樽美術館(色内1)



・JR小樽駅から約710メートル、徒歩9分

・中央バス、ジェイアール北海道バスの都市間高速バス「高速おたる号」「高速ニセコ号」「高速いわない号」の「市役所通」から約700メートル、徒歩9分


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