望月衣塑子「新聞記者」角川新書 2017年刊
菅官房長官の官邸記者会見で、執拗に質問をすることで、脚光を浴びた東京新聞の女性記者の自叙伝である。
若い頃は母から影響を受け、業界紙の記者をしていた父には微かな憧憬を覚えた青春時代を過ごし、演劇に夢中の時を過ごした。そんな彼女が慶応に進学し、オーストラリアに留学したが、大手新聞社には学科で落ち続け、やっと東京新聞に入社した。
いくつかの職場を経験して、千葉支局現場に配属され、記者仲間や上司から記者魂を叩き込まれる。そこからも紆余曲折を経て、新聞記者としてのキャリアを積む。他社からの転職オファーも受けるが、「読売だけは嫌なんだ」という父の一言で東京新聞に残ることにする。現場で感じていた恵まれた環境と、それを動かす得体の知れない空気を父親は表現したのだろうが、それをフォローした東京新聞の上司の懐の広さを感じさせるエピソードである。
そして官邸の記者会見の様子になってゆくのだが、記者クラブ自体が、官邸の意を実現するような体質に変化している状況がくっきりと描かれている。その中で奮闘する著者とわずかに現れた、同志とも言うべき記者仲間とともに、ジャーナリストとしての姿勢を貫こうとしている。
イデオロギーを背景に大上段に振りかぶった語り口ではなく、女性らしい繊細な事実に基づいた、語り口が爽やかで好感が持てる。そんな気持ちにさせる好書である。