散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

投機の時代の終焉ー野口悠紀雄~アスノミクスへ向けて(2)

2015年08月28日 | 経済
半年前、原油価格がこれまでの100$/バレルから半値の50$/バレルに落ち込んだ時、米国の金融緩和への動きを含めながら、野口悠紀雄・早大顧問は連載の「新しい経済秩序を求めて」において「この10年間続いた“投機の時代”の終わりを象徴する」と述べた。

更に最近の世界同時株安の現象についても野口は、上記の同じ連載の中で、中国経済の減速と株価の下落との一般的な見方を皮相的と批判し、長期的展望の中で「リーマンショック後に続く金融市場での“世界的バブル”の終わり」と捉えるべきであって、「新たな均衡を求める動き」とポジティブに見る。

この半年の主要な動き、米国の金融緩和への志向、原油価格の大幅下落、中国経済の減速、上海市場での株価下落、そして世界同時株安を同一の視野の中に収めた野口の立脚点「投機の時代の終わり」は、筆者に対して深い洞察との印象を与えてくれた。

80年代頃まで、原油は実需だったと指摘しながら、野口は次の様に云う。
今ではヘッジファンド等が商品市場で投資するリスクの高い投機対象だ。2000年頃以降の原油価格の高騰は投資資金の動きを考えなければ説明できない。

この10年程度、世界的な規模で投機が発生した。米国住宅価格バブルから、欧州住宅価格バブル、南欧国債のバブルへと対象は次々に変わる。先進諸国、特に米国の金融緩和のため、投資資金の調達が容易なことに起因していた。

一方、米金融政策の縮小で投機資金の調達が困難になり、投機サイクルが終わった。リスクの高い投機先から資金を回収する「リスク回避」現象が発生する。原油価格の先行き不透明もあって、原油価格が急激に下落した。OPEC総会での減産見送りは、価格低下に歯止めは掛からず、減産すれば収入減少になるからだ。

以上の見方によれば、低い原油価格は、一時的な現象ではなく、低位安定が続く。それは、約10年続いた「投機の時代」が終わり、世界経済が新しい秩序に向かう動きの象徴だ。この時代に即した経済政策が求められる。原油価格の下落は、原材料価格を引き下げ、企業と個人に恩恵をもたらす。消費が増え、企業利益が増える。原油輸入額の減少は4ー5兆円程度と考えられるからだ。

政府は14年末、消費増税による景気低迷をカバーするため、3.5兆円の緊急経済対策を行なった。しかし、原油価格下落による経済効果はこれを上回る。しかも、その効果は今後も継続するから大変なメリットだ。勿論、原油価格低下による経済回復はアベノミクスの効果ではない。日銀は追加の金融緩和によって、原油価格下落の効果を打ち消そうとするからだ。

以下が野口の結論になる。
インフレ目標による物価上昇が誤りであることが明白になり、今後の経済政策の方向付けとして180度の転換が必要だ。新しい秩序の時代では金融緩和は不要だ。原油価格下落の効果を享受するため、円安を止める必要がある。必要なのは、為替相場に影響されない新たな産業がリードする経済の構築だ。

つい最近、野口が予測していたように、バブルが弾けて世界同時株安現象が起きた。勿論、それなりに回復するだろうが、世界にショックを与えたことは紛れもない事実だ。

冒頭に記した様に野口は、「リーマンショック後続いてきた金融市場での世界的なバブルの終了」と捉え、次の様に述べる。
重要な変化は、リスクオフ方向へのポートフォリオの組み換えだ。すでに数年前から、新興国への投資や商品市場では、変化が生じていた。最初に金価格が下落、次に対新興国投資、原油、新興国株価へと影響が広がっていた。それが今、日本を含む先進国株価に及んでいる。

更に、現在起きていることの基本的な背景は、アメリカの金融正常化である。すなわち、量的緩和策は、正統的な金融政策ではない。このため、量的緩和策からの脱却が求められていた。09年以降の金融緩和策の最大の効果は、レバレッジ投資を容易にしたこと。経済活動に必要なマネー供給よりは、投機資金の調達が容易になった。これが投機を煽った。

そこで、米連邦公開市場委員会が金融緩和第3弾の終了を示唆して以降、長期債利回りはすでに上昇している。その影響として、これまで述べた様に、実体経済よりは投機に与える影響のほうが重要だ。リスクオフの影響は、さまざまな面にすでに現れている。金価格、新興国、原油、そして先進国株式へと進む。

だが「新しい均衡」までには、まだ投機の要素が残る。それを克服しないと新しい均衡には到達できないだろう。

      
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