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北海道美術ネット別館

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On Kawara is not still alive. R.I.P. (河原温さんの死去に思う)

2014年07月12日 09時04分54秒 | 新聞などのニュースから
(2017年2月、文章を一部手直ししました)

 そのギャラリーは、東京・浜松町の海岸に近い倉庫街の中にあった。
 聞いたこともない会社が製造した、おそろしく速度ののろい古びたエレベーターで4階か5階まで行く。倉庫の中だけに無骨だが、広い空間が広がっており、そこに並んでいたのが、Date Painting とも呼ばれる「Today」シリーズの絵画であった。

 筆者がじかに河原温の作品を見たのは、1980年代のその一度だけである(98年の東京都現代美術館の個展は、残念ながら見ていない)。横位置のカンバスが濃い色で塗られ、そこに英語の日付(MAR.18.1970 といったふうに)だけが白い文字でかかれた絵画は、まさにコンセプチュアルアート(概念芸術)の極北であり、どうやってその作品を鑑賞したらよいのか、作品の世界に近づいていけばいいのか、まさに途方にくれたのを今も覚えている(余談になるが、この強烈な「取り付く島のなさ」は、埼玉県の美術館でドナルド・ジャッドの個展を見たときの感覚に共通しているように思う)。

 欧米で最も知名度の高い日本人美術家のひとり、河原温が死去した。
 日付や死因は公表されていない。
 ただし、数日前にツイッターで死亡説が流れていたので、既にそのときに亡くなっていたのかもしれない。
 1933年生まれ。
 50年代後半、ドローイングの「浴室」シリーズで、衝撃的なデビューを果たした。
 これは、切断された人体を、どこか漫画風のやわらかくシニカルなタッチで、閉鎖された白いタイル張りの空間の中に配したもの。
 このシリーズとほぼ同じ画風の「孕んだ女」が、昨夏に神田日勝記念美術館で開かれた「室内における人間像~その空間と存在」展で展示されている。
 90年代後半、「芸術新潮」が関係者にアンケートをとり「戦後美術ベストテン」を選ぶ大特集を組んだ際、1位に選ばれたのが、この「浴室」シリーズであった。

 しかし彼は59年日本を離れる。
 64年以降はニューヨークに住んで、作風を一変させる。デイトペインティングのような、あるいは、起床時間のみを記した絵はがきを親しい知人にあてて旅先からおくる「I Got up __」シリーズ、電報や手紙で4語文字のみを送付する「I AM STILL ALIVE」(私はまだ生きている)のシリーズなどコンセプチュアルな作品を発表し、高い評価を受ける。

 ただ、渡米後は、公の場に姿を見せることは、まったくと言っていいほどなくなった。98年の東京都現代美術館の大規模な個展は、バルセロナなど欧洲各国から巡回してきたものであるが、オープニングなどに本人が姿を見せたことはない。
 本人が姿を見せず、ただ、簡素なスタイルの作品を発表し続けることにより、この画家は自ら伝説的存在となり、生きかたすべてをもってコンセプチュアルアートを体現し続けた、と言ってよいであろう。
 ちなみに50年代にはそのような行動パターンはとっておらず、1961年の「美術手帖」誌の年鑑の名簿には、世田谷区の自宅の住所と電話番号(!)まで明記されている。

 筆者が東京で個展を見たころ、よく読んでいた「美術手帖」の「現代美術事典」で、項目があった日本人作家はわずか2人。
 それが荒川修作と河原温であった。
 おそらく現在なら草間彌生や川俣正らも記されるのであろうが、当時からまさに伝説的な存在として筆者には認知されていた。
 そして、もう半世紀近くも、半ば「死んだ存在」のように人前から姿を隠し、アノニマスな作品のみを生んできた存在の「生物学的な死」というものを、どのように受け止めたらよいのか、筆者はまたも途方にくれている。これは、一般的な「人の死」というものとは、なんだか異なるのではないか。生身の河原温はもうとっくに死んでいて、作品だけがこの世を漂っているのではないか。あるいは、河原温はこの先もずっと行き続け、Date Painting を発信し続けるのではないだろうか。どちらも妄想のようなものだが、しかし河原温が生きていることも死んでいることもなんだか「同じ事態」であるような気もしてくるのだ。

 つまり、河原の作品は、作品それ自体の強度というよりも、様態や観念の力強さにおいて、わたしたちに思考を促してやまない。
 彼のDate Painting は、単に時間を空間化・視覚化しただけのものではない。そこには、わたしたちの生きている時間とは何か、場とはどういうものかという、根源的な問いへといざなう「何か」が、有りつづけているのだろう。


 ご冥福を祈ります。
 

 なお、1日に1度(日本時間の午前2時)に「I am still alive」とつぶやく河原温のツイッターアカウントがあり、朝日新聞の死亡記事にもふれられていたが、これが本人の手になるものかどうかは、疑問視されているようだ。

 さらに蛇足だが、河原温でgoogle検索すると、左のような画像が出てくるが、この写真の人物はもちろん彼本人ではない。


□毎日新聞のニュース http://mainichi.jp/feature/news/20140711k0000e040233000c.html


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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I AM STILL ALIVE (河原温)
2017-02-19 12:00:24
電報や手紙で4文字のみを送付する「I AM STILL ALIVE」

4文字 > 4単語 に直しておいてください。
返信する
Re:I AM STILL ALIVE (ねむいヤナイ@北海道美術ネット別館)
2017-02-20 06:32:12
天国からのツイート。承りました。
返信する

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