
西辻恵三さんが、この10年ほど取り組んでいた「月人」シリーズにいったん一区切りをつける個展を開いている。
今回は2011年の作から近作まで大小の16点を展示している。
11年の東日本大震災をきっかけに自律神経のバランスを崩したこと、生と死について考えたこと、最近ようやく元気になってきたことなどは、会場で配布しているあいさつ文に詳しい。再起の第一歩の個展、ということのようだ。
11年には札幌時計台ギャラリーで個展を開いており、筆者も拝見している。
その際に展示した作品が今回も入り口附近に並んでいる。
そこから近作まで順に見ていくと感じるのは、やはり近作のほうが、緊張感が高いということだ。
11年ごろの作品は三日月に、複数の人物が配置されている。死んだ愛犬が描かれている作もある。それは、いわば「家族の肖像」である。
しかし、近年の作品は、単独者が、鈍い光の中にたたずんでいるという絵が多い。

複数の人物よりも一人で画面を構築するほうが、構図の上でははるかに難しい。
西辻さんは、ご自身で「マチエール命」と笑いながらおっしゃるほど、背景の処理には凝っているので、画面が弛緩することはないとはいえ。
左上の球は、月というよりも、直線の多い画面に曲線を入れたくて、描いているという。「丸いものがほしかったんです」
細長い人物については、たくさんの人からジャコメッティとの類似について指摘されるという。
「そういうつもりはなくて、いらないものをそぎ落としていったら、こうなった。顔も、表情があると、そちらに視線がいってしまうから、細くした。表情ではなくて、本質で勝負したかったんです。ジャコメッティのほうが先に生まれて活動しているので、言われるのは仕方ないんですが」
西辻さんは「本質」と言われたが、ジャコメッティを激賞したサルトルのひそみに倣えば、本質に先立つ「実存」を描こうとして、こういう人物像になったのかもしれない。暗い月夜に単独で存在する人間。それはあらゆる属性にかかわらず、確かに存在しているのだと。

今回の小品にその兆しがあらわれているが、これからは抽象画を制作したいとのこと。
西辻さんは全道展会友だったが2009年に退会し、国展もやめたとのこと。
小樽在住の65歳、これからは好きなように描いていきたいという思いが強いというようなことをおっしゃっていた。
人間のあり方について、考えさせられる個展だった。
2016年5月31日(火)~6月5日(日)午前10時30分~午後6時30分(最終日~午後5時)
さいとうギャラリー(中央区南1西3 ラ・ガレリア5階)