散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

川崎市簡易宿泊所の内実~議会での新設反対の請願審査を通して

2015年05月19日 | 地方自治
報道によれば、川崎市川崎区の簡易宿泊所火災の犠牲者は6名とのこと。宿泊客は高齢ひとり暮らしの生活保護者が多い…というよりはたまり場であった…。

3年前、市役所の裏側、堀之内本町あたりに、この手の宿泊所の建築計画があり、周辺住民から反対の請願が出された。「ホテル&リゾート 2012年09月15日発売号目次」に、「【宿泊施設】○福主美商事、川崎市堀之内町に23室の簡易宿泊所・ダイキン宮本町を新設」とある。建設を見越して川崎市議会は請願を健福委で審議の末、「趣旨採択」したのだろうか。

本稿は、当時のメルマガに掲載したもので、請願審議の中に、簡易宿泊所の内実を読み取ることができる。以下、本文。

探検!地方自治体へ ~川崎市政を中心に~ 第191号 2012/9/23
★『請願「民間の迷惑施設建設に反対」審議の分析・評価』★
  ~石田和子議員(共産党)の複合的アプローチ~
 はじめに
 1.全体概要
 2.複合的アプローチと単発的アプローチ
  2-1 現実と法との裂け目~宿泊施設は「生活の拠点」か?
  2-2 法解釈と運用の固定化~宿泊料の上乗せ
  2-3 関連施策を含めた複合的議論~自立支援をキー概念に
  2-4 法律に書いていないことの取扱~4名の議員の指摘から
  2-5 住環境維持とまちづくりは同じか
 3.残された課題
  3-1 行政のチャレンジに答えられない議会~条例の検討
  3―2 住民対住民 まちづくり・住環境・迷惑施設
  3-3 自立支援のあり方~方法と官のリソース
 おわりに

1.全体概要
題材 請願第42号
「川崎区堀之内町に建設予定の簡易宿泊所に反対する」
要旨1.
 簡易宿泊所ではなく、第二種社会福祉事業宿泊所へ運営を見直す
要旨2.
 本施設は届出制でなく、地域住民の納得のうえ、許可制にする
 注…現状の法律
   簡易宿泊所
   ・基本的に衛生状態を満足すればOKの「許可制」
   第二種社会福祉事業宿泊所
   ・地域住民との協定を締結したうえでの「届出制」
審議結果=全会一致・趣旨採択
 *コメント
  要旨1は事業者、要旨2は国の意思決定によるのではないか。
  これを趣旨採択するなら、議会として今後の行動が必須。

2.審議から見出せること~複合的アプローチと単発的アプローチ
 請願の主題である「住環境の維持」の質問を始め、法的問題、施設の内容・
運営、事業者説明会、行政の立場、生活保護者の状況、自立支援の施策等、多岐にわたる質問があった。
 審議概要は「第2回定例会 健福委員長報告資料」(P3-7)を参照。
 審議の中で、石田和子議員(共産党・高津区)は、法解釈、事業者施設の実態、行政の関連施策を複合的に捉えた質疑を展開、行政に具体的な課題を認知させた。すなわち、他の議員の質問は、単発な項目の羅列であり、要望で収束させるだけであったのと比較し、一段と光るものがあった。

石田議員の質疑は複合的アプローチ、以下3点の「特徴」を有する。
(1)質問項目を有機的に関連させ、問題点を抽出する(複合的アプローチ)
(2)自ら関連資料を探査し、本請願と結びつける(2-3参照)
(3)見過ごしがちな記載から、問題点を見出す(2-1参照)

2-1 現実と法との裂け目~宿泊施設は「生活の拠点」か?
 旅館業法によって規定される簡易宿泊所が、第二種社会福祉事業宿泊所に
限りなく近い運営を行うと、その間に何らかの矛盾が生じる。それが「生活
の拠点」に表現されていることを鋭く見抜いた処がポイントだ。生活保護者
を主対象とした運営は単に宿泊ではなく、宿泊所の生活拠点化を事業者が意
識していると感じさせる。

