遅いことは猫でもやる

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男振(おとこぶり)

2011-11-02 12:56:47 | 
男振(おとこぶり)

池波正太郎著 昭和53年11月27日刊 新潮文庫

概ね越後筒井藩の後継ぎをめぐるお家騒動を描いたものである。
しかし通常のお家騒動者と違うのは、私利私欲に凝り固まった悪者一味の計略と正義の味方との2派拮抗しての争いで、最後は勧善懲悪の結果に終わる、水戸黄門のような物語ではない。

脱毛症になった若君の近習(実は主君の血筋を引いていた者)が、禿を侮蔑され、若君を打擲したことから始まる、不幸で、不遇な生い立ちを送ることとなる。その生い立ちゆえ、ちょっと複雑で奇妙な運命を描きながら、次第に自立してゆき、若君亡き後、擁立しようとした家老派の人々の思惑とは別の道を歩いてゆく。

著者は、各々の立場に理解を示しながら、少しほろ苦い真実と冷静で爽やかな生き方を展開する。これは全くのフィクションではなく、2つの史実を組み合わせたものらしい。画家がいろいろな要素を現実から切り取ってきて、ひとつの画面に構成するように、2つの事件からこの物語を創り上げたらしい。藤沢周平が「漆の実のみのる国」で上杉鷹山の改革を取り上げているが、これもかなり客観的に描写し、スーパーヒーローがバッタバッタと守旧派を排除してゆくという単純な構成ではなかった。

江戸時代の強固な封建社会にあって、お家第一、血筋本位の旧習にあって、このような爽やかな生き方ができるのかなあ、という疑問は若干残るが、この生き方こそ「男振」の良さなのである。

いつもながら、ちょっとした筆使いで、男女の機微、食べ物の描写は相変わらず冴えている。池波作品の面目躍如である。


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