
武田享恵(たかえ)さんといえば、金属工芸の出身でありながら、力強さみなぎる大きな立体で見る人を圧倒してきた作家です。
筆者は、これは鉄の彫刻といってもいいのではないかという思いを、いつも作品を前にして抱いていました。
そして、従来はレリーフなどの多かった道内金工の領野をぐっと広げた立役者であり、彼女の後から、道教大出身のフレッシュな金工作家が続々輩出しています。
4、5年ほど前から、錫(スズ)を素材にした作品づくりに取り組み始めました。
以前のようなパワーは影を潜めましたが、シャープな造形と、素材を生かした作りは健在です。
武田さんに対し、いろいろな感想があったそうですが、「オトナになったね―と言われました」というのが、一番ウケました。
筆者は、ガードレールや飛行機、工事現場の鋼材などを見ても「お、かっこいい」と思えるタイプですが、彼女によれば、そういう感性は少数派らしいです。
身の回りには、金属、とりわけ鉄というと
「冷たい、硬い」
というマイナスイメージが強く、日常生活で触れる金属といわれてもとっさに思い浮かばない人も多いとのこと。
これを聞いて筆者は「鍋やフォークを使わないんですかねえ」と言ってしまいましたが。
そこで「もっと上品な素材はないか」と探した末に取り組むことにしたのが錫だったということです。
冒頭画像、右端の正方形は「face」。
錫の表情を知ってほしくて制作した、武田さんとしては非常に珍しい平面(壁掛け)作品です。
支持体としてアルミニウムのフレームを使っていますが、側面に見えるのも錫です。
鍛金のように、表面をたたいて平らにしており、非常に落ち着いた錫の上品さが、感じられます。
もっとも、表面には、酸化のためにわずかな色の変化が見て取れます。
すべてを自分の力でコントロールしようとしていた過去の姿勢が変わり、自然の変化を受け入れるようになったあたりにも、作家の成熟が感じられるといえるかもしれません。

こちらは用具の数々。
いちばん手前は「SUZU-SHAKU」のI、III。
茶道具の杓も、ずいぶんモダンな装いです。
その奥は「TAKA-HAI」のI、II。
ぐいのみです。ちょっと軽くてすっきりしたお酒やスピリッツが似合いそう。

「錫四角皿」の大、中、小。
余談ですが、ジョゼフ・アルバースの抽象画を思い出しました。

「tin」。
同題の作が2点あります。
直線と曲線の組み合わせが絶妙な、キレのいい作品。
出品作はほかに次のとおり。
TAKA-KATAKUCHI I
TAKA-KATAKUCHI III
花入れ
scene I
scene II
2014年10月4日(土)~19日(日)午前11時~午後6時(最終日~午後5時)、火曜休み
ギャラリー創(札幌市中央区南9西6)
□ http://www.takae-art.com/index_j.php
■ARTISTS WEEK Vol.2 空・-Kuu- (2008)