◆石田和子 資料2:法第2条、宿泊施設の意味
 ・旅館業法は生活本拠を置くことを宿泊営業に該当させているか?
*行政回答
 ・「生活の拠点を有さないこと」は旅館業に該当するか否かの判断基準。

◆石田和子 資料3:市内の生活保護者数と簡易宿所の利用状況
 ・当該事業者の既存4施設の定員及びその中の生活保護者数は。
*行政担当
 ・4施設の定員272、そのうち、生活保護者数257。

◆石田和子 住民提供・説明会議事録:副管理人の旅館業法上の意義と役割
 ・副管理人は入居者と契約。定住が前提ではないか(特徴(3)に該当)。
*行政回答
 ・管理人の設置は必須。副管理人は事業者独自、行政は関知しない。
 ・法の原則は宿泊者を拒否できない、定住してはいけないとは言えない。

◆石田和子 上記議論のまとめ
 ・事業者施設4カ所の入居者95%は生活保護者、本施設も同様な運営。
 ・入居者は副管理人と契約必要、事業者は本拠とする人を想定している。
 
 石田議員は、実質的に第二種社会福祉事業宿泊所の運営を行っていると判断でき、行政は住民説明会を地域住民との協定に近づけるように指導はできないか、との方向を目指したと考えられる。一方、行政側は苦しげであるが、「定住」とは認めず、両者を分ける一線は維持した。それにしても「現実と法との裂け目」を具体的に明らかにし、事業者及び行政側に強いインパクトを与えたはずである。

2-2 法解釈と運用の固定化~宿泊料の上乗せ
 法律がそのときの状況、特殊な事情によって「運用」され、法解釈として「固定化」する。あたかも最初からの規則であるように「ルーティン化」し、「追随」される。ここでは更に、それを前提としたビジネスモデルによる事業展開が民間で図られる。

◆石田和子 資料3:簡易宿所と第二種社会福祉事業宿泊所との違い
 ・生活保護者の住居費は1人世帯5万3,700円、簡易宿所6万9,800円の理由。
*行政担当
 ・委員の疑問は納得。簡易宿所は1泊2,000円程度で設定。
 ・生活保護法上の運用、国も認め、横浜市、台東区でも同じ取扱い。

◆石田和子
 ・その当時の社会状況の中で、特殊事情として運用を認められてきた。
  しかし、通常より1万6,000円高い額を前提としたビジネスは、おかしい。
*行政担当
 ・非常によく判る。住宅費の特別基準の認定を再検討する。
 ・5万3,700円以内のアパート生活が可能な状況か、調査する。

◆石田和子 アパートに住んで自立する方向性を、行政は考えていくべき。
 簡易宿所の宿泊料金が高いことは「資料3」に出ているが、不思議に他の議員は聞かなかった石田議員の前に質疑した、竹田宣廣議員(みんな・宮前区)、木庭理香子議員(民主・麻生区)、松原成文議員(自民・中原区)は何も問題意識はなかったのか?松原議員は「宿泊費とは家賃か?」との質問の後、支払い方法の質問に逸れている。

 石田質問に対して行政側回答は「同感!」である。固定化した決定のなかで、おかしいとは感じても直すキッカケを掴めなかったと推定する。横浜市、台東区にも同じに感じた仲間がいたかも知れないが、ネットワークを組むことなど夢のまた夢であろう。「宿泊費」と「アパート」の具体的言質を得て、石田議員は次のステップへ進む。

2-3 関連施策を含めた複合的議論~自立支援をキー概念に
◆石田和子 ホームレス対応との整合
 ・シェルターの整備の考え方、就労自立支援センター等との関係は?
*行政担当
 ・自立支援施設は4カ所。ホームレスの窓口、シェルター的な対応。
 ・居住する施設ではなく、拠点として自立へ向け支援、形態は様々。

◆石田和子 複合的に捉えて議論の整理
 ・特殊な事情を当て込んだ事業がビジネスモデルになるのは問題。
 ・旅館業法が生活保護・自立支援室とリンクせずとの考え方は問題。
 ・ホームレスの自立に向けた事業と別ではなく、局内の連携が必要。
 ・ホームレスの収容人員も半減、定住に対する手だては更に必要。
*健康福祉局長
 ・生活保護者の経済・消費行動を対象に行う経済活動は当然である。
 ・不当に利益を得る、利用者に不利益を与えることがあれば問題。
 ・許容せずの場合、公正に配慮し、制度的に規制をかける必要。
 ・具体的には、住宅費の問題は、ぜひ検討していく必要がある。

