ヤングキングアワーズ 2015年11月号より
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以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)
●ナポレオン -覇道進撃- (長谷川哲也 先生)
スペイン戦線に変化が・・・?
今回の準主役となったのは、イギリス軍の司令官ジョン・ムーアさん。
正直、スペイン戦線といえば、アーサー・ウェルズリーという印象が強く、
ムーアさんについては、チョイ役程度かと思っていたのですが・・・
冒頭、部下に対して、自分の失敗についてレポートを書かせるなどして、
部下たちからは「陰湿」などと、陰口をたたかれています。
また、スペインのパラフォックスさんを相手に、
スペイン軍の作戦の稚拙さを指摘するなど、何かと厳しそうなお方でしたが、
いやはや「陰湿」などとんでもない、とても立派な御仁として描かれておりました。
ナポレオン来る!
ムーアさんの指摘通り、苦戦続きのスペイン戦線に、ついに皇帝陛下が自らご出陣。
これにより、百戦錬磨の古参兵が加わって、戦線は大きく動くと考えている様子。
マルボさんなどは、スペイン遠征軍の新兵たちも、鍛えられて強くなったと
誇らしげでありましたが、ナポレオン近衛騎兵の活躍を間近で見たことで、
古参兵の強さを肌で感じ、驚愕していたのは興味深い所でした。
そこまで違う、古参兵の強さ。
大陸軍は、ナポレオン自身の才覚もあるでしょうが、この古参兵がいてこそ、
その強さを存分に発揮できる、ともいえるのかもしれません。
いわば、大陸軍の背骨ともいえる核となる戦力。
ゆえに後年、彼らを失ったナポレオンが、精彩を欠くのも当然なのでしょうね。
ナポレオンという“頭脳”。
スペイン戦線の状況を眺めたナポレオンは、全軍に攻撃を控えるよう指示します。
が、ここで、ルフェーブルがスペイン軍を攻撃してしまうのですが、
攻撃は成功し、敵を退却させます。
しかし、ナポレオンにとって、敵の退却は計画に支障をきたす要素であり、
「お前たちは考えるな」「オレの計画に従え!!」と激高!
このあたり、大陸軍の頭脳=ナポレオンということが、ハッキリと示されていますが、
それは同時に、部下たちはナポレオンの歯車として動けば充分ということでもあり、
部下たちの可能性や能力向上を、妨げてしまうことになったのかも・・・
というのも、大陸軍で恐ろしいのはナポレオンだけで、他の元帥・将軍では、
局地的には強くとも、広い範囲での戦闘には対応できない、
といった評判もあったようですからね。
教師のような将軍ムーア。
兵士の訓練をしていた所、パラフォックスさんから
「将軍ではなく教師のよう」と評されたムーアさん。
おそらく皮肉も含まれていたであろうその言葉への、返答が素晴らしいものでした。
「兵士は機械じゃない 人間だ 学ばせるんだ」
「より多くを学べば それだけよくなる」
これは、ナポレオンとは対照的な考え方。
部下に歯車になるよう求めるナポレオンと、人間として教育を施すムーア。
その対比が、印象に残るエピソードとなっていましたね。
まあ、軍隊としては、ナポレオンのような方針の方が有効ではあるでしょうけど、
そこは、ムーアさん自身もよくわかっているようで、パラフォックスさんをいなすような
一言があったのには、苦笑してしまいました(^^;
とはいえ、人間への向き合い方という意味では、ムーアさんのやり方は立派なもので、
パラフォックスさんに対しても、丁寧に接していましたし、
また、冒頭でレポートを書かせた部下への叱咤も、公正かつ真心のこもったもので、
まことに良き上官であり、“教師”であるな~と感じさせるものでしたね。 私は好きだな。
そして、ランヌの変化・・・
敗走した軍のなれの果てを眺めながら、ネガティブな思いを抱くランヌさん。
そこに去来するのは、厭戦気分であり、これまでの彼からは考えられない
変化が起き始めていることを思わせます。
今回の「大陸軍戦報」では、フランスに厭戦感情が広がりつつあったという話が
書かれていましたけども、その変化を象徴するかのような、ランヌの心情。
彼の場合、家族ができ、その結果としての厭戦気分なのでしょうが、
この変化が、ランヌさんにとっての先行きを暗示するかのようで、不安になりますね。
スペイン戦線へとくり出したナポレオンと古参兵、そして迎え撃つムーア将軍。
さらには、ランヌに起きた心情の変化などなど、それぞれがどのように動き、
どういった運命をたどるのか・・・ 注目しつつ、今後も楽しみです!