 関連する施策である「自立支援計画」を事前に読み、就労自立支援センター機能を明らかにしたうえで、ホームレスの収容人員も半減と指摘、先の「アパート」を含めて、局内の縦割り行政を突き、「定住」問題へのアプローチを具体的に迫る。
 その結果、局長は住宅費の問題について検討を言明した。

◆石田和子 資料3:社会福祉法の住民との協定締結
 ・第二種社会福祉事業宿泊所と同等な内容のとき、
  地域住民と協定締結は可能か。
*行政担当
 ・簡易宿所は不特定多数が宿泊、規約を設けることは難をしい。

 施策間のリンクまで幅を広げた後、これまでは簡易宿所の「虚構性」を具体的に明らかにし、ここで本丸に辿り着いた感がある。複合的であると共に間接的アプローチだ。しかし、「定住」問題と同様に、「協定締結」問題も一線を画されてしまった。行政の立場としては当然であろう。
 一方、本請願に関わる状況に関し、全体として矛盾を孕むことを具体的に明らかにした意味は大きいと言える。
 以下は単発的アプローチの中から議員の盲点と感じられる質問を例示する。

2-4 法律に書いていないことの取扱~4名の議員の指摘から
 旅館業法第3条の営業許可に関し、施設周囲100m区域内にある学校、認可保育園等に対し、「清純な施設環境が害されないか」意見を聞く規定がある。ここでは認可外保育園があるが該当しないと行政側は説明する。これに対して質問・意見が集中する。

◆松原成文 資料2:法第3条第3項 意見を聞く施設
 ・認可の保育所であれば、それは申請を認めないということか。
*行政担当
 ・先の説明と同様、清純な環境を害するのか意見を伺う。
◆木庭理香子 同上
 ・認可外、認可、幼稚園、線引きで子どもをくくってよいか。
*行政担当
 ・保育所は認可が法律上の要件、意見を聞く必要がある。
◆竹田宣廣 同上
 ・法から飛び越える部分だが、認可外保育園に意見を聞けるか。
*行政担当
 ・意見を聞く施設ではないが、配慮するように事業者を指導。
◆石田和子 同上
 ・保育園の子どもにとって認可、認可外は関係なく、全く同じ。

 おそらく法の規定は「代表」を指定したのであろう。そうでなければ、近隣の、子どものいる全家庭に意見を聞く必要があるはずだ。議員が認可と認可外に拘るのは、法律文言への道徳的アプローチに思える。しかし、ここでの問題は法解釈ではないか。

 認可保育園に「意見を聞く」規定では、認可外保育園については何も規定されておらず、聞くか、聞かないかは任意であろう。また、現状の川崎市において、認可、認可外を同等に扱うのは議員諸氏の議論にあるように、特に不思議ではない。従って、市として条例、規則、要綱、要領、いずれかに認可外から意見を聞くと規定して、法律違反であろうか。竹田議員「法から飛び越える部分」との発言が、この点に関する問題意識の無さを示している。他の議員も、職員も全く同じに見える。法律に書いていないことを、法律の趣旨を勘案しながら判断することは、私たち自身がなすべきことではないだろうか。

2-5 「住環境維持」と「まちづくり」は同じか
 請願は現在の住環境を維持することを主張している。すなわち、迷惑施設への反対であり、運用の変更である。「まちづくり」そのものは請願の要旨に含まれていない。「まちづくり」を考えるならば、この種のいわゆる迷惑施設をどうするのか、ある範囲内で考える必要が出てくるからだ。

すべての地域が「まちづくり」を理由にして反対すれば、行き場のなくなる施設が出てくるのは必然だ。

◆木庭理香子 請願書:住環境(安心・安全)の維持
 ・市はどちらの立場に立って物を考えているのか。
 ・現行法の中での対応が不可能ならば、今後はどうするのか。
*健康福祉局長
 ・基本的に法令の定めに従って、行政処理を行う。
 ・事業者と住民の対立に対し、法的に公正な立場に立つ。
 ・事業者と住民が話し合い、納得するのが一番望ましい。
 ・まちづくりに法、条例があり、それに従った処理を行う。
 ・将来的に目指すことには、新たな立法措置が必要だ。

◆松原成文 請願書:住環境(安心・安全)の維持
 ・事業者と住民のトラブルを回避する新条例の方向性は?
*健康福祉局長
 ・紛争状態に関して関係法令は多く有り、野放しではない。
 ・一方的規制は良くない、事業者の活動を許容するのは当然。
 ・まちの状況に応じて的確な制度化は常に念頭に置く。

 具体的な問題を指摘せず、どちらの立場か、と迫るのは「2-4」とじく、極めて直線的なアプローチである。この方法の欠点は、立場を外されると何も言えずに、議論の行方がなくなることだ。討論の広場である議会としては好ましくない。上記の両議員に対する局長の答弁をみると、抽象的かつ常識的に、ほとんど同じことを言っている。結局は何も言質を与えていないのだ。

3.残された課題
 大きく眼についた今後の課題を三点、以下に述べる。
 1)議会による「条例」の提案・制定
 2)住環境維持と迷惑施設の設置
 3)自立支援のあり方~方法と官のリソース

3-1 行政のチャレンジに答えられない議会~条例の検討
 木庭議員「市はどちらの立場に立って物を考えているのか」との問いに、局長は「将来的に目指すことについては、新たな立法措置が必要になる」と答えた。これは議会に対する行政のチャレンジだ!「立法措置は議会の役目、必要と思うなら自分たちで作れ」と言っている(「2-5」参照)。しかし、何を言われているのか、木庭議員は理解できていないようだ。次の句は「…全く納得はできない…」である。

 松原議員「事業者と住民のトラブルを回避する新たな条例」、坂本茂議員(自民、川崎区)「関係した条例を見直すことも行政の重要な仕事」との発言に示されるように、議員が行政職員に対して「新たな条例」あるいは「条例の見直し」を要求する倒錯した意見が、委員会審議の場において、疑問なく出され、それに局長が常識的に答えると「非常に前向きなご意見」と持ち上げるのが、現実の川崎市議会の姿なのだ。

3―2 住民対住民 まちづくり・住環境・迷惑施設
 地域住民の住環境維持と事業者との対立は、実は「住民対住民」の図式になる。簡易宿所を利用する人が住民と考えれば、の話になるが。ともあれ、住民が利用者に不信感を持つ限りは「住民対利用者」の関係になる。「定住」の問題が再燃するかもしれないのだ。

 更に、まちづくりを考えると、迷惑施設の近隣にいて迷惑を被る住民と遠くにいて利益を享受する住民の対立が想定される。この「住民対住民」の最初のケースが東京都のゴミ戦争である。これはゴミの処理が集中する江東区民とゴミ処理施設の建設に反対する杉並区民との紛争であった。これこそが住民自治の論点になるのだが、ゴミ戦争は未だ後遺症を残しているようだ。

3-3 自立支援のあり方~方法と官のリソース
 石田議員が提起したように、アパートに住んで自立する方向性を行政が考えたとしても、実際にアパートを貸すことには、障害があるように思える。簡易宿所に対して地域住民が警戒心を持ったが、アパートについても事情は変わらないことは、十分予測できるからだ。

 そうなると、官が必要な施設を準備することが順序として考えられる。そこでの問題はリソースである。配分する金が少なければ、自立の支援は地域に投げ返されるかもしれない。そこまで想定すると、自立支援のあり方も変わってくる可能性があるだろう。

おわりに
 本稿は『市民による議会活動の分析・評価』の試論である。ここでの狙いは「議会審議の質的向上」と「市民生活へのインパクト」にある。その点、この趣旨採択が次の議会活動へどのように結びつくかが問題である。行政からのチャレンジを正面から受け止め、市民との対話を進めながら条例制定等へ進んでいく姿を示して欲しいものだ。

      
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